第二王子の失恋の話
コメントにあった失恋したリーンハルトの気持ちです。
私とミシェリアの従者の勘違いから始まったジルとアイリーン嬢の仲を取り持つ為の一大プロポーズ企画は無事うまく行き、今は……ミシェリアとその従者がキラキラとギデオンの魔法の光を浴びながら幸せそうにダンスを踊っている。
「まさか、この私が男爵家の男に負けるとはな。」
初恋の相手が嬉しそうに他の男とダンスをする様子に思わず自嘲的な笑みがこぼれる。
ミシェリアの友人として幾度となく恋人の話は聞いていたのに、それでもあの日ミシェリアから付き合っていると話を聞かされた時はまだ私にもチャンスがあると思っていた……。
「すみません、私のような従者が皆様にお願いするのは厚かましいとは存じておりますが、どうか協力していただけないでしょうか?」
ジルとアイリーン嬢のプロポーズ作戦を考えていたある日、ミシェリアの従者が頭を下げてそう切り出してきた。正直、ミシェリアにこの男と付き合っていると聞かされた時、冗談だと思った。庶子とはいえ、伯爵家のミシェリアが男爵家の五男なんて言うほとんど庶民と変わらない男と付き合っているなど信じられるはずもなかった。
相手がジルなら、私もマティアスも認めるジルベスターなら、ミシェリアを諦められたのに。
「……そうだな、話を聞こうか。」
思わず低い声になってしまう。なぜおまえなんだ。なぜ、私じゃないんだ…。
「っ。その、マーキス様が告白した後に、私にもお時間をいただけないでしょうか。」
私の表情に気付いたのか、その従者はびくりと身体を震わせる。
「なんだ、何かやりたいことでもあるのか?」
隣にいるジルがいつもの無表情でそう聞いた。その場にいたマティアスやギデオンも動きを止め、その従者の言葉に耳を傾ける。
「その、皆さんもご存知かとは思いますが、俺は、お嬢とお付き合いさせていただいております。」
そんなことは知っている。なぜおまえが。ふつふつと醜い嫉妬心が浮かび湧き上がる。
「俺は、男爵家の出で、身分が低い。それでも、ミシェリアを愛しています。どうか、俺にもプロポーズをする機会を与えてはもらえませんか?」
「何を、言っているんですか。ミシェリアさんは伯爵令嬢ですよ?私たちはあなたがそのうちわかれることを前提にあなた方の交際を黙っているんですよ。それに、たとえプロポーズしたとしても……。」
マティアスが顔をしかめてそういった。そうだ、いつか必ず分かれる運命にある。身分が、違いすぎるからだ。
「?どうしてわかれる必要があるんですか?」
ギデオンも確か出身は庶民の出だったはずだ。わからなくても仕方がない。だがどうしてジルまで首をかしげているんだ…っ!?
「…身分が違いすぎるからですよ。アール伯爵家にはミシェリアのほかに子供はいません。つまりミシェリアの結婚相手が次の伯爵家当主になります。下手な血は混ぜれないでしょう。例え想いを貫いて婚約に持ち込んだとしても後ろ盾のいない彼ならすぐに殺されてしまうのが落ちですよ。」
マティアスがこめかみをもみながらそう言った。
「この世界で、肩書に囚われずに生きるというのは、難しいんだよ……。たとえそれが私のような一国の王子であってものだ。」
ぐっと手を握り耐えるように下を向く従者に思わず同情してしまう。先ほどまでのどろどろとした嫉妬心よりも同情心のほうが勝る。身分や肩書に人生が左右され、それのせいで身動きが取れなく感覚を、私は嫌と言うほど知っている。
「それでも、例え殺されたとしても、俺は、ミシェリアを諦めたくないんです。」
自分よりも一回りほど年上の大人が、泣きそうな顔で笑ってそう言った。
「お願いします。きっと俺は、このままミシェリアと別れることになったら、…俺は一生後悔します。お願いします、庶民の私に力を貸す事は、上流貴族の皆様には、抵抗があることはわかります。それでも、お願いできませんか?」
その言葉を聞いて、直感的に私はこの男に勝てないと思った。
きっとミシェリアはこの男のこういう部分が好きになったんだろう。身分も恐怖も乗り越えて自分を愛してくれるこの姿勢に。
「俺は構わん。というよりも、ミシェリアは俺にとっては家族みたいなものだからな。幸せになってもらわないと困る。」
真っ先にジルが答える。
「僕も構わない。ミシェリア先輩が、それで幸せなら…。」
おそらくギデオンもミシェリアを少なからず思っていたのだろう。ぎゅっと胸を握りしめ耐えるようにそう言って薄く笑った。
「………そう、ですね。そこまでミシェリアさんを思っていらっしゃるならそのお手伝いはして差し上げますよ。たぶん、ミシェリアさんもそれを望んでいる。」
マティアスはもうすでに自分の気持ちに折り合いをつけていたのか案外すんなり承諾した。なんだかんだ言って優しい性格のマティアスは純粋にこの従者のことを心配していたのだろう。
他の面々が快く引き受けたのに自分だけが渋るのも男らしくないな。
「そうだな、私も協力しよう。だが、君のためじゃない。ミシェリアのためだ。まあミシェリアに振られても私がミシェリアをもらい受けるから君は安心してくれ。」
その言葉で私がミシェリアのことを好きだったと気づいた従者は顔をひきつらせた。
「リーンハルト?どうしました?」
横に立つマティアスに声を掛けられふっと意識を戻す。
「いや、何でもない。」
音楽が止み、ダンスホールの中心で幸せそうに泣き笑いを浮かべるミシェリアをあの従者が抱き上げる。
「それにしても、あの二人の婚約を貴方が保証するとは思いませんでした。なぜあのようなことを?」
そう、今回の計画に私が二人の婚約を認めるなんてことはなかった。
「そうだな。だが、あんな表情のミシェリアを見たら応援するしかないだろう?彼女にバッドエンドは似合わない。」
そういって笑うとマティアスは苦笑いを浮かべる。
「私は、リーンハルトがミシェリアさんを幸せにするならと身を引きました、私では力不足だと。なのにミシェリアさんを幸せにするのはあなたでもなく、あの従者だったとは……。」
「ははっ。私はジルがあの子を幸せにすると思っていたよ。まったく……それも見当違いだったわけだが。」
ファーストダンスが終わり次の曲を踊るために色とりどりの服を着た生徒たちがダンスホールに進み出て、くるくると楽しそうにダンスを踊る様子を眺める。
「今度、失恋したもの同士集まりましょうか。淡い恋心を語り合ってこの思いを昇華しましょう…。」
「それは、いい考えだな。ギデオンも呼ぶか…。」
「そうですね。」
まだミシェリアのことを思うとつきんと胸が痛くなるが、こうやって友と話しているとほんの少し胸が軽くなる。
「持つべきものは友とはよく言ったものだな。」
たぶん初恋に振り回されて周りに迷惑をかけながら、友と過ごしたこの一年はいつの日か過去になり、思い出になり、私を支えてくれるだろう。
これが私の初恋と、その初恋が散るまでの物語。
「ミシェリア、幸せに……。」
マティアスとギデオンは恋になりかけの憧れの気持ち。
リーンハルトは好きだったけど、ミシェリアのために身分を乗り越えるテオさんに負けたなって思って身を引きます。
この後マティアスとリーンハルトは男子会でお酒を飲んで延々ミシェリアのことについて語り合って、ギデオンはそれを介抱します。
※この世界ではお酒に関して特に規制する法律はありません。
実際にミシェリアさんがテオを好きになったきっかけは顔だったんですけどねっ!!




