=ある女のプロポーズ=
ついに卒業パーティーが始まる。私たち生徒会メンバーは大広間の端でで全生徒が入室するのをじっとまっているのだが、今日のジル君のプロポーズが成功するかが気になってドキドキしている。
「ミシェリア、大丈夫だ。」
後ろに控えているテオが私の緊張を読み取ってそっとささやいてくれる。不思議なものでそう言われると固く絡まっていた緊張の糸がゆるゆるとほどけていくのがわかる。大丈夫、うまくいく。というかうまくいかないと絶対ジル君が壊れる。確実に公衆の面前で大号泣する。いや、そうなると逆に優しいアイリーンちゃんのことだからジル君とよりを戻すんじゃないの?え、ダメ??
そんなどうせもいいことを考えているうちに真っ白なウエディングドレスを身にまとったアイリーンちゃんを連れてジル君が入場してくる。生徒が全員入室したのを確認して私たち生徒会メンバーはリーンハルトを中心にダンスフロアの真ん中へと歩み出る。それに合わせてジル君も私たちの横に並び立つ。
「さて、さっそくパーティーを始めたいところだがその前に一つ済まさねばならないことがある。アイリーン・フュルスト。前に来たまえ。」
その言葉に恐らく勘違いしたままのアイリーンちゃんが覚悟を決めたような納得したような表情で歩み出てくる。
「アイリーン。貴女に話がある。」
「……覚悟、しておりますわ。」
痛いくらいの静けさの中ジル君がおもむろにその場に跪く。
「私、ジルベスター・マーキスは騎士の誇りにかけて、我が生涯をアイリーン・フュルストに捧げることを誓う。」
そう、騎士の誓いだ。これを今回の公開プロポーズに組み込むのに本来この誓いを受ける主君になるリーンハルトから反対意見が出るのかと思ったのだが、意外なことにリーンハルトはジル君がアイリーンちゃんに誓いを立てることを快諾してくれたのだ。
ジル君がなぜと涙を流しそうに表情をゆがめるアイリーンちゃんに愛していると伝えるとついに耐えきれなくなったのかアイリーンちゃんの若菜色のきれいな瞳からぽろぽろと涙がこぼれ始める。
「よしっ!今この場で騎士の誓がなされたっ!リーンハルト・フォン・ストウハーフェンとこの場にいる諸君らすべてが証人だっ!」
リーンハルトの凛とした声が会場に響き渡りそれを皮切りに大衆から大きな歓声が上がる。
「よし、テオっ!今度は私たちの出番だよっ!!」
「はい、お嬢っ!」
驚いた顔で涙を流すアイリーンちゃんのドレスの切り返しになっているウエスト部分に着脱式の長いスカートを取り付け、花冠にも前部分のベールを追加で取り付ける。そしてギデオン少年が魔法で育てた色とりどりの花々でできたブーケを持たせるとどこからどう見てもかわいいかわいいお嫁さんの完成。
アイリーンちゃんの準備が終わったのを見てすっとマティアスが手を挙げるとざわついていた観衆が口を閉じ再び静かになる。
「アイリーン。私、ジルベスター・マーキスは健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、貴女を愛し、敬い、慰め、助け、この命ある限り真心を尽くすことを誓います。だから……。」
静かになった生徒たちの視線を一心に受けながらジル君はよどみなく前世でよく使われていた結婚の誓いの文句を述べる。
「だから。アイリーン嬢、僕と結婚してください。」
「はいっ。こち、こちらこそ、よろしくお願いいたしますっ。ジルベスターさまっ!!」
涙で溺れちゃうんじゃないかってくらい涙を流すアイリーンちゃんはとっても幸せそうで見ている私まで涙が出てくる。
「それでは誓のキスを、お願いします。」
マティアスが神父の真似事をし、ジル君がそっとアイリーンちゃんの顔を隠すベールをとった。二人に聞こえる声量で二人が何かをささやきあい、ふっと幸せそうに微笑んでそっと誓のキスを交わす。今までのわだかまりを溶かすように熱く、それでもいやらしくない清廉な口づけは神様に永遠を誓うのにふさわしいと思った。
さあこの後はジル君とアイリーンちゃんの二人でファーストダンスを踊ってパーティーの始まりだ!と息巻いていたのだがなぜかジル君は私のほうにブーケを投げてよこし、アイリーンちゃんをお姫様抱っこで連れ出そうとした。
「ミシェリア!今度はあんたの番だぞっ!!」
そんなセリフを残して。余計なお世話よ!!私はテオのためならいつだって待ってやるんだから!!と頬をぷくっと膨らませているとテオが私の前にひざまずく。
「え、ええ??ちょ、テオっ!?」
「ミシェリア、マーキス様の二番煎じだけど今宵俺もあなたに伝えたい言葉がある。」
驚く私とは裏腹に生徒会メンバーは落ち着いている。は、図ったな!!私に黙って何かやってると思ったらこんなことやってたの!!?!?
「俺は爵位の低い男爵家の五男だ。それにミシェリアよりも10も年上で、その上あなたの従者です。それでも、…だからこそ俺はあなたを諦めようとしたこともある。でもできない、できなかったんだ……。あなたを、愛しているから……。」
テオが泣きそうな声でそういう。私やジル君やアイリーンちゃんは前世の記憶がある分貴族の階級文化に少し鈍感なところがある。でもそれがどれだけ貴族にとって大切なことかテオやほかの生徒たちが身分で深く悩んでいるのを見るたびに理解はできないが知識としては知っている。なのにテオは公衆の面前で、下手したらお父様に今後殺されても仕方がないことを宣言してくれているのだ。こんなのうれしくないわけがない。
「あなたが、好きです。愛しています。あまりにも身分が違いすぎる、分不相応だと罵られてその末に殺されたってかまわない。ミシェリア、俺と結婚しよう。お嫁さんになってほしい。」
ぼろぼろと涙がこぼれて嗚咽のせいで言葉が出ない。引くつく喉を押し殺して返事をしようとするのに返事ができない。だから私は跪いたテオに勢いよく抱き着いた。
「っと!」
驚いたテオの声が耳元で聞こえる、相変わらず鍛えた体は私を軽々と受け止めてくれる。
そっと涙で濡れた瞳で見慣れたテオのかっこいい顔を見上げてその薄い唇にキスをする。
「だいすきっ!わたしも、テオがすき!!お嫁さんに、してくださいっ!!」
きっと涙でぐしゃぐしゃになった私の顔は今まで一番ぶさいくだろうにテオはそんな私を見てひょいとお姫様抱っこで持ち上げて、今までで一番かっこいい顔でほほえんだ。
「ここにもう一組の婚約が成立した!!これは私リーンハルト・フォン・ストウハーフェンの名において保証された婚姻である。何人たりとも犯すことのできない確固たる婚約だ。………ミシェリア、おめでとう。」
凛とした声とは裏腹に少し寂しそうに笑ったリーンハルトの顔が印象的だったが、ここでそれを追求するのも無粋だろう。今度こそ私は満面の笑みを浮かべた。
「では、いなくなったジルベスターたちの代わりにファーストダンスを踊っていただきましょうか。」
すこし呆れたような顔で微笑んだマティアスがすっと手を挙げるとダンスの曲が始まり、ギデオンの魔法で私とテオの周りがキラキラと光り輝く。
「ふふ!まるでお姫様みたいだね!」
「俺にとってはミシェリアだけがずっとお姫様だったよ。」
恥ずかしさで俯きそうになった私をひぱってテオがダンスリードを始める。
そうしてやっと長かった全校生徒を巻き込んだ卒業パーティーの余興がおわり、今度こそ卒業生のためのパーティーが始まる。
これは元喪女の私が乙女ゲームのヒロインとして愛する人と婚約するまでの話。
優しい旦那様と可愛い子供たちに囲まれ、貴族にしては小さな家で幸せに暮らすのはまた別のお話し。
というわけで乙女ゲームの攻略キャラだけど(( 2部完結いたしました。読者の皆様ここまでお付き合いくださいましてありがとうございます。
元々このお話は思いつきで書き始めた1部ではほとんど出番のなかったキャラを書きたくて書き始めたお話なのですが、ほんとに思いつきで始まった作品だったので詳細が決まっておらず、1部の内容と矛盾しないように書くのが一番大変でしたw
この後は何話かミシェリアの後日談を上げてから、3部を投稿する予定です。
よろしければ今後ともお付き合いくださいませ。




