=ある女の怒り=
ジル君がアイリーンちゃんを追いかけて去った後、女子生徒に囲まれていた私は通りがかったテオに回収されました。
「ああ、あなた方がうちのお嬢を貶めようとしたことは今後社交界で存分に返させていただきますので悪しからず。」
最後にそういってご令嬢たちにとびっきりの笑顔を向けたテオさんに聞きたい、たかだか子供のいたずらでどうやって社会的にダメージを与えているのであろうか。怖いから聞かないけどさ!!
「ミシェリア、以前にこうやって呼び出されたことはないのか?」
「だ、大丈夫だよ!!今回が初めてだし、それにたいしてこともされてないしさ!!」
部屋に帰った後テオは私の少し赤くなった頬をその長い男らしい指で優しく撫で、いつも以上に心配してくれる。おかしい…普段はここでちゅーの一つでもかましてくるのに今日はない!ど、どうしたの!!?いつものオラオラ系お兄さんキャラはどうしたの!?逆に私がどぎまぎしてしまう。
「ミシェリア、ごめんな。今度からは必ず俺が守るから。」
「ひゃう!?」
キス魔のテオが今日はキスせずにぎゅっと私を包み込むように抱きしめながら耳元でささやくその声に思わずびくりと身体が跳ねる。ちょっと意地悪なテオに訳も分からず翻弄されるのもいいけどこういう優しいテオにただただ甘やかされるのもきゅんとくる。素敵!!
しばらくいつも以上に甘いテオにいちゃらぶしていたのだが、なぜかマティアスの従者が部屋に来て明日の朝一に生徒会室に来るようにと書かれた手紙が渡された。
「?何かあったのかな?」
「さあ…とりあえず行ってみないとわからないな。」
その日はテオと二人で首をかしげて眠りについた。
次の日手紙の指示通り朝一で生徒会室に行くとうなだれたジル君とそれを心配そうに見つめるギデオン、どうしていいのかわからずうろたえるマティアス、必死に何か聞き出そうとしているリーンハルトの四名がいた。
「え、ちょ、どういう状況??」
「ああ!ミシェリアさん!いいところに来てくださいました!!」
私に気付いたマティアスが駆け寄ってくる。
「実は昨日、夜になるまでジルベスターが帰ってこなかったので探しに行ったらあの状態で空き教室で立ち尽くしていたんです!!」
なるほどわからない。もっと詳しい情報をもとめてジル君に目を向けると。今まで見たことないような絶望した顔でこちらを見ていた。
「ミシェリア…。」
「な、なに?」
声をかけるかどうか悩んでいるとジル君から声をかけられる。騒いでいたギデオンとマティアスも口をつぐみ、ジル君の言葉に耳を傾ける。
「アイリーンに、誤解されて拒絶された、つらい。ついでにお前との仲を疑われた。」
「……は?」
「というよりアイリーンみたいな女神を前にしてお前みたいな女と恋に落ちるか?普通落ちないだろ?いや、他の誰が落ちたとしても俺だけは絶対に落ちない。だいたいお前は女というよりも姉とか妹とか女カテゴリーに分類されてないから恋に落ちようがない。そうだろ?アイリーンだぞ?女神だぞ?あれだけかわいい婚約者がいてほかに目を向けることはあるか?」
「ちょ、ジル君ひどくない?」
矢継ぎ早にそうまくしたてるジル君に私以外の四人がぽかんとしている。いや、テオだけは私をお前なんか呼ばわりしたジル君を睨んでいる。ちょ、やめたげて!!今ジル君傷心中だから!!!
「え、待って、待って。そもそもなんで誤解されたの。」
「お前のとこの従者とリーンハルトが俺にお前との関係がないかとかあらぬ疑いをかけてきたからだ。俺にアイリーンかミシェリアかどちらかはっきりしろと言われたのをアイリーンが陰で聞いててそれで誤解されたんだよ…。」
ぼそっと普段よりも低い声でそういうジル君にリーンハルトとテオが体をびくりと震わせる。は?何それ嫉妬イベントとライバルイベントのこと?え、なんでそんなの起こってるの?私この間ジル君と仲そんなに良くないって否定したよね!?
「テーオー!!?もう!!私この間否定したよね!?なんでそんなこと言ったの!!?そんなに私のことが信用できなかったわけ!?」
「ご、ごめん。」
とりあえず恋人のテオにジル君との関係を疑われたことがショックでテオの腕を軽くたたく。
「それにリーンハルト先輩も!なんで私がジル君なんかと恋すると思ったんですか!?私ジル君はアイリーンちゃんラブだって言いましたよね!?」
「すまない…。」
くるっとリーンハルトのほうを向いてそう怒鳴るとばつが悪そうな顔でぼそっと謝られる。ついでにジル君にも言ってやろうと詰め寄り襟元を掴んで怒る。
「ジル君も!!私言ったよね!?アイリーンちゃん至上主義なのはいいけど誤解されるよって言ったよね!!?私のいったとおりじゃん!!」
「…悪い。」
「な、なんだかミシェリアさんジルベスターと仲良くありませんか?」
遠慮なくジル君を怒る私にマティアスがそう言った。
「まさか!ジル君は私にとって手のかかる弟みたいなものだから!そもそもジル君と男女の仲とか絶対無理!!私が好きなのはテオだから!!!」
腰に手をあててそう宣言するとジル君を除いた四人が目を見開いて驚く。テオだけはすぐに頬を少し染めて嬉しそうに微笑んだ。
「とりあえず、今回ジル君とアイリーンちゃんの仲がこじれたのは間違いなく君たちのせいなんだから反省しなさい!!ジル君はお姉さんと面談です、くよくよしない!まだ婚約解消されたわけじゃないんでしょ!?」
今回マティアスとギデオンは何も悪いことしてないんだけどついでなので厄介払いし、ジル君の背中をバシバシ叩いて気合を入れてやる。
ちょっとおちこんだリーンハルトやマティアスとギデオンに質問攻めされて焦るテオを横目にジル君にそっと気づいたことを耳打ちする。
「ねえ、アイリーンちゃんと話した内容詳しく話して。」
すこし戸惑ったがジル君はぽつりぽつりとアイリーンちゃんとのやり取りを教えてくれたのだが、やっぱり違和感がある。
「ねえ、もしかしたらなんだけど、アイリーンって記憶があるんじゃない?そうじゃなかったら、ピンポイントでイベントを見てそこまで不安にならないでしょ。」
しかも卒業パーティーはアイリーン断罪イベントの舞台だから、アイリーンちゃんが転生者でこの先の展開を知っているとしたら納得がいく。
「そ、うか…。俺とミシェリア以外が転生者の可能性は考えてなかったな。」
そこで頭に一つのアイデアが浮かんだ。
「ねえ、いっそのことその断罪ベントを利用したらどう?」




