従者の記録:従者の決意
あの日生徒会室でリーンハルト第二王子とデューク公爵子息のお2人が話していた内容が頭から離れない。
この間の相談相手、これが何を意味しているのかわからないがおそらく最近リーンハルト様とたまにお話していることがあるのでその時の内容のことだろう。それに関わってくるのがマーキス侯爵子息と仲がいいんですねと言うデューク様の言葉……。どれだけ考えても悪い方向にしか考えられない。もしかしてミシェリアは、お嬢はマーキス様を好きなんではないだろうか……。しかしマーキス様には婚約者がいらっしゃる、だから俺をその代わりとして見ているのではないだろうか。実際ミシェリアはたまにマーキス様をじっと見つめることがある。それがミシェリアの気持ちの答えなのではないだろうか。
不安ばかりが心に積もる。所詮爵位の低い俺なんてミシェリアから別れを切り出されてもそれに抗えるだけの力も魅力もない…。
いや、そんな事いくら考えたって俺から出来ることなんて何も無いんだ。ならせめて、ミシェリアが本当に望む人のところに行けるように、できるだけ傷つかないようにしてやるしかない。
マーキス侯爵子息……婚約者がいるのにお嬢を気をかけている、そしてお嬢もそんなマーキス様のことを少なからず思っている。もしマーキス様がお嬢のことを想っているのであれば俺は潔く身を引こう…、でもマーキス様が本気じゃないのなら、例え恩のあるアール伯爵に歯向かう事になったとしても俺がミシェリアを幸せにする。
そしてミシェリアがまた俺を撒いてひとりでどこかに行ってしまわれた時、こういう些細なことですらマーキス様と会っているのではないかと不安になる、ちょうどマーキス様が人気のない廊下で1人歩いているのを見つけて思わず声をかけてしまった。
「マーキス様、今お時間よろしいですか?」
「……?なんだ、ミシェリアの従者か、何の用だ?」
従者の顔なんて覚えても何の得にもならないので大体の貴族は俺のような従者には見向きもしない。それなのに俺をみてすぐさまミシェリアの名前が出るほどにはミシェリアのことを気にかけているということか…。
「マーキス様。はっきりして頂いてよろしいですか。」
「……なんの話だ。」
周りに人はいないが万一誰かに聞かれたらミシェリアの立場が悪くなると名前は出さずに核心だけついたのにマーキス様は心底不可解だと言わんばかりの表情でそういった。わからないふりをしているのか、よほど鈍感なのかどちらだ……。
「……しらを切るおつもりですか。」
「しらも何も、何のことかわからないな。」
本気で、本気で分かってないのか……?あれだけミシェリアの視線を受けてお前もミシェリアを少なからず気にかけていたんだろう!?それをミシェリア側の俺から問い詰められてわからないのか!?もしかして最近仲良くしてるあの件かな?くらいでもなにか心当たりくらい普通あるだろっ!!?
「……あんたにはフュルスト侯爵令嬢がいるだろ。お嬢を、ミシェリアをどうするつもりなんだ。」
「どうするも何もなぜミシェリアとアイリーンが出てくる。」
何を言っているのかわからないと言いたげな表情にふつふつと心の中で怒りがこみ上げてくる。あれだけお嬢に思われる様なことをして結局どうでもいいと思っていたのか…?ならお嬢の気持ちはどうなる?あの子は少なくとも無意識のうちにお前を目で追ってしまうくらいにはお前のことが好きなんだぞっ!!婚約者がいるのを知ってなおお前の事が好きで、迷惑をかけまいと心を押し殺しているのにっっ!!
そう思ってしまったら我慢の限界だった、爵位だとか外聞なんて気にする余裕がなくなる。
「しらばっくれるな!!侯爵令嬢がいるのにお嬢に気をかけているのは知っている!お嬢を幸せにする気がないなら、これ以上あいつを惑わせるな。」
驚いた表情のマーキス様を置いてミシェリアを探すためにその場を後にする。例えミシェリアがマーキス様を好きだろうと関係ない。少なくとも今ミシェリアの恋人は俺なのだからその気持ちが俺に向いていないならこれから少しずつ俺に惚れさせればいい。
俺なら、俺なら絶対にミシェリア以外を見たりしない、靡かないし不安にだってさせない。必ず、幸せにする……。だから、
「ミシェリアっ!どうか、俺を選んで……。」
ミシェリアがマーキス様を好きな可能性、ミシェリアがマーキス様を無意識のうちに目で追っている事実、マーキス様がミシェリアを名で呼び少なからず気にかけている事実。そのすべてが心に突き刺さりじくじくと傷口が熱を持つ。耐えきれずに胸を抑えてその場にしゃがみこんだ。
爵位がなんだ、生まれがなんなんだっ!!誰を親に持つか、何番目に生まれてきたか、そんな自分ではどうしようもないことのために恋一つまともにできない……。男爵家に生まれていなければ、せめて5男じゃなければ。どうしようもないもしもばかりが頭をよぎる。
ミシェリアと付き合う前なら諦められた、俺にはすぎた夢なんだとお嬢の幻想を胸に他の誰かと普通に恋に落ちて普通に結婚することだってできただろうしそうするつもりだった。
でも1度手に入れたらだめだ、それがどんなに分不相応だと知っていても俺から手放すことなんてできない……。
未だじくじくと主張する胸の痛みに耐えまたミシェリアを探し始める。例え俺がお嬢のそばにいられる時間が残り僅かだとしても、できうる限り長くお嬢のそばにいたいから。
テオさんはミシェリアとかジル様と違ってがっつり階級社会の中で生まれ育った人間なので身分差にめちゃくちゃ悩んでます。
あとどうしても現代日本と貴族社会とでは常識が違うんで、ミシェリアとジル様はちょっと貴族的な部分で鈍感だったり常識外れなところがあります。
今回のはそれが積み重なっての誤解ですね。




