~男たちの想い~
ギデオン~恋の芽生え~
最近僕は図書館2階の資料室前の人気のないテーブルである人たちを待っている。
1人はジルベスター・マーキス先輩。ある日ふらりと現れたかと思うと僕が失礼にも怒鳴りつけたにも関わらず我関せずといった態度を貫く不思議な先輩。この不気味な髪を魔力の強い証だと認め、僕が養父にあこがれるのを唯一ばかにしなかった人。僕の養父のラザール・バイカウントは王宮の筆頭魔導士として王国で最も権力のある人のうちの一人だ。養父はこの黒い髪のせいで周りに受け入れられず静かに死を待っていた僕をスラムから救い出し、さらには義理の息子として養子にしてくれたのだ。そんな養父に憧れを抱くのは当然の流れだった。しかし周りは悪魔の取り換え子と呼ばれる僕が養父に憧れを抱くことすら許してはくれなかった。皆が口をそろえて反対し怒声を浴びせてくるなか、マーキス先輩だけが認めてくれたのだ。思わず目からあふれ出た涙をぬぐうために差し出されたハンカチとその心遣いに僕はついに涙を抑えることができなくなったんだ。
その後もマーキス先輩は猫のように時々思い出したようにふらりとやってきては、何を言うでもなくただ黙々と魔導書を読みふける。その静かな空間が何よりも心地よかった。
そしてもう1人が最近出会った、正しくは再会した、ミシェリア・アール先輩だ。マーキス先輩と出会って以降多少丸くなった、…と自分では思っているが、それでもやっぱり初対面の相手を警戒してぶっきらぼうに答える僕に気を悪くした様子もなくにこやかに答えてくれる。それでもついつい嫌味っぽく僕を嗤いに来たのかと、…僕の髪が気持ち悪くないのかと、聞いてしまった。
「むしろ私は好きだよ、黒髪。きれいでしょ、それにかっこいいじゃん。」
目を細めて何でもないように答えるミシェリア先輩の横顔は今まで見た誰よりもきれいで、ついついぶっきらぼうに答えてしまう。その後、僕がまだスラムで暮らしていた時に一度だけ僕を助けてくれたオレンジの髪のかわいい少女の正体がミシェリア先輩だということがわかった。結局ミシェリア先輩は彼女の従者にすぐ連れていかれたのだがミシェリア先輩が最後に言った勉強会の話を気づけば楽しみにしている僕がいる。
きっと僕はこの初めての時から、この黒い髪の毛と他のやつらより数段いいらしい頭の出来のせいで幼いころから迫害され、妬まれ、蔑まれてきたせいでひねくれた性格の僕に初めて真正面から向き合って認め受け入れてくれた見シェリア先輩を好きに…なっていたんだと思う。
リーンハル ~初恋の君~
私は最近初めて恋を知った。
「こういう時にジン君がいてくれたらなー。」
ふいに聞こえてきた1人の女子生徒の頼りない声。その少女が私の友人の一人であるジルを呼んだと思い、実際には別人だったのだが、思わず声をかけたのが始まりだった。私から声をかけたのにまさかの人違いというのが妙にばつが悪くてごまかすようにその少女の憂いを少しでも晴らしてやろうと話を聞くことになった。
聞き始めてほんの少し後悔する。まさか、恋の相談とは思わなかった…。恥ずかしい話私は王国の第二王子としてふさわしくあらねばと自分を律していた、と言えば聞こえはいいが単純な話今まで一度も女性を好きになったことがないのだ。ましてや恋人などいたためしがない…。これにはまあ私の異母兄のご母堂である現王妃がかかわっているのだが。
「それで、その…その人にき、キスを…されて…。でも、その後は特に何も…。」
相談するのにも恥ずかしいのか顔を赤く染めてその好きな相手を語る少女は今まで私が接してきたどの女性とも違っていた。私の周りにいたのは母のように常に正妃の存在におびえ私に縋りつくような人か、王妃殿下のように私を邪魔もの扱いしないがしろにするような人か、貴族社会に数多いる私に媚びを売る人の三種類だ。確かこの少女はアール伯爵の庶子だったはずだ。それならばなるほど垢ぬけていないのも頷ける。
「ふむ、なるほど……。で、君はどうしたいんだい?」
「え?」
彼女の話を聞いても恋というものはいまいちよくわからなかったが、彼女がどうしたいのかは手に取るように分かった。自分の中ではもう答えを出していたのだろう、ただそれを整理するのに誰かに話をしたかっただけらしい。
「また、悩んだ時は話を聞いていただいてよろしいですか?」
他の誰とも違う素直でまっすぐな瞳を私に向け、無邪気な笑顔を浮かべる少女にほんの少し胸の奥で何かが動いた気がする。
「いいよ。これも生徒会の役目だからね。」
だから思わずそう言ってしまったんだ。
数日後にその例の彼とうまくいったことを報告してくれる彼女。名前をミシェリアというらしい。私がほんの少し冷やかすつもりで例の彼のことを聞いたら勢いよく食いついてきてひたすらその彼がどれほど素晴らしいのかを語られた。例の彼の話をするときのミシェリアのきれいな瞳に私なんて全く映って居なくてほんの少しさびしさを感じる。ミシェリアの話す一言一言にはどれだけその例の彼を思っているのかがうかがい知れた。一途に彼を思い続けるミシェリアの瞳が、私に向いていればいいのにと無意識に考えハッと気づく。たぶん…ミシェリアが私の知るほかの女性の誰とも違うと感じた時から、ミシェリアの無邪気な態度に恋をしていたんだと思う。これがきっと私の初恋。
マティアス ~私の好きになった人~
初めて彼女に会ったのは、三年に上がってからとった魔法理論応用学の授業だった。
窓際に一人で座っていた彼女は陽の光を浴びてキラキラと光っていてどうにも私の視線をとらえて離さない。つい隣に座ってもいいですか?なんて、教室の中にはまだまだ空席があるのにそう聞いていた。
でも今思えばそう聞いておいてよかったですね。講義中に必死に板書をとる彼女を不思議に思いしばらく観察してみると、教師が言った言葉を一言一句聞き漏らさんと言わんばかりに書き取っていた。そんな彼女のノートには、おおよそ魔法理論には必要のないようなざつがくまできっちりメモされていた。
恐らく、教師の話すことのどれが講義に関係のあることでどれが関係のないことなのかわかっていない、つまりそもそも魔法理論を理解していないのだ。そんな知識で応用学なんてとれるはずがないでしょうに…。講義後にそれを指摘してやり、親切心から勉強を教えてやろうとすると従者に連れられてどこかに行ってしまった。まったく…、あんな調子でこの講義が見につくとは思えませんね…。
それからも講義を受ける際は必ず彼女の、ミシェリアさんの隣に座ることにしているのだが彼女は非常に努力家だと思う。授業を重ねるごとに、日を重ねるごとに彼女は確実に知識を身に着けている。だが、それをひけらかすこともせずただひたすらに努力する彼女に自分を重ねた。この王国の宰相という重要なちいにつく父はまさに天才と呼ぶにふさわしい人なのだ。父はその才能ゆえに仕事一辺倒で家庭を顧みない人で、母はそんな父の気を引きたくていつも私は二の次にされていた。ただ母には呪詛のようにいいこであれと、父の気を引けるような秀才であれと言われ続けた。
…まあ私自身父のようになりたいという思いあるのでそれに異論はありませんが、それでも努力をしてもリーンハルトのような本物の天才には一歩及ばない凡庸な自分が嫌いで、でも努力し続けることをやめることができない。
そんな父や母や自分自身にがんじがらめになってもがく私には、ミシェリアさんのようなまっすぐに努力をする姿がまぶしい。昔の、純粋に父にあこがれていた自分を重ねてしまう。
やはりというべきか一度目の定期試験ではボロボロだったミシェリアさんが二度目の定期試験では成績を大きく伸ばしクラスの中のトップ成績集団のに食らいついていた。
「よくできましたね。素晴らしいです。」
いたわるつもりで頭をなでる。昔、一度だけ頑張った自分を父がそうやって褒めたように。
点数を褒めてやると素敵な先生がいるおかげだと言われ思わず言葉に詰まる。これは、私のことを言っているのでしょうか?確かに講義中に何度か教えることはありましたが、このようにはっきりと言葉にされると照れてしまう。
「本当にあなたは頑張り屋さんですね。」
「マティアス先輩ほどではないですよ。」
照れ隠しにもう一度ミシェリアさんの頑張りを褒めると、逆に私が褒められてしまい思わず顔に血が上るのがわかる。なんで、なんで私の頑張りに気付いてくれるんですか。凡庸な自分を隠したくて、できるだけ人には悟らせないようにしていた努力に、どうして気づくんですか…。
普段は認められない私の努力がミシェリアさんのたった一言のおかげで報われた気がした。
「……あなたは、すごいですね。たった一言で、こんなにも私に喜びをくれる。」
頭をなでていた手をそのままミシェリアの頬に滑らせようとして、ああ、私はこの女性がどうしようもないくらい好きなのだと、気づいた。
結局突然教室にやってきたリーンハルトのミシェリアさんを生徒会に入れるという発言で私の想いは形にならずに済みましたがあのまま二人で教室にいたら間違いなく想いを告げていたと思う。
しかし、ただの先輩枠を出ない私にリーンハルトが自分はただの先輩ではなく友人でもあるのだとさりげない牽制を入れてきたことに思わず頬をひきつらせる。まあこれほど素敵な女性なのだからほかにライバルがいることは予想していましたが…、まさかリーンハルトもミシェリアさんを好きだとは思いませんでしたねぇ。
ギデオン、リーンハルト、マティアスの三人がヒロインを好きになりました。
ちょろいです。
リーンハルトだけはミシェリアに好きな人がいることをしっています。




