学園に入学しました。
テンポよく……早くキャラを全員出してあげたい……。
アイリーンと名前で呼ぶようになり早9年。
アイリーンは原作の通りわがままを言って見せたり、自分の好みを俺に押し付けようとしてくるが、原作とは違い俺は頼られたり彼女の好みを知ることに喜びを感じている。
それを伝えるたびに頬を染める彼女の愛らしさは俺だけが知っていればいいと切に思う。
ついに15歳になった俺は物語の舞台となる王立リべクリーク魔術学院に入学した。
俺は幼少期から地道な筋トレを続けた結果同年代の中でもかなりしっかりとした体躯を手に入れ、万に一つにも不潔に見えたりしないように短く刈り上げた赤茶色の髪はきちんと手入れに気を使い、いつも最高の状態をキープしている。もちろんすべてはアイリーンの隣に並び立つのに相応しくあろうとした結果だ。
というより、俺以外が彼女のパートナーになることを想像したくないが故に父と兄に鍛えてもらい、母と姉に教えを乞うたのだ。
そんなアイリーンは俺の一つ年下なので入学は来年で、その上この学園は全寮制なので長期休暇に入るまで彼女に会うことが出来ないのが残念でならない。
「ジルベスター。あなたは魔術専攻何になさるおつもりですか?」
不意に聞こえるテノールボイス。
攻略キャラの1人である宰相子息のマティアス・デュークである。彼は肩甲骨まで伸ばした嫌味なくらいにさらさらな銀髪を一つにくくり、アメジストを溶かし込んだような澄んだ瞳を持つイケメンだ。
「それは私も是非とも聞いてみたい。」
そしてもう1人はキラキラと無駄にエフェクトを飛ばした第二王子のリーンハルト・フォン・ストウハーフェンその人だ。どこの王道王子かと聞きたくなるほど整った顔立ちに金髪碧眼の美丈夫。ほんの少しウェーブを描く柔らかな髪質も彼の魅力を最大限に引き出してると言えるだろう。
「俺は空間魔術と身体強化学を専攻するつもりだ。」
俺はこの9年で急激に低くなった声で答える。
身体強化学は学園卒業後に父や5つ年に離れた兄のような騎士となり、愛するアイリーンを守るためだ。
空間魔術は上手く行けば空間転移でいつでもアイリーンに会いに行けるようになるので真っ先に習得したい。
「身体強化は想像していたけど、空間魔術は想定外だな……。なぜか聞いてもいいかい?」
心底以外だと言わんばかりに目を見開いたリーンハルトはそれでもどこか輝いている。
「……俺の職務に役立つと考えたまでだ。」
「なるほど。確かに近衛騎士となるなら有事の際王の元へとすぐ転移できるのは有利に働きますからね。」
「ふむ。流石はジルベスターだな。私ももう少し見習った方がいいかもしれんな……。」
……流石に許嫁のためとは言えなかった。ほんの少し罪悪感を感じる。ほんの少しだけだがな。
「2人は何を取るんだ?」
「私は身体強化学と、後は王族に必要な維持魔法や結界魔法を中心に学ぶことになると思う。その他は一般教養の範囲での攻撃魔法だな。」
「流石に王族ともなると講義数が多そうですね。私は契約魔術を中心に理論派魔法講義を取るつもりですよ。」
ちなみに乙女ゲームでは最初にヒロインがどの講義を選択するかによって攻略可能キャラが分かれるのだ。
このシステムの影響でヒロインは最高でも2人か3人までしかキャラを選べないのでいわゆる逆ハーエンドは不可能とされている。
できれば俺やアイリーンに関係の無いルートに進んでほしいというのが本音だ。
何はともあれ
「アイリーンに会いたい……。」
そのまま講義内容についての討論を始めたマティアスとリーンハルトに拾われることのなかったつぶやきはそのまま空に溶けていった。
とりあえず手紙を書こうと決意した15歳の春。
あなたの春色の瞳がもう恋しいです。
数日後かなりツンデレな文章で、秋の色が恋しいと返ってきた手紙を見て思わずリーンハルトに維持魔法をかけてもらった。