=ある女の雨宿り=
今日私は珍しくテオと別行動をしていた。
最近テオとの距離が近い気がしないこともない気がする。何言ってるかわからない?大丈夫、私もわかってない。というより本当になんでそんなことになっているのかわからない!!
「ほんとに、もう、こんなん好きになっちゃうじゃん。もー……。」
思わずうめいてしまう。ふと空を見上げると今にも振り出しそうだった雲からついに雨が零れ落ちてきた。
「うっわー。一気に降り出したなぁ。」
ぼんやりと外を眺めていると雨の中鍛錬をしているジル様がいた。…は?何やってんのあの人!!?
こんな雨の中にいたら絶対風邪ひくじゃん!!
そう思ったときにはもうすでに走り出していた。
「何をやっているんだ、俺は……。」
「いや、ほんとに何やってんのよ!!!」
近くまで来たときにぽつりとジル様がつぶやいたのがきこえてきて思わずそう叫んでいた。
「こんなに濡れるまで気づかなかったの!?風邪ひくよ!!ほら!とりあえずそこの東屋行くよ!!」
ほとんど無理やりジル様の腕をひぱってそばにあった東屋に入る。お茶会ができるように整えられている東屋の中にはジル様が鍛錬前においていたのであろう荷物が置いてあった。
「こんな雨の日に何やってるのよ!いくらジルベスターのスペック高いっていっても風邪ひいちゃうよ!」
濡れたままぽかんとこちらを見てくるそのちょっと間の抜けた顔が前世での弟に重なって見えた。
ああ、今まで感じていた既視感の正体はこれだったんだ。ちょっとジル様に親近感がわいてしまう。
前世の二つ下の弟。素直じゃなくてちょっと天邪鬼なところもあるけど家族思いで、好きなものには全力を注ぐ性格は可愛くないけど私にとっては可愛い可愛い弟だった。
「とりあえずこれでも着ておけ。」
思わずノスタルジックな気分に浸っていた私に東屋においていたジャケットを渡してくれる。
「え、でも貴方だって濡れてるじゃない。」
「俺よりあなたの方が貧弱そうだからな。」
「あ、ありが、とう……。」
その優しさに思わず怒っていた勢いがしぼんでいき、はたと気づいた。これ、イベントじゃない??
アイリーンの束縛にどうしても耐えきれなくなったジルベスターがその雑念を振り切るために雨の中鍛錬をし、それを心配したヒロインに初めて笑顔を見せる素敵スチルイベント。
その時、ふっとジル様が薄く微笑んだ。こ、これは、やっぱりイベントだったー!!とりあえずセリフを言わなければとどもりながらセリフを言う。
「っ!!あ、あなた笑えるんですね。ふ、普段から笑っていた方がいいと思いますよ。」
「俺が笑うのを嫌がるやつがいるからな。」
「それって、アイリーンさんの、ことですか?その、変な事聞くけど、無理やりとかじゃない、よね?」
「無理矢理じゃないよ。俺がアイリーンを好きだから、できるだけ彼女のために動きたいだけ。」
前会ったときは二人とも両思いな感じがしたのだが、原作と同じようにもしかして行動を束縛されていないだろうかと心配して聞いてみる。と思った以上にストレートに感情を吐露された。お、おう!これがイケメンの恋愛力か!!こんな恥ずかしいセリフ私なら絶対言えないよ。
ひゃー!とちょっと恥ずかしくなったが、まあ弟に似たこの人が幸せなのは単純にうれしいので思わず笑みがこぼれる。
「ところで、ゲームのヒロインになった気分はどうなんだ?」
「……え、?」
唐突に今までゲームでも見たことのないような笑顔でそう言われ顔がピキッとひきつる。な、なんで。
私がおろおろと明らかに動揺しているとものっすごいどや顔で、
原作ではこの雨宿りのスチルイベントでジルベスターは自ら自分の行動がアイリーンによって無理矢理制限されていることを語るのに、私が誰とも言っていないのに真っ先にアイリーンの名前を出し、しかも強制されていないかまで聞いたこと。そして私がゲームのセリフのところだけどもること。
それにスペックなんて言葉を英語をつかったので、カマをかけてみたら見事に私が引っかかったことを語ってきた。
「ああそれと、セリフと地の言葉遣いは統一した方がいいぞ?」
そ、それは…予想外の展開でした……。
「え、あの、ジルベスター様も転生者なんですか?」
「ああそうだ。もともと姉が好んでやっていたゲームなんだがエンドコンプのために駆り出されてな。まあ、そのおかげで今は助かってるけどな。」
少し嫌そうな、それでいて懐かしそうな顔をしたジル様に思わず謝りたくなった。ごめん、それ私も弟にやらせたわ。ほんとにこの人弟の仁君に似てるな。
「ジル君って呼んでもいいかい?」
「は?……まあ人前で呼ばなければ構わない。」
微妙に嫌そうな顔をされた。ちょっと傷つくからやめてほしい。
「その代わり、今アイリーンとちょっと関係ぎくしゃくしてるんだが協力してくれないか?」
代わりに条件を出された。ほんとにこのちょっと腹黒い感じが仁君にそっくりだ。
「断ったら…?」
思わずひきつった笑みを浮かべてしまう。
「まあバッドエンドに進みたいならそれでもいいと思うぞ。」
「き、協力しますっ!!」
言外に脅された!!え、バッドエンドに進みたいって何する気よ!!?普通に考えたら今後の私のイベント妨害される気がする!!!
「ていうか協力って何したらいいの?」
「簡単に言えばお前のイベントの進捗率の報告と、俺ルートのイベントを全力で回避して俺がアイリーンとこのまま結婚できるように協力することだな。」
思った以上にジル君はアイリーンちゃんのことが好きみたいだ。そして喜ばしいことに非常にまともなお願いだった。
「ま、まあそれくらいでいいなら…。」
取り合えず数日後に絶対見つからないように二人で作戦を立てることになったのだが、見つからないためとは言え私に空間魔術の会得を強要するのはやめてください。諦めてもらうために泣いて懇願した。ジル君は絶対アイリーンちゃん以外にはドSだと思う。




