=ある女の魔法理論=
「ちょっとテオ聞いて!!今日ペア組んだ男子生徒がいたんだけど、もうその人ずっと自分の婚約者気にしてたのよ!!素敵じゃない!?」
にやにやの占星学が終わった後私はすぐにテオと合流して先ほど見た光景を語る。もうジル様を気にするアイリーンちゃんもアイリーンちゃんを気にするジル様も最高にかっこかわいくて素敵すぎて萌えた。
「…お嬢はそういうのが好きなのか?」
「そりゃね!もうあれだけわかりやすく愛してもらえたら幸せだよねー。」
思わず頬に手をあてうっとりしてしまう。
「あー私もどうせならかっこいい人じゃなくていいからあんな風に愛してほしいなー。」
そう、かっこいい人じゃなくていいのだ。ゲームとか原作とか関係なく私を好きになってくれる人がいいなんて思ってしまう。イケメンでないならなおいい。イケメンだと私が挙動不審になる、絶対にだ。
そこでふとジル様との初対面イベントを思い出す。
「そういえばね、今日すごくかっこいい人に会ったんだけど。」
「!?ど、どこで会ったんだ!?」
テオが急に私の肩をがっしりとつかみ食い気味に聞いてくる。
「え?ああ、塔の階段を上るときにね、足を滑らせたのを助けてくれた人がいたのよ。」
「な!?だ、大丈夫だったのか!?」
「テオは心配性だなー。助けてもらったから大丈夫だったよー。落ちる私を抱き寄せてくれたんだけどね。」
「だきよせ……。」
私が事も無げにそういうとなぜかテオは肩においていた手に力を籠める。
どうしたんだろう、テオの顔がいつもより硬い。
「その人がすっごくかっこよかったのよ。」
「かっこいい………。」
「でもね、なんでかドキドキしなかったのよね。なんか既視感っていうの?懐かしい感じはしたんだけど、異性として見れないかんじ?」
そう、何よりも大切なのはそこだ。この恋愛偏差値が頑張りましょうばっかりの私がイケメンを前にして何も感じなかったのだ。もう一度会えばわかるのだろうか…。
おもわず眉間にしわを寄せて考えていると、テオがふいに私の頬に触れてきた。
「お嬢。何も感じなかったのならもうそいつについて考える必要はないだろ?」
テオのほうを見ると思ったよりも近い距離にあり思わず顔が赤くなる。イケメンに対抗ができたわけじゃなかった!!
「も、もう!!テオはすぐそういうことする!!もう子供じゃないんだからやめてよね!ほら、次のクラス行くよ!!」
素早くテオから距離を取り次の講義である魔法理論応用学、つまり新たな攻略キャラとの出会いの場へと挑む。
魔法理論応用学の教室は中庭に面した教室にある。すぐに実技を試せるようにだ。
テオは教室の前まで同行して、いつものように別の場所で待機している。
「すみません、隣よろしいですか?」
き、きたーーーーーーーーーーー!!
ぱっと横を見るとさらさらの銀の髪を一つに縛った攻略キャラの一人、マティアス・デュークがその涼やかな紫色の瞳をこちらに向けている。
「あ、は、はい!!ど、どうぞ!!」
「ふふっ!ありがとうございます。元気がよろしいんですね。」
横に座ったマティアス様が話しかけてくる。これはマティアス様の出会いのスチルイベントである。美しい所作で顔を覗き込みながらそういうマティアス様は中庭側の窓から差し込む光により神々しい。ヤバい!超イケメン!!宰相子息であるマティアス様は常に自分を律しており、その整った顔にはシンプルな銀フレームの眼鏡をかけているのが最高に萌え!
「げ、元気が取り柄みたいなものですから!」
「すばらしい取り柄ですね。ああ、私はマティアス・デュークと言います。今年一年よろしくお願いしますね。」
「あ、ミシェリア・アールと申します!こちらこそお願いします!!」
簡単に自己紹介をして握手を交わす。マティアス様の手すっごいすべすべ!!しかも至近距離で漂ってくる匂いがすっごい素敵。花のようなフローラルな香りが漂ってくる。
ちょうど握手が終わったタイミングで教師が入室し、講義の説明をし、さっそく魔法理論応用学の授業が始まった、のだが…。
ぜんっぜんわからない。一ピコ単位もわからない。たぶんこれ魔法理論学とかとった人向けの授業だよね…。
はてなマークを頭上に飛ばしまくりながらとりあえず初回の授業を終えたのだが、授業後にマティアス様に話しかけられた。
「もしかして、ミシェリアさんは魔法理論学をとっていなかったのですか?」
BA・RE・TA☆
「うえ!あ、その、………はい。」
少しばつが悪くて赤くなった顔をうつむける。
「…なるほど。全く、ちゃんと授業の説明は見なかったのですか?」
見てない。正直マティアスルートに入ることしか考えてなかった。
「このままでは授業にどんどん取り残されていきますよ。まったく、事前に確認するように推奨されていたでしょう?今後そういう考えでは困りますよ。」
ぷんすこ私を説教してくるマティアス様。この感じには覚えがある。おかあさんだ。受験とかテスト前にやたらと口うるさくなるお母さんにそっくりだ。
「ごめんなさい。」
「まったく、謝ってももう授業は選択しなおせないのですよ。どうするんですか?」
「勉強します。」
「当たり前です。具体的にどうするのかを聞いているのです。今日見たところ全く理解できていないでしょう?」
やばい。確かに顔はかっこいいんだけどもうお母さんにしか見えなくなってきた。今まであったドキドキ感が一気に飛んでいく。
「私が勉強を教えて、」
「お嬢!!」
マティアス様が何か言おうとした瞬間教室の入り口からテオが私を呼んだ。正直助かった!このままだと私がわかるまでみっちり勉強コースだった!!
「お嬢。もう次の講義のお時間ですよ。早く行きましょう。」
「わ、わかった!そ、それじゃあマティアス様今日はありがとうございました!」
「え、あ。ちょ!!」
マティアス様が何か言っている気がするけどこれ以上は強制勉強コースまっしぐらだ。お母さん、ごめん!
素早く教科書類を片付けテオを引っ張って逃げる。例えイケメンでも話すたびにお母さんを思い出すような人と恋愛なんてしてられない!!!贅沢?そんなの知らない、この性格は二次元だからいいんだよ。三次元でこれはあかんで!!
でもこのままだとさすがにヤバいので恥を忍んでテオに教えてもらったのだが、一つできるたびにすごく優しく褒めてくれるテオのおかげで勉強はすごくはかどったよ。




