息子と2人
ジル様が息子とイチャイチャするお話です。
俺とアイリーンの愛の結晶であるヴィルヘルムも随分と大きくなった。
離乳食を食べるようになり夜泣きも減り、俺達も夜はゆっくり眠れるようになってきた。そして今日は俺の久しぶりの休みと来たらやる事は一つだろう。
「アイリーン。今日はミシェリアと演劇にでも行って羽を伸ばしてくるといい」
嫁をいたわることだ。
毎日毎日言葉の通じない赤子を相手にするというのはたとえそれが自分の子であろうと、いや自分の子であるからこそ疲れるものだ。
自分の子育てが間違っていないか、しっかり子育てができているか、母親としてちゃんとやれているのかなど悩みは尽きないのにその相談をする相手がいない。そんな状況でずっといればどんなに屈強な精神を持ったものでも参ってしまう。子供を愛していれば愛しているほどそういった負のスパイラルにはまりやすい。
だからせめて俺が休みの日ぐらいはアイリーンが羽を伸ばし友人に相談する時間を作ってやりたいのだ。
「でも、ジル様も久しぶりの休暇ですのに……。」
申し訳なさそうに俺の心配をするアイリーンの髪に手を差し入れてそのままそっと頭を撫でる。
「俺は構わん。普段外で働く俺よりもいつも子供のそばでずっと家にいるアイリーンにこそ息抜きが必要だろう。」
アイリーンはよく俺に何も言わずに頑張りすぎる節がある。確かに目標に向かってひたむきに頑張るアイリーンはいじらしく美しいが、少しくらい俺を頼ってほしい。わかるだろうか、愛する嫁に頼られたいこの男心がっ!!!
子供を産んでからよりいっそう母としてしっかりしたアイリーンだが、個人的には俺達ふたりでヴィルヘルムの親なのだからもっと頼ってもらいたい。アイリーンとヴィルの2人を支えられるよう努力はしてきたつもりだし、足りないのならばもっと力をつけるつもりだ。
「でしたらお言葉に甘えますわ。」
髪に指を絡ませながらアイリーンの頬を撫でていた俺の手にアイリーンは自らの小さく愛らしい手を添え擦り寄ってくるので、そのままそっとキスをする。結婚してから毎日のようにキスを繰り返していたからか最近はだいぶキスにも慣れてきた。だというのに未だに初々しく頬を染めて視線を漂わせるアイリーンが可愛くて愛おしい。
「お土産は何がよろしいですか?」
ほんのり色づいた頬をあげニッコリと笑うアイリーン。
「アイリーン。」
「え?」
「帰ってきてから、アイリーンを堪能させてくれたらそれでいい。」
「もうっ!」
今度こそ顔を真っ赤にさせたアイリーンが恥ずかしさからか行ってきますわと声を荒らげて出ていった。なにそれ、もうっ!とかすごい可愛い。
実は息子と2人っきりになったのはこれが初めてだ。今までは離乳食を食べれるようになったとは言えまだまだ乳離れが出来ていなかったのだ。それが最近では昼間はほとんど乳を飲むことはなくなった。
もし俺に対処できないことがあればアイリーンには申し訳ないが空間転移でアイリーンの元に飛ぶつもりだ。
「ヴィルー。」
「うー?」
可愛い。なんだウチの息子可愛い。
アイリーンの愛らしさがもぎゅっと濃縮されている。
「ヴィール?」
「あーう?」
なーに?とでも言いたげに首をこてんと傾ける。
幼い息子はまだまだ可愛らしい顔立ちで、どちらかというとアイリーン似ている。小さく通った鼻筋もぷっくりした唇もさらさらの髪質も全部アイリーン似。美人で可愛くて女神なアイリーン似たのならきっと息子も綺麗な顔立ちになるだろう。たとえ俺に似たとしても乙女ゲームの攻略キャラなのでかっこいい…はずっ!
正直自分の顔の造形に興味なんぞない。もっといえばアイリーンとヴィル以外の顔の善し悪しに興味が無い。もちろんアイリーンとヴィルの顔が悪かったとしても愛し続けるがな。
「ちちうえだぞー。」
「あううー?」
俺の言った言葉を繰り返そうとしているのかニュアンスだけなら父上に聞こえないこともない。
「ははうえはどうだ。ははうえ。」
「あーうー!」
可愛い。
「ヴィルは可愛いな。世界で1番可愛い息子だな。」
デレデレになりながらそう言うと嬉しそうにキャッキャッと笑う息子。天使かな。アイリーンが女神なら息子は天使だ。
その後もヴィルは俺が喋るたびに幼児特有の喃語で返して、そうして会話とも言えない会話をずっと続けた。
「ただいま戻りましたわ。」
何時間そうしていたのかわからないが息子とキャッキャウフフしている内にアイリーンが帰ってきた。
「だーー!!!あうーあー!!!」
ヴィルもアイリーンに気づいたのかテンションが今日一だ。そうか、父よりも母のほうがいいよなー。
思わずデレっと緩む顔を引き締めて、ヴィルを抱き上げアイリーンの元に行く。
「おかえり、アイリーン。気分転換にはなったか?」
「はい!久しぶりにミシェリアさんとお話し出来て楽しかったですわ。」
じたばた暴れて俺の腕からヴィルが抜け出そうとするので、俺もアイリーンも苦笑いをしてアイリーンに手渡す。
「ヴィル?今日はお父様とずっと一緒だったのよね?よかったわねー。」
「だうっ!」
アイリーンの言葉に返事を返すヴィル。
顔を付き合わせくすくす笑い合う女神と天使が尊くて愛しくて、2人をまとめてぎゅっと抱きしめる。
「今からは父上だけじゃなく母上も一緒にいような、ヴィル。」
「あう!!」
元気よく返事をする息子にアイリーンと2人で笑いあって、ひょいとヴィルを抱っこするアイリーンを横抱きで抱えてやった。
「愛してるよ、アイリーンもヴィルも。」
「私も、ですわ。」
「あーうあっ!」
そんな日常の些細なひとコマがどうしようもなく愛おしくて幸せなのだ。
「おう、リーンハルト。なぜ俺の休暇の許可が出ないんだ!!!」
「ジルが毎日のように休もうとするからだろう!?子供が可愛いのはわかるが早々に引退しようとしてないか!!?休むなとは言わんが毎日休まれたら困る!」
どうやら俺が再びヴィルとイチャイチャするのは当分先になりそうだ。




