(許)嫁に会いに行きました。
「ジルベスターさま、いらっしゃいませ。」
今俺の目の前には愛らしい微笑みを浮かべる女神こと俺の(許)嫁がいる。かわいい。
母上にアイリーン嬢へのプレゼントを打診するとすぐ、という訳には貴族的にいかなかったので数日後クマのぬいぐるみ、いわゆるテディベアを持ってフュルスト侯爵家を訪れた。
個人的には服やらアクセサリーでアイリーン嬢を飾り立てたかったが彼女の趣味嗜好がわからない以上致し方あるまい……。
ただ、ぬいぐるみだけでは味気ないのでマーキス家御用達の宝石店にて既製品ながらなかなかのセンスをした俺の髪と同色の紅い石のついたネックレスをぬいぐるみの首にかけて一緒に贈ることにした。
次回はぜひとも石選びもデザインもやりたいと思う。
「アイリーンじょう、気にいるかはわからないがあなたにプレゼントを持ってきたのだが。」
そう言ってぬいぐるみの入った箱をうちの従者からアイリーン嬢のメイドに手渡す。このあたりも貴族のめんどくさい点の一つだ。女神に直接手渡したい。
「プレゼントでございますか?アズーラ開けてちょうだい。」
そう言って女神は空色の髪を持つメイドに指示を出し、待ちきれないと言わんばかりにメイドが箱を開けるやいなや覗き込み、満面の笑みを浮かべた。まるで天使の微笑みである。
「なにが好きかわからなかったんだが、気に入ったか?」
「はいっ!あの、ジルベスターさま、ありがとうございます!!」
取り出したテディベアを胸に抱き少し顔を埋めて礼をいう彼女を抱きしめたい衝動に駆られるが、まだ会って間もない異性にそれは失礼だとと自分をなんとか押しとどめた俺を褒めて欲しい。テディベアよ、今だけ場所を代わってくれ。
「あらあら。随分仲良しねぇ。ジルベスター、お母様はフュルスト夫人とお茶を飲んでますからアイリーン様と2人でお庭でも散歩してらっしゃいな。アイリーン様もよろしいですか?」
母上は神か?
によによとこちらを見る母上は絶対俺の初恋を面白がっている。いつも俺が家族以外の女性と話すだけで要らぬ詮索をするような恋愛脳を持つ母上だが今回ばかりはグッジョブと言いたくなる。いいぞ、もっと言ってくれ。
「アイリーンじょう、よろしければどうぞ。」
そう言ってきょとんとした顔のアイリーンに手を差し出す。
「え、あの、おねがいいたします。」
少し恥ずかしげに微笑むアイリーン嬢は最高に愛らしかった。
場所は変わりフュルスト侯爵家自慢の庭園に来ているのだが、アイリーン嬢と。(ここ重要)
「ジルベスターさまはなにか好きなものはありますの?」
「……しいていうなら春やアーモンドの花は好きだよ。」
もちろんアイリーン嬢の若菜色の瞳と桃色の髪に似た色をしているからだ。
「ま、まあ!わたくしは春はあまり好きじゃありませんの!春よりも秋の紅葉やダリアの方が華やかですてきですもの!」
腰に手を当てほんの少し得意げな顔でこちらを見やるアイリーン嬢がすごく可愛い。
それに奇しくも紅葉やこの国でよく使用されるダリアは俺の少しくすんだ赤の髪や平凡な茶色の瞳と同じ色だった。
「秋は僕の色だからそう言ってもらえるとうれしい。それにあなたの淡い髪には赤やオレンジみたいな華やかな色がにあう。」
「え!?あ、ありがとうございます……。」
なぜか少し戸惑いの表情を浮かべてはいるものの頬を染め視線を恥ずかしげに彷徨わせるアイリーン嬢は、
ああなんて、
「可愛い。」
「はい!?え、あの、じ、ジルベスターさま!!?」
「ジルでいいよ。僕もアイリーンって呼ぶから。」
「あう、あ、ありがとう、ございます……ジルさま……。」
眉尻を下げ困ったような表情で、恥ずかしさからか若菜色の目に露のような涙をほんの少し浮かばせたアイリーンの真っ赤な顔で俺の愛称を呼ぶ彼女がほんの少し大人っぽくて、
ちゅっ
「っっ!!!?!?」
つい女神の唇にキスをおとしてしまったのは不可抗力だと思うのだが。
主人公は確実に母から恋愛脳を引き継いでいます。
セリフだけ見るとかっこいいのに思考回路が残念でなりません……。