エスコートしました。
辛い。何がってもう何もかもが辛い。
あの日アイリーンに初めて心からの拒絶をされた。曰く、俺の卒業パーティー後であればまた誓いを受け取ってくれるようだ。
まだ希望がある分耐えられるが、アイリーンに拒否されたこととアイリーンを傷つけていたのが他でもない自分であったことが俺を苛む。
もういっそアイリーンに自分の欲望のすべてをぶつけてしまえと俺の中の悪魔が囁いてくるがもう二度とアイリーンを傷つける気は無いので入念にぶん殴っておく。
もういっそ自分は身を引いてしまおうかとも考えた。アイリーンの隣に俺じゃない誰かが並ぶなんて考えたくもないおぞましい光景だがそれが彼女の幸せに繋がるなら俺は俺をぶん殴ってでもそれを祝福するだろう。
それでもそうしないのは、アイリーンが最後に言った言葉が俺の中で息づいているからだ。
「もし、もしね。貴方の卒業パーティーが終わったあとも私を愛していると言ってくださるなら。その時はまた私に誓いをくださいませ。」
貴女がまだ俺を求めていると、好きでいてくれていると、そう思ってもいいのだろうか……。
もしそうじゃないならどうか貴女を傷つけた身でそんな恥ずかしい勘違いをした俺を笑ってくれ。
「お待たせいたしましたわ。ジル様。」
今日ついに学年末の卒業パーティーが開かれる。
「綺麗だよ。すごく、綺麗だ。」
本当は断られるのが怖くてパートナーを頼むかどうかすごく悩んだけど頼んでよかった。本当によかった!!
去年の俺の活躍により改善された正装は現代のドレスやタキシードに近いものになった。
今日のアイリーンのドレスも俺がデザインした。
白のオフショルダードレス。無駄な装飾も色も何も無い。最高級のシルクで作らせた洗練されたドレスには生地と同じ色の糸で美しい刺繍を入れ、アクセントに宝石を散りばめてある。頭には後頭部を覆うようにベールの取り付けられた生花で作った花冠が乗っている。アイリーンの薄桃色の髪と緑の瞳という色彩も相まってまるで春を寿ぐ女神のようだ。
ちなみに俺は白の騎士服を着ている。ベルばらのオスカルみたいな服装だ。肩当とか色々ついてるやつ。
アイリーンをエスコートし会場に向かう。普通白の正装は社交界にデビューする時くらいしか着用しないので一般生徒の目線が痛い。
全生徒の入室が完了するとおもむろにリーンハルトを筆頭にマティアス、ギデオン、ミシェリア、テオドールがまだ誰もいないダンスフロアに進みでる。
俺はそっとアイリーンの手を外し同じように彼らの隣に並び立つ。
「さて、早速パーティーを始めたいところだがその前に一つ済まさねばならないことがある。」
リーンハルトが普段より硬い声でそう言った。
「アイリーン・フュルスト。前に来たまえ。」
呆然と立つ尽くしていたアイリーンが妙に納得したような表情で俺たちの前にやってくる。
「アイリーン。貴女に話がある。」
「……覚悟、しておりますわ。」
痛いほど静まり返ったパーティー会場に俺と彼女の声だけが響いた。




