閑話:私とヒロイン2
アイリーン視点の続きです。
ちょっと暗め。
最近の私は自己嫌悪の塊ですわ……。
自分で自分が嫌になります。
占星学の授業以降どうしてもヒロインとジル様を見るたびに悪役令嬢エンドなんて存在しないんじゃないかとか、もしジル様がヒロインに心を惹かれたらどうしようなんてことを考えてしまいます。
はじめは見ていられなくて目を逸らしていましたわ。でも、もし自分の知らないところでヒロインと仲良くなったらって考えるとジル様を束縛したくてしょうがなくなってきます。
まるで原作の"アイリーン・フュルスト"のように、自分から一緒にいるのは週末だけにしようと言ったくせに平日の休み時間にジル様を呼び出して、私のわがままをどれだけ許してくださるか試したくて横暴な振る舞いをしてしまいます。どうしようもない私にジル様は相変わらず愛を囁いてくださいますが、それが申し訳なくて最近は逃げてしまいます。こんなの、いつ嫌われたっておかしくありませんわ………。
自分の目尻にじわりとなみだが浮かぶ。泣く資格なんてありませんのに……。ふと曇天色の空を眺めていると、まるで私の代わりと言わんばかりに空が泣き始めます。中庭を見下ろす位置にある食堂のテラスからふと視界の端にちらつくオレンジを見つけましたの。雨の中鍛錬をするジル様と、濡れることも厭わずにジル様を東屋に連れていくヒロインですわ。
……雨宿りのスチルイベント。私の大好きだったイベントの1つ。初めてジルベスターがヒロインに悩みを打ち明ける大切なイベント……。その事実が胸に深く突き刺さります。
そんな光景を見たせいか、私の行動に拍車がかかります。……こんなの言い訳ですわね。
そんな中夏の長期休暇に入りマーキス家でジル様と2人で予定を立てます。
相変わらすツンケンする私に、
「最近のアイリーンは無理をしているだろう。俺では、頼りにならないか……?」
その言葉を聞いた途端カッと頭に血が登りました。
「あ、なたにっ!!何がわかりますの!!?」
喚いて叩いてどうしようもなくヒステリックで嫌な女。あなたが嫌ってくれたならどれだけ楽だろう。
「なんで、どうしてこんなわたくしに優しくするのよ……。面倒臭いでしょ。こんな、ヒステリックでわがままな女の子なんて……。」
「どんなアイリーンでも好きだよ。」
やめてよ。貴方に返せるものなんて何も無いんですの。自分に自信が無いからって貴方に当たってしまうような女なんですのよ。
「貴女が望むなら忠誠だって誓う。俺には貴女だけだ。」
騎士の忠誠。なんて甘美な響きなんでしょう。騎士がただ1人生涯の主と決めた唯一に送る名誉。
「なら、証を見せてちょうだい……。私から、離れたりしないって……。」
私の前に跪いたジル様がその大きくて逞しい手で、まるで宝物を扱うみたいに私の右足を持ち上げ靴を脱がせる。ああ、だめよ。そう思うのに言葉にならない。
名実ともに貴方の唯一になりたいと思う気持ちと、未来の貴方の騎士としての誇りを思う気持ちが拮抗する。
「私、ジルベスター・マーキスは騎士の誇りにかけて、我が生涯をアイリーン・フュルストに捧げることを誓う。」
彼の熱い手がスカートの裾から潜り込み時折足に触れる。太ももまでの靴下を脱がすその手が当たるたびに漏れ出そうになる声を口に腕を当て必死に押し殺す。
ついに抜きさられた靴下を目で追うと、私のつま先にキスをするジル様が映る。そのまま足の甲、脛へと上がって来る熱い唇に耐えきれず思わず懇願の声をあげてしまう。
こちらを見やり、口を覆っていた腕をいとも簡単に取り払うと唇が塞がれた。
「俺のすべてを貴方に捧げる。何があっても、貴女を離さない。……離したく、ない。」
いつもにない弱々しいジル様の声に思わず涙が浮かぶ。そっと彼の首に腕を回し、
「私も、離れたく、ない……。」
たとえそれが運命であったとしても、あなたとヒロインが結ばれるなんて嫌ですの。
貴方の愛を信じたいのに、原作通りに進むんじゃないかという恐怖は払拭しきれなくて、
それでも貴方が私を望んでくれている間だけは何も考えずに貴方の愛に身を委ねていようと、繰り返されるキスの中私は刹那の幸せを感じていた。
こんな暗いアイリーンじゃなくて明るく幸せなアイリーンが書きたい。
ジルとミシェリアは互いに転生者って知ってるから協力プレイできるけど、現在アイリーンはソロプレイヤーなんです。ひとりで悶々と悩んでいます。




