閑話:私とヒロイン
アイリーン視点のお話です。
私が2年に上がりついに"ヒロイン"が編入してきました。
昔の私でしたらジル様とヒロインをくっつけてジル様が道を踏み外さないようにサポートするのでしょうけど、今の私はそんなことできませんわ。
だって、わ、私もジル様のことが好きなんですもの!
とはいえ原作からあまり大きく外れてしまうのも何が起きるか分からないので避けたいですわ。
このゲームは最初に選択する専攻科目によって入るルートが変わりますの。ジル様ルートは確か占星学ですわ。
学園の尖塔の一番上に位置する教室を使いますし、教科書も星占いの本の他に神話などの本も必要になります。大荷物を持って長い階段を登ることになるので大抵の女子生徒は選びませんのよ。
つまり!平民出身とはいえただの女生徒であるヒロインがこのクラスを選ぶ可能性は低い、はずっ!
そう思っていましたのに占星学のクラスに向かう階段の中程でヒロインが上から降ってきましたの。ジル様はお優しい方ですので落ちてきたヒロインを助けましたわ。
右手で手すりをつかみ、左手でヒロインの細腰を抱き寄せるその姿はまさにゲームのスチルそのものでした。
どうやら体勢を立て直すのに時間がかかっているようで密着した状態が長く続いています。ジル様の格好良さにヒロインは頬を赤く染め、ジル様も……ヒロインを見つめていますわ。
何度も何度もゲーム越しに見たはずなのに、ジル様の視線を集めるヒロインが羨ましくて、ジル様が呼び止めるのも聞かず階段を駆け上がりました。
結局体力のない私はジル様に捕まって今は使用されていない教室に連れ込まれました。がっしりとした体格のジル様の胸元にぎゅっと抱きしめられてしばらくわけもわからず泣いてしまいましたの。
で、でもあの後自己紹介イベントが入るはずだったのに、そのジル様がここにいるということはイベントを回避できたのかしら?
そう思うと今ここにいてくださるジル様がとても愛おしく思えて、もっと愛して欲しいと欲望が頭を擡げます。
「ジル様、お願いが、ありますの。」
「なんだ。」
ジル様の甘さを含んだ声にこんなはしたない事をお願いしてもいいのかしら、と思わないでもないですが……。ええい!女は度胸ですわっ!!
「き、きすを……してください。」
い、言いましたわ!!わ、わたくしついにやりましたの!!!
自分でも顔から火が出るくらい熱くなっているのがわかります!
は、恥ずかしい!!!
ジル様が嬉しそうな、それでいてこちらを伺うような目で私を見ながら顔を近づけて来ます。色気を多分に含んだ顔に耐えられなくなって目を瞑るとすぐにしっとりとした口付けが降ってきました。
ただ何度も何度も啄むようキスについに膝から力が抜けてしまいます。
「アイリーン……。好きだ。愛してる。どうか、俺を信じて。」
違いますの、信じていますわ。ただ自信がありませんの。なんでもスマートにこなすジル様と違って私は要領が悪いから、ヒロインと違って天邪鬼ですぐ怒ってしまう性格だから、私がひいてヒロインといた方が貴方が幸せになれるんじゃないかって、そんな出来もしない妄想をついしてしまいますの。
その後の占星学の授業ではヒロインに教科書を届けに行ったジル様がタイミング悪く入室してきた先生によりヒロインとペアを組むことになり、私は話したこともない男子生徒とペアになりました。
「フュルストさんって本当に綺麗だよねー。ねえ、ジルベスターなんて堅物面白くないでしょ?俺にしとかない??」
鏡を見て出直してきてくださいませ!!!
ジル様はあなたと違って身も心も本当に綺麗な方ですわ!たとえヒロインとくっつくことになろうとも、貴方みたいな方お断りですの!!!
ふとジル様の方を見やるとものすごく不機嫌そうな顔でこちらを睨みつけています。そんな些細なことに愛を感じてしまう私は、きっと二度とジル様から逃れられませんわ。
ただヒロインと組んだことにちょっと嫉妬してしまい、授業が終わり例の空き教室に連れ込まれたのをいいことにぎゅって抱きつきましたわっ!!
「私をほって他の女性とペアを組むなんてひどいですわ!!女ったらし、私その間に知らない方と組む羽目になったんですのよ!」
ジル様が文句も言わずに抱きしめてくださるのが嬉しくてぎゅっと腰に回した手に力を込めますのっ!
アイリーンのですの!口調は書いてて楽しいです。




