ヒロインに会いました。
ゲームの時間軸にやっと入りました!
学年が上がり俺は最終学年となった。今年ヒロインのミシェリア・アールがアイリーンと同じ2年に編入する。
ヒロインはアール伯爵の庶子で平民として育ったのだが、ある日伯爵家から遣いが来て自分は貴族の血をひく娘だと知る。そして貴族になったヒロインはこの王立学園に編入をはたし、見目麗しいイケメン達と愛を育むのだ。
ゲームの最初に専攻する魔法講義の選択を行うのだが、それにより攻略できるキャラが絞られる。
ちなみに占星学の講義を取ると俺ルートに進む。占星学をとった理由?アイリーンが取るから一緒の講義を受けたかっただけだ。きっとゲームの中の俺もアイリーンに誘われてとったんだろう。よほど俺のイメージとかけ離れているからかリーンハルトとマティアスにはすごく心配された。
「アイリーン。荷物を貸せ、重いだろう。」
「あ、ありがとうございます。」
占星学は無数の星を読み解く魔法だからか教科書が分厚いし、神話などの本も必要なので荷物が多い。それを持って学園の一番高い尖塔の部屋まで登らなければならないので女子には不人気な講義だ。
アイリーンも少し息を切らせながら長い階段を登っている。普段聞くことのない少し上がった息が色っぽい。
「きゃあっ!!?」
俺がアイリーンに気を取られていると、上から女子生徒の悲鳴が聞こえオレンジ色の物体Xが降ってくる。
俺の横を落ちていくその物体をとっさに左手で抱き寄せ、右手で階段の手すりを掴み俺の身体を支える。
「あ、あ、あ……あり、ありがとう、ございま、す。」
腕の中のオレンジの物体はよほど怖かったのか必要以上にどもっている。
「いや、怪我はないか?」
「あ、だ、大丈夫ですよ!問題ないです!」
今気づいた。このオレンジの物体、いやオレンジの髪を持つ少女はヒロインだ。
なんということだ。ヒロインはどうやら占星学を専攻したらしい。
というか早く足を階段につけて欲しいんだが。
いまだに俺は左手で彼女の腰を抱えているのだが、いかんせん落ちてくる物体Xを無理に引き止めたせいで完全に重心がおかしなところにあり、ヒロインを抱えたまま体勢を戻すのが非常に難しい。
だから早く自力で体勢を整えて俺から離れろ。
「すまない。自分で体勢は整えられそうか?」
「へ?あっ!は、はいっ!!」
もたもたと体勢を整えるヒロインを少し観察する。
キャロットオレンジのストレートの髪は艷があり、ピンク色の瞳はぱっちり二重、ぷっくりとした唇と小さな鼻がバランスよく配置してあり綺麗というより可愛らしい印象を受ける。うん、それでもアイリーンの方が可愛いし綺麗だ。
俺がアイリーンの可愛さを再認識している間にオレンジが自分で立てるようになったので俺も体勢を戻す。
そしてついっと顔をアイリーンに向けて思わず固まる。
「アイリーン、どうした?」
少し泣きそうになった女神が
「わ、わたくしは先に行っていますわ。」
荷物も持たずに階段を駆け上がって行ってしまった。
「アイリーンっ!!!」
オレンジを助けた時に階段に散らばった教科書をかき集めアイリーンを追いかける。
元々体力のないアイリーンだ。教室に入る直前で追いついた。
「アイリーンっ、どうしたんだ。」
「なん、何でもありませんの。」
閉じられた若菜色の目から涙がこぼれ落ちる。
「っ!すまない、移動するぞ。」
両手が塞がっているのでアイリーンの額に自分の額を付け合わせる。そうして1年の後期で飛躍的に伸びた空間転移魔法でそばの空き教室に移動する。
机も椅子もない教室はがらんと広く何も無い。
とりあえず床に教科書を置きアイリーンを抱きしめる。
「アイリーン、何で泣いているんだ。」
抱きしめた身体が微かに震える。身長差のせいでアイリーンの頭はちょうど俺の胸元にすっぽり収まる。成長期でますます身長が伸び、体格がしっかりした俺とは違い彼女はひどく華奢で力を入れたら折れてしまいそうだ。
「ジル様、お願いが、ありますの。」
「なんだ。」
しばらく顔を埋めて泣いていたアイリーンがぽそりと呟き、ちょっと迷う仕草を見せ、意を決した表情で、
「き、きすを……してください。」
真っ赤な顔でこちらを見上げるアイリーン。泣いて赤くなった目尻が痛ましくて、彼女がなぜ泣いたのかわからないが少しでもその原因をなくせればと、そっと口付けを落とす。
しっとりとした唇が緊張で少し震えている。啄むように、労わるように何度もキスを贈ると次第に腕の中の彼女の身体が熱を帯び、ついにカクンと膝が折れてしまった。
少し上がった息が先程とは違い色気を含んでいる。
「アイリーン……。好きだ。愛してる。どうか、俺を信じて。」
いつか、心から俺を頼ってくれるように願いを込めてまた1つ口付けを贈った。
涙を拭ったアイリーンと改めて占星学の教室にむかう。クラスにオレンジ頭を見つけてやっと、そういやヒロインがいたっけな、と存在を思い出した。




