進級しました。
やっとあの監獄での1年が終わった。この冬休暇が終われば監獄は天国に変わるだろう。理由?女神が入学するからだ。
1年の後期は本当に長かった。アイリーンに会えないのは前期も一緒だったが、夏休暇以降アイリーンが手紙でデレを見せるようになってきたのだ。手紙を読み返す度に彼女に会いたい衝動に駆られ、おかげで空間転移の飛距離が伸びた。欲望に忠実だな、俺の魔法。
そんな俺は今マーキス家に帰ってきた。帰ってきたはずなのだが……。
「お、おかえりなさいませ、ジル様。」
可愛い俺の女神がなぜ我が家にいる?
俺の欲望が作り出した幻覚か、無意識のうちにフュルスト家に来ていたのかどっちだ?
「あらあら。ジルベスターったら感動で声も出ないのかしら?」
くすくす笑う年齢不詳の美女は間違いなく俺の母親だ。
「た、だいま……戻りました。」
「あの、私が無理言って迎えさせていただいたのですが……ご迷惑でした?きゃあ!!?」
「きゃあ!!」
とりあえず抱きしめても消えないので本物らしい。あと、母上。年甲斐もなく叫ぶのはやめてください。
とりあえず久しぶりの帰省なので父と兄に挨拶に行く。もう1人姉がいるが彼女は既に他家に嫁いでいるので今回は関係ない。
アイリーンをエスコートして歩く、それだけで我が家が輝いて見える。女神効果がすごい。
半年で少しばかり伸びたアイリーンの背は、それでも俺よりずっと低くて可愛いのに、顔は少し大人びてきてすごく綺麗だ。
俺の視線に気づいて恥ずかしそうに頬をピンクに染める彼女に思わず笑みが浮かぶ。
騒がしいメイドの声も、浮き足立った執事たちの声も気にならない。いつも静かに業務をこなす彼ららしくないがアイリーンを補充することの方が重要だ。
不意にきゅっと組んだ腕の袖をアイリーンが引っ張る。
「どうした?」
「わ、私以外がいる前で笑顔を浮かべないで下さいませ!」
可愛い。思わずにやけそうな口元を引き締める。
「貴女が望むなら。」
ああなんて幸せなんだろう。
原作が始まるのはアイリーンが2年になる年だ。
ほかの誰を狙ってもらっても構わない。ただ俺とアイリーンに関わることがない事を願う。
「ジル、婚約者に会えて嬉しいのはわかるがもう少し顔を引き締めなさい。」
久しぶりに会った父にも気付かれた。
来年はアイリーンが学園に入学するというのに表情を取り繕える気全くがしない。




