恋に落ちました。
「はじめまして。わたくしはアイリーン・フュルストともうします。」
その日俺は恋に落ちた。
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俺の名前はジルベスター・マーキス。とある小さな王国のそこそこ権力を持った侯爵家の次男坊だ。
今日は貴族然として6歳ながらに婚約者となる一つ年下のご令嬢との顔合わせに来たのだが、
「あらあらジルベスター。可愛らしい方でよかったわねぇ。」
脳内ピンクの恋愛脳な母親の楽しそうに詮索する声も、
「ジル、アイリーン嬢にご挨拶をなさい。」
到底貴族とは思えぬ筋骨隆々な体躯の父が発するいつもの暑苦しい声も、
そんな何もかもが些末なことと思えるほどに俺の目は、思考は、目の前の少女に囚われていた。
自分の赤茶色のくすんだ赤胴色とは違う冴えるような桃色の髪も、命の芽吹く春を連想させるようなその若菜色の瞳も、まるで金糸雀の囀るような、鈴を転がしたような軽やかで溶けるような声も、全てが俺を魅了する。
そんな衝撃が頭から脊髄を駆け抜けた瞬間、俺は前世とやらを思い出した。
前世での俺はなんの面白みもない男子高校生だった。
乙女ゲーム好きの姉にエンドコンプの為に強制プレイさせられることもしばしばあったが、それ以外は友達と遊んだり、受験に苦悩する至って普通の人生を歩んでいた。
なぜそんな俺が生まれ変わりを果たしているのかはわからないが一つだけ確かなことがある。
「ジルベスター・マーキスです。アイリーンじょう、僕とけっこんしてください。」
「まあ!!!」
「ほう!」
母の喜色ばむ声も、父の興味深げな声もどうでもいい
「はい、よろしくおねがいいたします。ジルベスターさま。」
俺はこの日恋に落ちたのだ。




