表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

目覚めの詩・プロローグ

 

 天造の磨礪てんぞうのまれい 


 プロローグ 




 漆黒の瞳に、人々の屍が映る。

 無感動に、空からそれを見て、落ちぶれたものだと自嘲した。

 時はたそがれ時で、夕景の陽ざしに照りつけられた街は、血に染められたように見えた。

「こんなことに、何の意味があるのだ!」

 漆黒の髪と翼をもつ、美しい青年が怒りに声を荒げた。

「それを言うな。

 命令なのだ。私たちは従うよりほかはない」

 隣に舞う、青年よりやや幼い印象の、やはり黒き翼をもつ少年が告げる。

「いや、それはそうだ。

 しかし、なぜ私たちは主人のためでなく、あれらのために仕事を、しかも、このような汚れ事を引き受けねばならぬのだ」

「それが、あるじの望んだことだから」

 少年は、いっそ冷酷ともいえる表情でいった。

「理由くらい、教えてくれてもよいと、考えることすら、罪だと?」

 青年はいきどおる。

 しかし少年は、嘲笑あざわらうように青年を見つめ、

「そうだよ」

 と冷たく言うと、翼をひるがえして、飛び去って行った。


 それを見送り、彼は悩んだ。

 悩んで、ふたたび城のほうへ足を向けた。

 そこに、答えがあることを信じた。信じたかった。


 この小国は、どうということもない国だ。いままさに、滅ぼされようとしているくらいに、悪逆なことなどしていない。

 ただただ、己を守るために全力を尽くすだけの、真面目な国王が治めていた。


 その国王には、幼い息子がいる。その子供から親を奪う? いや、両方殺す。ばかな、この手はそんなことのためにあるのではない。


 いや、だが、逆らえないのも事実。


 もとに、戻りたくないのも本当だ。


 視界に、焼けて崩れ落ち、死屍累々と横たわる兵や、貴族らの死骸が映る。汚い。ひとは死ぬと、なぜ汚いのだ。

 そんなことを思いながら、彼は飛ぶ。

 やがて、城の中庭だった場所に降り立つと、そこで、悲鳴を聞いた。

「きゃあああっ!」

 胡乱な思いで振り向くと、同族たちが、かつては麗しき手で、人々を癒し、救済してきた手が、娘らを嬲っているのが見えた。

 彼は、どうしようもない思いを抱いて、立ちすくんだ。


 すると、

「こいつ!」

 小さくて可愛い声が、足もとから聞こえた。

 彼のむき出しの足に、幼い子供が、必死に小さな果物ナイフを突き立てようとしているのが見える。

 無駄なことを。

 つややかで美しい彼の皮膚は、金属並みに硬くて、強いのだ。

「なにをしている?」

「うわあああぁ!」

 必死で手を上下に振るさまが哀れで、彼はかがみこむと、子どもからナイフを取り上げた。

「よせ、お前が傷つくだけだ」

「黙れ!」

 子供は、まだなおもがいていた。

 ひどく、身なりがいい。


 そうか。


 彼は察した。この子供は、王の子なのだな。

 こんな、幼い子供すら、殺せ、ということなのか。

「放せ! 放せよっ!」

 こどもは暴れた。小さな手が、彼の体のいたるところにぶつかるが、傷ついていくのは子供の手のほうだった。

「よせ」

 彼は止めようとした。その時。


 こどもの額が輝いて、紋章が浮かび上がった。


「これは……」


 彼は悟った。

 あるじの、思惑を。

 しかし、その時には、焼け付くような衝撃が全身を襲い、吹き飛ばされて、宙に舞っていた。


 消えるのか……。


 ここで。


 それもいいだろう。


 彼はゆっくりと目を閉じて、落ちゆくにまかせた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ