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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

見てはいけないもの

作者: おいも

書く前から思ってたんですが、世にも奇妙な感じのテレビでありそうな話です。もしかしたら過去にそんな回があったのかも知れませんが。


あなたが考え得る、「見てはいけないもの」を想像しながら読んで頂ければ幸い。

 私の街には、「見てはいけないもの」と呼ばれるものがある。


 それは、特になんてことない街角の、とある通りの真ん中くらいにある。


「見てはいけないもの」があるにも関わらず、その通りはある一定の人通りがあって、みんなは絶対にそれを見ないようにしながら、足早に通り抜けようとする。


 大人は、目を背けたり、手で目を覆ったりしながら歩く。

 子供は、大人が両眼を覆って歩く。


 もし子供がそれを見ようとしたら、大人は容赦なくグーで殴る。

 大人でも好奇心に負けて見ようとすると、周りの人がそれを止める。


 そこまでして見てはいけないのに、何故撤去したり壁で覆ったりしないのかというと、大人もよく分からないらしい。

 そもそもなんでそんなものを作ったのか、いつからそこにあったのかも分からない。


 ただ、見てはいけないという言い伝えだけが現代に残り、それを守り抜いていた。


 当然、周りの大人に聞いても見たことがある人は一人もいなかったし、私の友達も今までに見たことのある子はいなかった。


 私が小学生のとき、クラスの怖いもの知らずな男子達が、「見てはいけないもの」を見に行こうと言い出した。

 やめなよ、と女子の誰かが言った。


「あれを見ようとしたら、おとうさんからグーで殴られるよ?」

「大丈夫だよ。おとうさんは連れて行かないから」

「知らない大人の人がいるかも知れないよ?」

「それじゃあみんなで行こうよ」


 結局、クラスの男子の殆どが、放課後「見てはいけないもの」を見に行くことになった。


 次の日のクラスには、男子は出席してこなかった。


 ......3日後、怪我の浅かった男子の何人かが退院してきた。松葉杖をついたり、左腕を吊ったり、顔が痣だらけだったりした。

「見れたの?」

「見れなかった」


 小学生男子20人弱の集団は、例の通りに集まると、「見てはいけないもの」に向かって全力疾走した。通りには何人か大人がいたし、何人かが足止めされたが、その間をすり抜けるように男子は駆けていった。


 行ける・・・!そう、思った。


 ところが、「見てはいけないもの」まであと少し、というところで高校生の集団とかち合ってしまった。耳にピアスの穴が空いてるヤバい奴らだ!


 結局彼らにボコボコにされた挙句、全員が病院送り。酷いものだと全治半年くらいの子までいた。

 やり過ぎだと思うかもしれないけど、この街ではそれくらいされても文句は言えないことだったのだ。


 私が中学生のとき、クラスの女子が、アレ一度見てみたいヨネ!という話をしていた。そのとき男子は教室の端っこで雑誌みたいなのを広げて何やらコソコソやっていた。


「アレ?でもヤバくない?」

「見つからなければ大丈夫だって」

「えーっ、私怖いからムリー!」

「じゃあ私、今夜一人で見にいってくるね」


 結局、女子のうち一人が、塾の帰りにコッソリ見に行くことになった。


 その子は次の日の未明、通りの入り口のところでボロ雑巾みたいになっているのを両親に発見され、病院送りになったあと、そのまま一度も登校することなく転校していった。


 彼女が「見てはいけないもの」を見れたのか、それとも見れなかったのかは誰も分からない。


 私が高校生のとき、B校の生徒が「見てはいけないもの」を見に来るという話を聞いた。


「ヤバいよね?マジヤバいよね?」

「わかる、パない」

「ヤバい」

「ヤバいって!やめなって!」


 結局、B校の知り合いに連絡するも、大丈夫だって〜!といって電話を切られてしまった。


 その後、彼女と連絡が取れることはなかった。何があったのかは、聞かないことにした。


 それから後にも先にも、誰それが見に行こうとした、だとか、見に行こうとして病院送りになった、だとか、そういった話を聞いた。


 私もその通りを通る時に、5人くらい躊躇いなく人を殺してそうなヤの人っぽい人を止めようとする大学生や、10人がかりで力士を押し返してるおじさん達を見たことがある。


 そんなある日のこと、なんとなく例の通りを歩いていると、ふと、昼間なのにも関わらず誰も通りを歩いていない事に気付いた。

「見てはいけないもの」は、ちょうど私の真横くらいにある。


 私は心の中で、どうしようもないくらいの不安に駆られた。


 もし今、「見てはいけないもの」を見てしまったらどうなるんだろう?


 小さいころ、父に聞いて殴られた記憶、小学生のころ、病院送りにされた同級生の記憶、中学生のころ、転校していった同級生の記憶、高校生のころ、音信不通になったB校の友達の記憶。


「見てはいけないもの」を見ようとした、あらゆる者達の末路を思い浮かべ、踏み止まろうとする。

 しかし、彼らのうち結局何人が、真実を知っていたのだろうか?

 彼らを止めようとした者の何人が、真実を知っていたのだろうか?


 私の中の悪魔が、誘うように囁く。

「少しだけ、チラッとだけ!」


 ......そして、私は、遂に、「見てはいけないもの」を見てしまった。


 それを見た瞬間、私は膝から崩れ落ちた。


 一瞬遅れてやってくるのは、絶望、虚無感、そして後悔。圧倒的な後悔である。


 全身の筋肉があまりの絶望に弛緩し、穴という穴からせき止められていたものが溢れ出てくる。

 それさえも気にならない程の、絶望。


 生まれてきた事を後悔し、今日この道を通った事を後悔し、見てしまった事を後悔した。


 見てはいけなかった。絶対に見てはいけなかった。しかし、私はそれを見てしまった。私は、見てしまったがためにそれを理解し、見てしまったがためにその事実が覆らないことを悟り、後悔した。


 もはや生きる希望を無くし、徐々に心拍が落ちていく心臓の音を僅かに感じながら思う。

 もはや五感を喪失しつつあり、感情を失い、無気力となった私の頭の中に、一つだけ、最後まで残った言葉。


 あれは、絶対に「見てはいけないもの」だった、と。


「見てはいけないもの」、それは......

ちなみに私は、「見てはいけないもの」を「パン一で変顔している出○哲郎の黄金像」であると仮定しながら書きました。

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