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【掌編】このみや君は頭がおかしい。【恋愛】

SAN値ピンチ。ラブコメのつもりだった過去の遺物。

 私の名前は山田。 至って普通の何処にでもある苗字です。

 そして私も、髪も染めなければピアスもしない、制服も校則に沿って着こなすごく普通の女子高生(地味)だ。 本当に地味だ。 もう特徴がないことが特徴です、としか言い様がないくらい、これといった特徴がない。 この間なんか中学からずっと同じクラスだった子に誰って言われた。 記憶に残らないタイプの地味女だ。

 背後に立ってても気づかない、遅れて教室に入っても誰も気づかない(先生ですら)、廊下のど真ん中に立っていても気づかれない。 そんな私につけられた渾名が「隠密」である。 若しくは忍。 別に忍んでいる訳ではないのだけれど。

 そんな私の人生を揺るがす一大事、17年しか生きてないけど、これ以上の不幸ってちょっと思いつかない。 いや本当に。 明日から一文無しで住む家もありませんって言われた方がまだ救いがある気がする。 いや、そこまで不幸じゃないんだろうけど。 ちょっとこれは受け入れられない。

 その一大事とは、告白したことです。

 はい、大したことないじゃんと思ったアナタ! 告白自体が問題ではないのです。 告白した相手が、ひいては相手のお返事が一大事なのです。 あ、振られたとかじゃないです。 振られたのは納得できます。 まず、私が告白をした理由ですが。 まあ、ぶっちゃけ罰ゲームです。 友達と放課後騒いでたら、とある一人が「デンジャラスなあみだくじしよう」と言い出しまして。とにかく自分なら絶対にしないだろう嫌なことを書いて、普通にあみだくじをして、皆が当たった嫌なことを実行するというものでした。 そしてそれで私が当たった嫌な事とは、全校集会の直後(つまり全校生徒の前で)このみや君に告白するというものでした。 はい、晒し者ですね。 書いた奴を殴り飛ばしたいです、私ですけど。

 別に全校生徒の前で告白して振られるなんて大したことありません。 精々3日程学校を休む程度です。

 そうです、振られなかったんです。

 顔は十人並み、成績も中の中、性格はまあよくある感じ。 加えて隠密スキル。特徴と言えば隠密スキルくらいしかない私に対し、このみや君は成績優秀かつ眉目秀麗で密かに学校中の女子の憧れの的だったりするのです。 そんな彼に告白して振られるなんてよくある話、それでも好きって女の子がいるのもよくある話……ではないけれど。 彼と同じ中学の人が言うには、中学時代に付き合った女の子を監禁しようとしたとか何とか……。 噂だけどね。 そんなこんなで彼のファンなる存在はあれど、彼に告白をかます女子はいなかったのです。

――回想開始。

「スキデス、ツキアッテクダサイ」

 緊張して超棒読みだったなあ。 大根役者もいいとこ、全校生徒の視線を一身に受けた私は目を泳がせながら真正面に立ったこのみや君に言いました。

「…………」

 突然のことに驚いたのでしょう。 このみや君は目を丸くして私の頭のてっぺんからつま先までを視線で往復します。 3往復くらいした頃でしょうか。 このみや君はそれこそ彼のファンである女子が見れば赤面しつつ歓声を上げそうなそれはもう美しい微笑みで言いました。

「いいよ」

――回想終了。

 思えばあの時が私の人生終了の時。 彼のファン達の悲鳴が今も耳に残っています。 ああ、怖い。

「学校行きたくない……」

 そうは思ってももうすぐテストだし、休む訳にはいかない。 中の中でも下よりマシ。 ああ、でも行きたくないなあ。 このみや君に会いたくない。

 何かこのみや君と同じ中学だった人全員に、可哀相なものを見る目で肩を叩かれたり、何かあったらすぐに誰かに相談しなよとか何かあったら言ってね、可能な限り力になるからとか優しい(?)言葉をかけられたけど。 そんなにやばい人なんでしょうか。

「山田さん」

「うあっはぃぃ!?」

 後から突然声をかけられて、思わず奇声を上げてしまった。

(隠密と呼ばれる私が背後をとられるなんて……不覚!)

 振り返るとそこには乙女ゲーのスチルのような美しい微笑み……を湛えたこのみや君。 や、本当に美形です。 かっこいいです、眩しいです。

「おはよう」

「お、おはようございます」

 挙動不審になる私。 目が泳いでる私。

「……昨日はごめんね、告白されることとかあんまりなくて舞い上がっちゃって」

 申し訳なさそうな顔までイケメンってどういうことだろう。 眉が八の字になっててこう、私がやったら間違いなく情けない顔になるだろう表情でもイケメン。 恐るべしイケメン。

「え!? い、いや私こそあんな人の多いところで……」

 あれ、案外普通だ。 告白されることが少ないというのは嘘だと思うけど、噂のせいかな。 てか私罰ゲームで告白したとか絶対言えないじゃん。 この流れ。 どうしよう。

「いいよ、嬉しかったし……ああ、それでね」

 にこりと微笑むこのみや君。

「ケータイ貸して?」

 と言いつつ私の制服のポケットから盛大にはみ出したストラップを掴んでケータイを抜き取るこのみや君。

 そして普通に中身見てるし。 何見てるの? 個人情報とプライベートだよ。

「ちょ、勝手に見ないでよ!」

 あと色々ブクマしてるし恥ずかしい。

 取り返そうと手を伸ばすと片手で受け止められ、そのまま片手で両手を拘束された。

「……山田さんって結構友達多いんだね」

 何見てるの? メール? 電話帳? どっちにしてもプライベートだよ。

「なんだか影薄いからクラスでも忘れられてると思ってた」

 あんた失礼だ。 確かにクラスで忘れられてるなんてことままあるけど、友達はそれなりにいるよ。

「…………」

 ケータイを見ているこのみや君の顔からだんだん笑みがなくなっていく。 何か怖い。 そしてケータイ返して。

「…………」

 完全に顔から笑みが無くなったこのみや君が私の手を離した。

 私はケータイを取り返そうと再び手を伸ばした、が……。

――バキッ……。

 私のケータイは折りたたむタイプです。 折りたたむタイプと言えば、逆パカして壊したって話聞きますよね。 はい、コレは故意です。 明らかな悪意を感じます。

 このみや君はそれはもう素敵な、後光が指すかのような笑顔で私のケータイを逆パカしました。

「はい、返してあげる」

 そう言ってケータイ(の残骸)を私の手のひらに乗せるこのみや君。

「のおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 朝、通学路に響き渡る私の絶叫。

「な、な、何で!? 何でこんなとこすんの!?」

 ダメだ涙出てきた。

「泣くほど悲しいの? ケータイくらいなら弁償するよ?」

 目尻から零れた涙を優しく拭う。 イケメンです。 間違いなくイケメンです。 他人のケータイを故意に逆パカした直後でなければときめいたかもしれない。

 てかケータイは高価だよ。

「あ、でもこれはダメ」

 そう言って再び素晴らしい笑顔で、私が残骸から救出したばかりのSDカードを握りつぶしました。

 何なのこの人、超怖い。

「あああああああああ!!」

 大事なSDカードが……本体壊れても大丈夫なように電話帳をコピーしておいたSDカードが。 これでは以前登録していた人にまた改めてアドレス交換してもらわなければならない。

「今日の放課後買いにいこう、ケータイ」

 にこにこして言ってるけどあんたが壊したんだからな。 私は多分人生で一番情けない泣き顔を晒している。

「あ、でも僕以外のアドレス登録してたりしたら壊すから」

 そりゃあもう美しい笑顔ですけど言ってることおかしいぞ。

「それから……」

――カチャ……。

 泣きながら睨み付けていたこのみや君の顔から視線を下にずらすと、私の左手首にしっかりと手錠がはめられていました。

「な、何これ!?」

 持ち上げてみたらちょっと重い。 え? 本物? いやいや。 ぶんぶん振り回してみたり、引っ張ったりしても取れない。

「指輪の代わり」

 指輪って……指輪? こう、手の指にはめるあれ? の代わりが手錠って何だ。

「兼首輪の代わり」

 首輪!? 何で首輪だ。 指輪よりわけわからん。

「はずしてよ!」

「どうして?」

 どうして、だと……。

「だって何で私が手錠なんかしなきゃなんないの!?」

「だってもう僕のものでしょう? 僕が何しようと僕の勝手だよ?」

 このみや君おかしい。 絶対おかしい。 だいだい……。

「私がいつあんたのものになったの!?」

「昨日」

 きっぱり言い切るこのみや君。 え? 昨日って私が全校生徒の前で大根役者っぷりを披露したあれ? あれで私はこのみや君の所有物になってのですか? 告白してきたらそいつは所有物なの? やっぱりこいつおかしいよ。

「授業中はクラスが違うし、仕方ないけど……それ以外は僕の目の届く範囲にいてね」

 思わず通行人が振り返るような美しい笑みでも言ってることは犯罪っぽいよこのみや君。

「…………無理」

 何で私はあんなことしたんだ。 全力で嫌がったら皆罰ゲームを変えてくれたかもしれない、ってか何であんな罰ゲーム書いたし。 書いた自分をぶん殴りたい。

「え? 聞こえないな」

 途端に笑顔を引っ込めて冷めた目で私を見下ろすこのみや君。 怖い怖い怖い。 何この人絶対ドメスティックバイオレンス。 背中に冷や汗、そして悪寒。

「もう一回言ってくれる?」

 私の手にはさっきぶち壊されたケータイ。 もっかい嫌って言ったらどうなるんだろう。 私もこのケータイみたいになる? いや、逆パカはないだろうけど、恐ろしいことになりそう。 というか私の想像が恐ろしい。

「…………了解しました」

 消え入りそうな声で私は言った。 怖い。 恐怖心に勝てなかった。

「そう、じゃあ今日は放課後にケータイ買いに行こうね」

 途端に花が咲くように笑顔になって、手にはめられてない方の手錠の輪を掴んで歩き始めた。 私も左手の手錠に引っ張られるように歩き出した。ちょっと痛い。 手錠痛い。

「あ、ケータイは買ってあげるけど僕以外と連絡とっちゃダメだよ?」

 歩きながら楽しそうに言うこのみや君。

 昨日の彼と同じ中学出身の皆様の視線の理由と優しいお言葉の意味を理解しました。 これに告白する勇者なんていないよ、普通。 怖いし怖いし絶対ドメスティックバイオレンスだし……。 でもとりあえず今は。

「家族は例外にしていただけませんか?」

 私の地獄はまだ始まったばかりである。

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