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ドラゴニック・マナ  作者: ボケ封じ
第一章
9/65

片鱗

リアルが大変だと弱音は吐いていられない(笑)


9話目です、宜しくお願い致します。

 『本当に倒しきってしまったんですね』


 合流した直人がマリウスに声を掛ける。マリウスも、マリウスに寄り掛かるようにしているティナも釣られて直人を見上げる。

 マリウスやニースは疲れてる雰囲気だが、ティナは顔も青白く、満身創痍に見える。

 魔法を使うのはそれほど何かを削られるのか、それとも激闘だったのかと直人は心中で想像した。

 所詮囮役でしかなかった直人には、口を出すのは憚られた。


 『恐らく下位の魔獣しかいなかったのでしょう、幸いでした。でなければこんなに早く、容易く殲滅は出来なかったでしょう』


 マリウスが告げ、ニースとティナの活躍を教えてくれた。マリウスは戦う力のあまり無い自分を省みて少し暗い表情だったが、勝利にホッとしてるのか穏やかな表情はそのままだった。

 落とし穴はもう埋まってしまっていたが、それでも凄惨な臭いが時折風の具合で直人の鼻をつく。

 その光景と臭いに我慢出来ず、万が一に備え取っておいた最後の魔法石を使い、ニースが埋めたらしい。


 『魔法ってすげえんだな』

 『直人の世界では魔法は使えないの?』


 直人がポツリと溢した一言をニースが拾い聞き返した。


 『なんか、呪術めいたのはあるけど、ほとんどが眉唾さ、魔法なんてお伽噺の世界だよ。でも、この世界に来た俺も使えるようになるのかな? どうやるんだ? 教えてくれよ』


 直人が見下ろしながらニースにご教授願うが、


 『ふ、魔法はここでも選ばれた人にしか使えないわ、それこそティナさんのように魔導士なんて国に二、三人もいれば凄いことなのよ、賢者なんてわかってるだけでこの世界に二人しかいないんだから。それより、あんたなんで私には敬語使わないのよ?私は精霊魔法士なのよ? 凄いのよ? ねえ、ティナさん』


 どうみても自分よりも年下であろうハーフエルフの少女を見下ろしながら直人は言った。


 『いや、なんとなく?』


 それを聞いてムキーするニースにティナがようやく口を開いた。


 『あなたの講釈はもともと誰に教わったんだっけ?』


 と、いたずらっ子が浮かべるような笑顔でニースに釘を刺した。


『え~でも私はティナさんを尊敬してるもん。だから魔法の教えを乞う直人は私を尊敬しなさいよ』


 駄々っ子のように身体をフリフリ、直人を睨む。そもそもニースも敬語じゃないじゃんとは言わなかった直人。


 『私が言うのは傲慢かも知れないけど、魔法行使には確かに素質が大事よ、まずは世界に満ちる魔素を感じ取って、体内で魔力として精錬する、それを魔術、魔法として発現させる。これが一連の流れ。ただ魔素を感じ取るだけでは駄目よ、魔法行使は最低限体内で精錬出来ないと。』


 そこまでいうと、見ててと手のひらを差し出すティナ。皆が注目する。護衛であるはずのクロックも覗き見ていた。

 ティナは一つ深呼吸すると目を閉じた。すると手のひらの中心に向けて光の粒が集まりだした。

 そこでティナはふぅと息を吐き手を閉じた。


 『今は、直人用に魔法を使ってるから、これが限界。どう魔素は見えたかしら?』


 にこりと笑顔で直人を見るティナ。そこには新しいオモチャを買い与えられた時の子供の顔があった。

 

 『龍の巫女たる血筋でも、魔素すら知覚出来ないこともあったと聞いています。でも姉さんの子なら…でも男だし…』


 いや、でもと一人迷宮に入ったマリウスを他所に、直人は自分の手のひらを差し出し、仕切りに難しい顔をしていたが、それは突然起こった。

 見えたのねと、ティナがささやいたのと同時、ニースがそんな~と項垂れたのと同時。

 手のひらどころか直人の全身を包むように光の粒が集まり出した。

 それを見てその場の全員が目を見張った。本人である直人すらも驚きの表情だ。


 『凄い……』


 誰ともなく零れた言葉に全員が同意だ。勿論直人も。

 留まることなく光が集まり続ける。直人はもはや、全身を脱力させ目を半眼にし、瞑想するように自分の中へと集中していく。全身浴びるように集まっていた光の粒はそれに合わせてへその下、丹田へと集まり出す。


 『今度は魔素を一つの力にするイメージよ』


 ティナが驚きから醒め、直人に魔素の精錬をイメージさせる。


 力? 力とは?

 具体的な力のイメージがつかず戸惑っている間も魔素は集まり続ける。


 『こ、こんな事って……』


 マリウスは自分の記憶にある姉を思い浮かべた。幼い頃に姉のユウナと初めて魔法の講習を受けた時である。あの時、私は今のティナのようにしか出来なかった。でも姉さんも手のひらを埋め尽くす程にしか出来なかった。成長してからわかったことだが、魔素の収集効率は成長しないのだ。修練を積んで成長するのは魔力の効率化だけで、今の直人の収集効率は常軌を逸している。それこそ賢者や、伝説に出てくるようなお伽噺の世界だ。

 もしこれを100%魔力変換し、減衰なしに行使出来たら……。


 『身体から吐き出すイメージを持って、このまま精錬出来ずに溜め込むのは危険だわ』


 ティナは自身の身体を起こし、途端に四つん這いになった。まだ立ち上がる力が戻っていない。

 まわりに伝わったのか、驚愕の表情を浮かべていたニースとクロックもティナと直人を交互に見る。


 渦中の直人は、それを他所に落ち着いていた。

 この感じ、まるで母さんに抱き抱えられてた時みたいだ。

 優しく自身を包む光を丹田に集めながら幼き頃を思っていた。

 実際に、じわりと腹から暖かさも感じていた。


 (吐き出す……)


 直人は馬歩に構え、顔を上に向け、ハッという呼気と共に両手を中空へと突きだした。

 それを機に丹田へと集まっていた温もりが霧散し、何かが身体を駆け上がった感覚を味わった。

 見ていた者達は、直人の身体から発する太陽のような光に、全員が手で目を覆い顔を逸らさなければならなかった。

 一瞬の静寂。


 直人は一つ深呼吸し、難しいなと溢した。

 クロックは直人への賛辞の嵐だった。魔素の知覚すら出来ないクロックでも、直人に集まりハジケタ魔素の光を見ることができたからだ。

 ニースは、肩を落として、なによそれ?私も凄いのに…誰も褒めてくれない…とかブツブツ言っているのを、直人がフォローしていた。

 だが、ティナとマリウスの顔は険しくなっていた。


 『マリウス様…黒の賢者の狙いとは、もしかして……』


 マリウスはそれには答えなかった。だが、考えていることは恐らく同じだろう。

 龍神の降臨

 本当にそんなことが可能なのだろうか……。

 なら直人はどうなる?

 いや、そもそも龍神を降臨させて何を目的にしているのか?

 わからない……。


 思考の迷路に嵌まりかけた顔を、下から覗き込むように見る直人が眼に入った。


 何かまずかったですか?

 直人の目がそう聞いている。マリウスはその目を見て直ぐ様笑顔を作り、


 『大丈夫よ、黒の賢者があなたを狙うのがわかったわ…それにしても凄いわ、ねえさ…お母さんを遥かに超える資質よ、直人』

 『良かった、何か間違えたのかとヒヤヒヤしました。黒の賢者?って誰です?そう言えば聞きたいことがたくさんあるんです』


 一安心し、直人も笑顔を溢した。すると、この世界に来てからの疑問が一気に思い出されてきた。


 『ふふ、それはもう少し待って、フォルディス達が戻って安全を確保出来る場でしましょう』


 言って、マリウスはやけに戻りの遅いフォルディスを気にかけ、ティナを見た。ティナも心配そうに村の方を見ている。


 『私が行きましょうか?』


 気を利かせてか、クロックが申し出るが、現在まともに戦えるのはクロックしかいない。ここを離れさすわけにもいかず、もう少し様子を見て、体力を戻してから全員で行く事で一先ず落ち着いた。


 魔法石の温存のために、一旦思念の魔法を解くと、ティナは目を閉じて草原に横になった。手には首もとのネックレスをキュッと握りしめられていた。

 それを見て各々座り込み休憩をとり始めた。


 さっきの感覚を忘れる前に復習しようとしていた直人も、邪魔になりそうだと大人しく座って待つことにした。何故か、背中合わせにニースがもたれ掛かってくるのを疑問に思いながら。



 なんだこいつは……。

 フォルディスは焦っていた。

 自分の前に立ちはだかる魔獣に、これまでに何度も斬り込んだが傷一つつけれないでいるのだ。


 有り得ん、身体強化も剣への魔力付与も惜しみ無く行っているのにだ。この魔獣はかわすどころか、身動ぎ一つしやがらねぇ。


 一度呼吸を落ち着かせるために一歩下がって魔獣を睨む。

 目の前に現れてから動かなかった魔獣が、一区切りかと口を開いた。


 「終わりか? 虫けら。まだまだ余力を残しているようだが? それではまだまだ足りん。どうした?死力を尽くせ」


 フォルディスは驚愕する。魔獣の謎の余裕もだが、


 (人間の言葉を話すだとぉ)


 魔獣は書いて字のごとく、獣が魔に堕ちた状態、その状態での繁殖、例外的に、突発的に魔素を取り込み状態異常を引き起こしたモノ。

 知能は変わらず、まして言葉を話す等は聞いたことがない。


 だが、目の前の魔獣ははっきりと言葉を使った。

 いや、はっきりとした、こいつは魔獣ごときではないのだ。

 俺の落ち度だ。こいつは……。


 フォルディスは知らず口中に溜まった唾を飲み込んだ。

 

 魔属だ。


 現処、幽処、獄処に別れると言われる世界の境界。その中でも最果て、獄処の住人。

 伝説の中でのみ生きる魔の根源。それが魔属。


 吟われ、記された伝説には、魔人、魔王、魔神とある程度の段階を踏むとある。全ては伝説の中だ。確かなことは、


 「貴様ら、獄処の住人がどうやって出てこれた?」


 伝説は綴る。

 この世界の成り立ちを。

 原初の龍が作り上げた世界は一つ。時を経て、種が乱れ、世界が淀み、龍が作り出した世界は混沌とした。

 龍は混沌を最下層の獄処へ、蓋として精神体を幽処へ、最上層としてそれ以外を現処へと分け、二度と交わることの無いよう世界を途絶した。


 綻びを抜けて、区切りごとに抜けるものもある。死霊や精霊、妖精の類いだ。だが、最下層の住人は最上層の現処には現れない。それが通説だ。

 しかし、こいつは正にここにいるではないか。

 では、どうやって? 何故? いや、こいつだけなのか?


 フォルディスは自身の想像にゾッとするものを感じた。

 こんなやつがうじゃうじゃいてたまるかよ。

 心中で吐き捨て、真っ直ぐに剣を向ける。


 「答えろ!」


 ともすれば畏怖の念すら抱いてしまいそうになる自分を弾くように、声を気合いと共に飛ばした。


 「不遜。本来ならば虫けらが我に指図するなど万死に値するが、今、我はいささか気分がいい。この後の楽しみのためにも答えてやろう」


 やはり、口以外は微動だに動かず答える。その口は耳元迄裂けきり、嗤っているのか、酷く歪んで見えた。


 「我は魔神ネクタール。世界に破滅と絶望を告げる者だ。虫けらに等しい人間よ、貴様らはその一番槍を我に入れたのだ。その喜びを身に刻み、絶望と痛苦、失意の中で死んでいけ」


 答えにならぬ答えを吐き出し、ネクタールはツイとその巨躯に似合わず静かに一歩を踏み出した。

 だが、フォルディスにはそれが恐ろしかった。そこに、まるで達人のような身のこなしを垣間見た。


 チッと小さな舌打ちを残し剣を構え、腰に下げていた楕円のラウンドシールドも取り出した。

 盾の持ち手ををグッと握りこみ肩の高さに構えたときに、不意に盾に衝撃が走った。いつの間にかネクタールの右腕が、横から流れるように襲いかかったのだ。

 全く見えなかった攻撃だが、盾に当たった瞬間に衝撃をそのまま右に飛び逃がそうとするが、ネクタールの膂力は凄まじく、フォルディスが跳ぶより早くラウンドシールドをひしゃげさせながら吹き飛ばされ、そのまま民家木の壁を突き破っていった。


 石壁で無かったことを感謝する間もなく、直ぐ様立ち上がり、ふらつく頭を振って、突き破った壁から外に出る。

 ラウンドシールドは、ひしゃげてはいるがまだ使えそうなのでそのまま前に構える。

 盾越しにネクタールを睨むが、当のネクタールはこちらを見ていなかった。

 南の方を見ている。


 直人に気付いたのか? ならばもはや、出し惜しみはしてられん…こいつはここで……。


 村外れで待つティナの顔がふとよぎった。得意の風系とは言え、王級の魔法をあれだけの数の魔獣を駆逐するのに制御し続けたのだ。こいつを行かせてはもはや太刀打ち出来まい。


 仕留める!


 自分に活を入れ、身体強化、神経強化と装備品への魔力付与も最大限こなす。

 そして、首もとのネックレスにも魔力を集中する。

 ティナが着けているのと同じデザインなのだが、ティナが着けているのはいわば複製、フォルディスのモノがオリジナルで、これは神器(アーティファクト)と呼ばれる古代の遺物だ。


 アーティファクトには様々なモノがあるが、そのほとんどはほとんどが失伝している古代語魔法が込められている。一度しか使えないものから、数度、無制限となるにつれ当然価値も跳ね上がる。

 

 フォルディスは持っているのは一度きりだが、それでもその価値は計り知れない。

 ただし問題もある。

 何が込められているかがわからないのだ。一度以上使えるものは一度使えば分かる。

 ただし一度きりのものはその時にしか分からない。嵌め込まれた宝石の色である程度の回数制限の選別は出来るのだが、魔法の種類の特定には未だ至ってはいない。しかしそのほとんどが戦闘用であることは少ない実例でわかってはいる。制限が少ないモノほど非戦闘用のモノが多いのだ。


 ここで使わずにいつ使うんだよっ!

 剣を持った右手で器用にネックレスをちぎり取り、ネクタールへとかざした。

 輝きを増したネックレスが、その効果を解放する為に砕け散る。


 ネクタールが四つの目を見開き、何かを悟ったのか腕を畳み、身を小さくし、魔法の詠唱を始めた。


 (あれは、古代語? 魔法も使えるのか? だが遅い)


 ティナの詠唱に似たものを感じたが、古代語を知っているのであろうネクタールの慌てぶりから、このアーティファクトはどうやら当たりのようだ。


 まさにアーティファクトに込められていた魔法は、単騎に絶大な威力を誇る光系魔法である。それを察知したネクタールだが、フォルディスの考え通り防御魔法を張るには少し遅かった。


 すると、ネクタールを中心に10歩分程の、透明な膜の半球のドームが広がり始めた。フォルディスは慌ててそのドームに入らないように後ずさる。

 するとドームの中に拳大ほどの光球が現れ、見る間にドームの表面を埋めつくし始めた。

 現れ続ける光球でネクタールの姿が見えなくなると、一斉に、光球が中心へと、そこにいるネクタールへと弾けた。


 正に轟音。

 何かが連鎖的に爆発する音を上げて、ドーム内は土埃に包まれ、次第に膜のドームも薄れていった。

 ドームが消えると同時に土埃も風に飛ばされていく。


 (ここでっ)


 土埃が完全に消える前にフォルディスは踏み出し、全体重を乗せて、魔力が付与されたブロードソードを突き入れた。

 今のアーティファクトの魔法効果で、体表を守っていた何かが消えたのだろう、今度の攻撃は肉に剣が入っていく感触が手に伝わった。


 「もぉいっちょおぉ!」


 フォルディスは剣を抜きその反動で身体を回し、裏拳のように横凪ぎに剣を振るった。

 これも、弾かれることなく振り抜き、ネクタールの血であろう、緑色の液体を噴き上げさせた。


 返す剣で、土埃もなくなり露になっている首筋へと剣を振るう。

 だがこれは体表で弾かれる。その手応えに二歩分を飛びすさり、間合いを取りながら態勢を立て直し、ネクタールを観察する。


 手応えはあった。深手は負わせたはずだ。


 フォルディスは確信していたが、最後の斬撃を止められたのが悔やまれた。

 しかしてネクタールは、腕を畳んでいたのが裏目に出てしまい、両腕共に半ば程まで傷は達しており骨が垣間見える、腹にも刺突の後からだくだくと緑色の血を滴らせていた。よく見れば、身体中が焼けただれたり、体毛が無くなっていたり、肉が抉れている部分もある。四つの目の左端も潰れて緑の血が涙のように流れている。


 「貴様っ、何故我らの力が使えるのだっ? 下等な生物が…四元素しか使えないような塵屑の分際で…それだけに留まらず、鋼ごときで我に傷をつけるとは…もぉいいぃぃいい、貴様は即刻殺す! 塵芥となって消えるがよいっ」


 人間ならば、立つどころか、生きているのも難しいだろう傷を負っているにも関わらず、その巨躯から発せられる殺気は、衰えるどころかフォルディスをして、怯ませるほどに迸りだした。


 気圧される程の殺気の中でもフォルディスは冷静に観察する。

 血が流れるならば倒れる。それに無数にある傷口で剣を弾けはしないだろうとも予測する。

 腕でガードしていた為に、傷の少ない首筋には刃は通らなかったが、爛れた腕と腹には通った。

 倒すのは今しかない。もし、未知の魔法で回復されては勝ち目はない。


 「ふん、下等だぁ、ゴミだぁ、うるせえよ、そのゴミに傷つけられてるお前は何なんだ? 糞か? はは、似合いだよ、この糞野郎が!」

 「き、ききききさああぁぁまああぁぁあ」


 相手の心理を突いて乱すのは兵法の初歩だよ。

 ネクタールが激昂するのに反してフォルディスは冷静になっていく。

 やつの膂力は危険だ、先手を取る。


 3歩の距離を一歩で潰し、首筋を再度薙ぐと見せて、剣の軌道を変え左太ももの、アーティファクトにより抉れた箇所を薙ぎ払う。


 ネクタールはダメージがあるのか反応しきれていない。

 が、フォルディスは左からの殺気を機敏に感じ、剣の軌道をさらに下げ、その軌道に身体を乗せて下方へと滑り込むように、ネクタールの右脛を切りにかかる。

 瞬間、頭の上を暴風と共にネクタールの血塗れの右腕が通過したが、フォルディスの読み通り、そのまま右脛を両断する。


 膝から下を無くした激痛に、獣の雄叫びをあげながらぐらりと前に倒れ込んでくるネクタールを左に避け、そのまま背後に回り、頸椎目掛けて剣を突き立てた。


 首の皮に剣が入った刹那に、ネクタールが両手を後ろに回し剣を鷲掴みにした。剣先には骨の感触があり、もう一押しで頸椎に突き立てられるが、フォルディスは迷うことなく剣を離し、後ろに飛びすさった。


 軽くなった両刃のブロードソードを苦もなく握り砕き、フォルディスの方へと膝立ちのまま振り返るネクタールの顔には、異種族でありながらも、明らかに憤怒に染まっているのが見てとれた。


 「人間ごときが……人間ごときが……」


 ブツブツと呟く姿はどことなく人間らしさも感じるな、と一息吐いて思った。見た目は似て非なるが、精神構造は近いのかもな、とも考察する余裕がフォルディスにも出てきた。


 ネクタールを中心に円の動きで、じりじりと回りながらネクタールをけしかける。


 「ふん、魔神ネクタールってのはどうやら、口ほどには高位な魔神ではないのだな。人間ごとき矮小な生き物にも劣るとはな」


 ネクタールからはあまり反応が返ってこないが、好都合とさらに回り込み、罠にかかって死んだ魔獣の死骸の傍で止まる。

 人の大きさ程のクワガタのような昆虫型の魔獣の牙を引き抜き、剣の替わりにする。湾曲した牙の内側には獣の牙のようにびっしりと刃が並んでいる。長さもブロードソードよりは短いが扱いやすさはある。


 「黙れ……黙れ黙れ黙れ黙れ、我が人間を前に背を向けるだとぉ、ふざけるな、召喚者といえど……グアアァァ」


 (なんだ? 誰と話している、召喚者?)


 ブツブツ言っていたのは相手がいたようだ。少なくとも自分ではない誰かだ。とフォルディスは考察し観察を続ける。後ろを取っているが、さっきの反応を見る限り、好んで手を出したい相手ではない。


 「おのれぇ…貴様、此度は見逃してやる。が、次は無い。余興も過ぎた。仮に我と相見えた時、いや、必ず我が貴様を血ヘドの海に沈めてくれる。名乗れ、我は魔神ネクタール、貴様を蹂躙する者だ」

 「いいだろう、私は、武闘国家ファティマの八騎士が一人、サリュー・ビンデンバーグ、お前を屍で獄処へ叩き返す者だ」


 さらっと嘘を吐き、難を逃れるフォルディス。

 こんなやつと二度とやりあうのは御免被る、アーティファクトももう無いしな……一度だけ面会したファティマの筆頭騎士よ、後は任せた……。


 「貴様のその魂の色と名は忘れぬ。次に見える時の貴様の苦悶の表情が見えるわ、努々忘れるな……」


 ネクタールは、いつのまに展開されていたのか足元の魔方陣に吸い込まれるように消えていった。


 ネクタールの姿が消え、魔方陣も光の粒子となって中空に消えたのを確認し、フォルディスはどかっと座り込んだ。


 (やっちまったな……)


 空を見上げ、考えなければならない事を一瞬放棄し、しばらく雲を眺めた。



土曜の零時って言ってたけど、日曜の零時と勘違い…

アホですいません。

アーティファクトっていう四次元アイテム(笑)がこれから度々出ますが、ここはファンタジー、御都合主義でいかせていただきます(笑)

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