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ドラゴニック・マナ  作者: ボケ封じ
第一章
47/65

姉妹

お盆はリアルが忙しいので今のうちに投稿。


ユニークが1000を越えました。


趣味のような執筆ですが嬉しいです。

ありがとうございます。


47話目、宜しくお願い致します。

 どうも治療院が慌ただしい。

 薬を飲ませてから少しづつ血色が良くなっているニースは、今は治療院の簡易ベッドに横になっている。まだ意識は戻ってはいない。

 直人は少しでも警戒するために灰色の髪の吸血鬼(ヴァンパイア)の気配を探っていたが、こちらはあまり芳しくなかった。

 不死であり元々生命力が希薄なのか、魔力を使わないのも合わさってやはりいまいち気配が探れないでいた。


 そこに来てこの騒ぎだ。

 直人には声が聞こえた瞬間から誰なのかがわかり、直ぐに部屋を出て入り口へと暗い通路を進んでいった。



 「ランスロットはどうなの? 助かるの?」


 アンナが切れ長な目をこれでもかと見開きながら治療士に詰め寄るが、治療士は全く意に介さず気を失っているランスロットの身体を診ている。

 特に欠損した左腕を入念に診てからアンナに振り返った。


 「もう、治療するところは無い」

 「は?」


 耳に心地好い声質をしているが、しゃべった内容はアンナには通じなかったようだ。


 「ちょっと! どこからどう見ても左腕が無くなってるじゃないっ! それに気を失って倒れたのよ?」


 治療士の鼻とアンナの鼻がくっつきそうな程に顔を突きつけて怒鳴りたてるアンナを治療士は涼しげに見つめると、そっとアンナの肩をつかんで後ろへ下がらせる。


 「どう見ても傷は塞がっているし、ここまで傷口を塞いでいれば例え欠損した左腕がここにあったとしても再び繋げる事は出来ない。また、気を失っているのは魔力の使いすぎによる精神疲労だ、ほっとけば直ぐに目を覚ます。お望みなら気付け薬を出すがどうするね?」


 淡々と説明し終え、目の前で口をパクパクとさせているアンナを尻目に、用が済んだなら失礼する。金はそこの箱に頼む。と言って入り口のカウンターの片隅に置かれた木箱を指差して部屋のカーテンを潜って出ていってしまった。


 「アンナ」

 「?? 直人!? 何でこんなところに?」

 「アンナ達こそ、まさか」


 聞けば自分達と別れて直ぐに赤髪の吸血鬼(ヴァンパイア)フレイヤの攻撃を受けたようだ。そっとティナを盗み見するがいつも通りのティナに見える。


 「吸血鬼(ヴァンパイア)はやっつけたんだけど、ランスの腕が……」

 

 アンナは診療所の入り口で横になっているランスの、左肩を擦りながら何とも言えない表情を見せる。

 自分の盾となるように振る舞っていたランスロットを思うと、様々な感情が沸いてくるのだろう。


 「あなた達は無事なのね?」


 診療所の奥の方を見ながらティナが直人に声を掛ける。


 「あ、あぁ、こっちも灰色の髪の吸血鬼(ヴァンパイア)が来たんだけど、ニースが怪我をして、それで……逃げてきた」

 「ニースは?」


 ニースが怪我を、の部分で今度はティナの表情が曇る。騎士であるランスロットとは違い、ニースはティナの教えを少し受けた程度の村娘なのだ。数年の付き合いもあり、妹のように感じているティナの心配の度合いは当然違う。

 

 「さっきの先生に診てもらって、今は奥の部屋で寝ているよ」

 

 直人が言うが早いか、ティナは足早に診療所の奥へと向かう。少し鬼気迫るティナに気圧されながら直人もついていく。


 一番奥の部屋へと入るとニースはまだ治療用の簡易ベッドの上で眠っている。

 足早にティナが傍らによると直人も遅れて部屋へと入った。

 眠っているニースの髪を優しく撫でるティナの姿を見て直人は、心が痛むのを感じた。

 母と兄がいなくなった時にも感じた胸の痛み。

 大切な誰かを失う痛みだ。

 今回は無事だった。だが次に同じ状況で更に凶悪な敵が現れても無事にやり過ごせるかは、今の直人には自信は無かった。

 目の前の、仮初めとはいえ、妹を労る姉の姿は、沸き上がる情けなさで更に胸を締め付ける光景だった。

 しかも、ティナは既に愛しい人を無くしている。その心痛は直人の比では無いだろう事も直人に苦渋の顔をさせる。


 「すまない……俺が『無事で良かったわ……』


 直人が言い掛ける前にティナが強い口調で遮った。

 

 「灰色の髪の吸血鬼(ヴァンパイア)がわずか1日で復活した誤算」


 ティナが人差し指を立てて直人に見せる。


 「街中でしかも昼間からの強襲は無いだろうとの油断」


 中指も立てて見せる。


 「そして、今も、私達が合流したことでの安心感からの油断……」


 薬指で合計三本を立てて見せ、直人を振り返り真剣な眼差しを向ける。


 「最後にあの戦いから、貴方が一人前の戦士としてやっていけると考えた私の浅はかさ……これだけの要因があってもあなた達は戻ってきてくれた。今はそれで良い。これからを見ていきましょう」


 項垂れる直人にいつの間にか隣に立つティナが頭の上に手を置き髪をくしゃくしゃと撫でた。

 

 「小さい時よく母さんもそうやって俺の頭を撫でてくれたよ……」

 「そお……私はまだ(・・)26歳なんだけど?」


 くしゃくしゃとしていたティナの手はいつの間にかグリグリに変わっている。


 「あ、いや、そういうんじゃなくて」

 「もお、ダメ?! 食べられないよ…………」


 二人が同時に視線を向けると、寝ながらも満面の笑みを浮かべながらムニャムニャと寝言を放ったニースが映る。


 「ふふふ、本当にこの娘は、ほら、起きなさい。あなたが食べられるわよ?」


 呆れながらティナがニースの元に行き身体を揺すって目を覚まさせるが、ニースは、あともう少し、とか言いながらなかなか目を覚まさない。


 直人はいつの間にか消えた罪悪感やら焦燥感から解放されているのを感じながら治療室を出てアンナの元に向かった。


 暗い通路の先、明るい入り口付近では、ランスロットが目を覚ましたのか、アンナの怒濤のようなランスロットに対する罵倒が響いていた。

 その声は少し掠れ、時々しゃくりあげるような声に聞こえる事からも、アンナが泣いているのがわかった。


 「今後二度と、このような戦い方は認めないわよ……」

 「勿体無きお言葉……ですが『ですがも何もないっ、認めないったら認めないのっ!!』


 困った顔をしたランスロットの胸にうずくまるアンナは、どこかの国のお姫様ではなく、一人の女の子に見える、二人の前に来た直人はそう思った。


 (皆同じだ……大切な誰かを守るために戦っている。戦わなきゃ前には進めない)


 何かに気付いたようにうっすらと笑う直人を見て、ランスロットが感心したような目付きになったが道化師の仮面が誰にもそれを悟らせなかった。


 「心配をかけた、護衛役に雇われておきながら面目ない。が、この程度で弱るほど柔な鍛え方はしていないつもりだ」


 ランスロットの言葉の後半は、直人の後ろに立つティナに向けられていた。仮面越しにティナを見据えるが、ティナは、そお、とだけ口にするとアンナを見た。


 「船の出航は今晩、それまでは別行動せず固まって動きます。それと出航までは船室で過ごしましょう、見張りも必要ね、さあまだ灰色の髪の吸血鬼(ヴァンパイア)が残っているわ、油断なく行きましょう」


 普段の柔らかな声色と違い、戦闘時の強ばった声で皆に伝えると、最後にアンナの肩に手を置いて耳元で何事かを呟いた。するとアンナはバッと頭を上げて泣き腫らした目を普段よりも吊り上げてティナを見た。どうも怒りが籠っているように直人には見えた。

 事実、アンナは怒っていた。がそれはティナにではなく、自分に対してだ。

 だからこそティナには何も言い返さずに、勢いよく立ち上がると、行くわよ、と診療所の入り口で腕を組んで見下ろすように一同に号令を発した。

 何か発破を掛ける事を言ったのだろう、短い期間によく人の性格を見抜いているなと直人はティナに感心した。


 診療所を出る前にティナが腰に提げた布袋の中から何かを取りだし、カウンターの隅に置かれた木箱に入れると、チャリンと硬貨の立てる音が響いた。

 何だか貯金箱みたいだなと日本の自分の部屋に置いてある、豚の形の貯金箱を思い浮かべ、


 (ん? 何か忘れてるような……)


 首を傾げながら何かを思い出そうとするが、不意に腕に抱き付いてきたニースに気を取られすっかりと頭から抜け落ちてしまった。


 「ごめんなさい……私、何も出来なくて……」

 

 見るとニースはその翡翠色瞳に涙を浮かべながら直人を見上げていた。


 「良いんだよ、何も出来なかったのは俺だって同じだし、逆の立場ならニースが俺を助けてくれたんだろ?」

 「そんなの助けるに決まってる!」

 「なら、良いじゃん、俺達仲間だろ」


 直人の言葉に少し下を向いたニースだったが、直ぐに何時もの笑顔を直人に向けて、そうよ大事な仲間よと明るく返した。


 「それより、さ」

 「ん?」


 直人が頬を赤らめながらポリポリと頬を掻く仕草をしながら、腕に抱きついたままのニースと自分の腕を交互に見るが、ニースもそれに気付いてからかうような目付きになった。

 

 「あれ? 照れてるの?」

 「い、いや、照れてるわけじゃないさぁ、あ、ほら、暑いなぁって」

 「ふぅん……」


 困った顔をしながらしどろもどろに話す直人を見て、満足げな笑みを浮かべるとパッと直人から離れて今度はティナの腕に抱き付き、直人にはベエと下を出して、行きましょっとティナを引っ張り出した。


 「なんなんだよ、ほんとに」


 直人はそう呟きながら一同の最後に診療所を後にした。


 静けさを取り戻した診療所の通路の一番奥から、まるで幽鬼のように暗がりに立ち直人を見据える男の視線には誰も気付きもしなかった。

 



 

 

次回は恐らく来週末を予定してます。


ユニーク1,000越え、アクセス3,000越えを記念してサイドストーリーにしようかと思ってますが、お盆期間に仕事でどれだけ殺られるかによって左右されます……。


こんな話ですが楽しんで頂ければ最上です。

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