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ドラゴニック・マナ  作者: ボケ封じ
第一章
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What your name

仕事に余裕が出来、執筆時間が少し取れた♪

四話目、宜しくお願いします。

 目を覚ますと、まず見慣れない天井が見えた。

 何の装飾も、工夫も無い只の板張りの天井だ。

 ゆっくりと上体を起こしていく。身体に異変は無いように思う。


「さっきは外にいて…黒いコートの男は?」


 まだ、頭がスッキリとしない。こんがらがっている。テスト前に徹夜したまま、2教科目くらいのテストを受ける前のような気分だ。


 ここはどこだろうか?と考えて見るが、検討もつかない。

 ゆっくりとベッドから足を下ろし、立ち上がって、軽い柔軟をしながら自分の身体を確認していく。

 身体は動く、服は寝ていた時のままの上下ジャージだ。

 明かりの差し込む窓(といってもガラスもなく木の板が観音開きになってるだけ)から外の様子を伺うと、外には、石造りの同じような形の家が並んでいた。陽のさし方から、昼前位だろうかと推測する。そういえば腹も減っているなと思いながら、今度は部屋の中を見回してみる。

ベッドとテーブルがあるだけの部屋だ。病室なんかよりも質素な感じがする。


 テーブルの上には、ガラス製の水差しと木のコップが置かれていた。

手に取り、コップに注いだ水を躊躇いなく飲んだ。

 ほのかな柑橘系の味付けがされており、温くなっていたが飲みやすかった。


 一息ついたところでベッドに腰掛け、今度は順を追って思い出してみる。


 部屋に黒いコートの男が現れ、不思議な現象をいくつか体験した。

 変な水晶のような石を取り出して漫画みたいな魔法みたいに何かを唱えた、と思ったら、次は女の子とお姉さんが俺を覗き込んでた。

 外国語で話しかけられて、よく解らないうちに、頭が痛くなって、気付いたらこの部屋にいた。


 (うん、さっぱりわからん)


 どうやらあの黒いコートの男に誘拐されただろう事だけはわかる。しかし、にしても、不用心だな。

 ベッドに寝かされ、拘束もされてないし、窓は開いてるし、水まで置いてある。外に出てもすぐにわかるのか、逃げられない敷地内にいるのか……。


 (あの女の子達は、なんだったのだろうか?)


 俺と同じように拐われてきたのかも知れないな。と直人は自己完結させ、ともかくも、外に出てみる事にした。が、靴がない。立ち上がり、再び窓から外を見ると、外は舗装もされてない剥き出しの地面だ。何もなければいいが、ガラスやらなんやらで切るのはよろしくない。

 どうしたものかと俯くと、ベッドの縁に、革製のショートブーツのような靴が置いてあった。

 

 (至れり尽くせりだな)


 水同様に、疑いもなく履いてみる。少し大きめだが、許容範囲内だ、紐をしっかり絞めれば気にはならない。

 その場で跳んだり、踏み込んで廻し蹴りをしてみたりと具合を確かめてみれば、上質の革なのか、履き心地はとても良かった。


「よし!」


 一人小さな気合いを入れて、窓に手を掛けたのと、部屋のドアがノックされたのは同時だった。


 ここで居ないのがばれれば発見されるのも早くなってしまう、と即座に考え、さっとベッドに腰掛けた。


 (しょうがない、まずは相手の出方を見るか)


 ドアの向こうからは、女性の、やはり聞いたことのない言葉が聞こえた。起きたか?とか失礼します、みたいな感じだろう。


「OK、OK」


 と、とりあえず万国共通な英単語で返してみる。

 一拍置いて、ドアが開けられた。


 そこには、肩まで伸びたストレートの銀髪をした、翡翠色の目の、まだ少女と言ってもいいぐらいの女の子がいた。


(へ~、銀色の髪って、染めてるのかな?それにしてもあの耳…‥はっ!コスプレかぁ)


 見当違いも甚だしいのだが、直人にはそういう風にしか見えない。

 銀髪だけならまだしも、通常の耳の長さの二倍はあろうかという耳の持ち主など、これまで、リアルでは見たことも聞いたこともないのだから。

 何やら話しかけながら、手に持ったお盆に配膳してきた食事をテーブルに置く少女。

 その動きや表情には、警戒の色がありありと見える。

 直人は、そこは気にしないようにして、友好的にいこうと考え、腹は減ってはいるが、それよりも優先すべき事をしようと、少女に話しかけた。


「いったいここはどこなんだ?あぁ、わかんないか…英語?英語かぁ、え~、Where here is?」


 学校では習ったはずだが、いざ使うとなるとよくわからなくなる英語で、ジェスチャーを交えながら聞いたが、少女にはほとんど通じてないようで、困った顔を向けてくる。


「う~ん、どうしたものかなぁ、まずは自己紹介?あ~、オレハ、カンザキ ナオト。ナ オ ト。君は?」


 自分の胸を指しながらなるべく笑顔で名乗り、次に少女に手を差し出すように向けてみる。


「ニース。ニース」


 と、少し表情が柔らかくなり、少女、ニースも応えてくれた。


 (よし、第一歩。ここから、ここから。)


 直人と少女は明らかなオーバーアクションなジェスチャーを交えながら、食事の事も忘れる程に、初歩的なコミュニケーションを取り合い始めた。途中、ニースの母親であるリリーヤも加わり、地図や絵も使い、時代や、周辺の地名、リリーヤが使える初歩的な魔術等について見聞きしていると、一区切りついたときには、食事のスープも冷めきり、太陽?もだいぶ傾き始めていた。


 兎にも角にも、直人にハッキリと解った事は、拐われたのではないようだという事、ここは地球どころか、太陽系でもない、魔法があって、ニースの姿もコスプレではなく、普通に存在している亜人、そんな世界。


 (なるほど…………ここ、異世界だ~~~~)


という事であった。




「では、成果不明という事ですかな」


 立派な口髭を生やし、少し神経質そうな細面な男、共和国の元老院から派遣された審議官トマスが、話を遮った。

 報告途中であったマリウスは、高圧的な態度をとるトマスに対し、反論しようとしたが止めた。態度は気になるが、成果が確認できていないのは本当であるし、何より、何を言っても無駄な気がしたからだ。この男は自分が求める答え以外は聞こうとしない。なので、ハイとだけ答え、下を向いた。

 臨時報告会は始まったばかりだ。

 大きな円卓に六名が座り、内の一人マリウスの報告を聞いていたところだった。

 共和国元老院審議官トマス、共和国元老院議員アレック、共和国騎士連隊神殿防衛隊長フォルディス、同隊魔法士オウラ、神殿神官長の魔導師ティナ、そして神殿の龍の巫女マリウスの六名である。円卓には座していないが、周りには神殿周辺の村の長老も参列し、トマスとアレックの後ろには、元老院付きの護衛が全身鎧に身を包み、不動の姿勢で立っていた。


「しかし、賢者エナからの手順通り遂行し、確かに黒衣の賢者の魔術に介入は出来たと思われます。魔術は正しく運用出来れば、強力な魔法も行使出来ますが、少しの歪みで、その魔法は正しく運用されません。で、あるならば、今回、黒衣の賢者の妨害、運が良ければ…」

「運?」


 ティナは、マリウスの援護をするはずが、トマスの一言の介入に、言葉を誤った事に気付いた。魔導士でもあり、神殿の、数少ないとはいえ、神官達を取りまとめるティナらしからぬ誤り。やはり、推測だけでは後手にまわってしまう。


「まあ、私は魔術に関してはあまり詳しくは無いですが」


 トマスは、やれやれといったふうに、大袈裟に頭を振りため息までして見せた。その様子を目の端に捉え、フォルディスの片眉がピクピクと上擦る。それには気付かずトマスは続けた。


「いま、問題なのは、憶測の答えもさることながら、賢者なんていう田舎の引きこもりの言葉を信じ、三年もかけて、そう三年もかけて共和国の魔術、魔法士をかき集めて、魔法石に魔力を集め続け、さらに、効果の知れない魔法を神殿の巫女たるあなたが運用したにも関わらず、最後には運任せ?これでは、共和国民も元老院も、あなた方を信仰している信徒でさえも、納得は出来ないと思いますが?いかがですか?」


 オーバーな身ぶり手振りを交え、まるで物語でも語っているかのように指摘してくるが、意図するところは間違ってはいない。だからこそ、マリウスやティナは、思うところがあってもなかなか反論出来ずにいた。

 フォルディスも共和国側ではあるが、駐屯任務で神殿との交友も深い、特に一部神官長とは親密な関係にあると周知の噂もある。そんな自分の立場に板挟みにあっている。察してはいるだろうが、ティナからの刺すような視線が、目を逸らしていても痛く刺さる。

 アレックとオウラは、トマスに同意を示すように頷いている。


「龍神を奉る神殿が、何も出来ずに運を天に任せている間に、邪教徒どもに原初の神である龍神を顕現されたとあっては、はぁ、どうなることか、神殿の存続も危ぶまれ、引いては、唯一龍の巫女のいる神殿を内包している、我々共和国にも悪影響を及ぼすのは目に見えています。」


 畳み掛けるトマスに、二人は更に頷いているが、マリウス達はげんなりとした。

 この男は、いや、共和国の、中でも元老院の連中は、龍神の力が顕現する事の重大さより、国の、自分達の政治力にしか目がいっていない。


「私は」


 マリウスは、まだ他国がどうとか、金がどうとか言っているトマスを遮り、下げていた頭を上げ口を開いた。


「私は見ました。黒衣の賢者の魔法に、エナ様より授かった魔法をぶつけた時に。」


 急に話始めたマリウスに、不満の視線を三人が向け、二人は心配そうに見ている。周りの長老達も何事かと、ハラハラした面持ちで聞き始めた。


「そう、エナ様の信託では、黒衣の賢者ボリスが異次元より、原初である龍神をこの世界に顕現させると聞きました。しかし、私が見たのは、ボリスと対峙する一人の、黒髪黒目の少年でした。」


 そこで、一旦話を切り、周囲を見回すマリウス。

 皆が、黒髪黒目に反応を示す。巫女の家系にしか生まれないはずの特徴に。しかも巫女の家系には女しか生まれない。


「彼からは親近感のようなものを感じました。しかし問題は、エナ様の信託では龍神とありました。でも私が見たのは龍神ではなく、恐らく私とおなじ巫女の力を有する、人間、だという事です」


 もう一度周りを見回しながら、今度は淡々と話す。心に響くように。


「龍神を顕現するとされる巫女の歴史にも、これまで一人として顕現に成功した者はいない」


 ここで唇をきゅっと引き絞りながら、マリウスは躊躇した。この先は自分の、そして、これまでの巫女達の歴史に唾吐くも等しいからだ。

だが、意を決したように口を開いた。


「只の人間に、龍神を顕現させる事など出来ない。例えそれが巫女であっても。それはこれまでの歴史が物語っています」


 言ってやった、とマリウスは悲哀とも微笑ともつかぬ表情になった。しかしこれで終わりではない。ここからだ。ポカーンと口を開いたトマスに視線を定め、


「しかしながら、賢者である二人が何もなく動くのでしょうか?否です。エナ様は龍神の力に関する何かを感じとり動いた。黒衣の賢者は龍神の力で何かをしようと動いた。そして私は、結果は見えずとも、黒衣の賢者の妨害が成功したのではと考えています」


 共和国側の三人はそうだが、ティナとフォルディスも初耳だと驚きの顔をしていた。

 マリウスも報告会が始まるまでは、成果の見えない報告にうんざりしていたが、報告会が始まる直前それはもたらされた。

 言い切ったマリウスは一人の長老を見た。神殿近くの村の長老ヒンギスだ。


「彼は、近くの村の長老ヒンギスさんです。この報告会が始まる前に彼から聞きました。今朝がた、私の魔術を発動させた頃に、村近くの農地で一人の異国の少年が発見され、村に保護されました。彼は、見たこともない素材の服を身に纏い、聞いたことのない言葉を使い、その姿は、黒髪黒目だそうです」


 ここまで言うと、一同がざわつき始めた。


「彼が、黒衣の賢者が召喚しようとし、私が見た少年ならば、彼を保護することで、邪教徒達の企てを阻止する事になるはずです。審議官殿、ここからは神殿の龍の巫女である、私マリウスからの依頼です。異なる世界から来たであろう、龍の巫女の力を有するかもしれない彼の少年を、アルバ共和国にて保護して貰いたい」


 し、しかし、とトマスは口ごもった。そうだろう、彼はただ最近上昇気運の神殿の力を弱めるためだけに共和国から遣わされてきたのだ。神殿の求心力はありすぎても無さすぎても、共和国には邪魔になる。神殿はただ、民の不満を和らげる偶像【アイドル】であればよいのだ。だからこそ、三年もかけて失敗すると見越して準備してきた。


「確かに邪教徒達の力を削げるのであれば、これは共和国が中心になって動けば、各国へも良い顔が出来そうですな」


 ここは出番とばかりに、フォルディスがあからさまなしたり顔でトマスに進言した。

 これが決め手になったのか、売って変わってトマスは、勿論だと容易く同調し意を揃えた。神殿の株が下がらなくても、共和国の株が上がれば結果はおなじであると即座に判断したのだろう。


「ではすぐにでも隊を編成し、村に行きましょう。皆様、そういう事で、私は席を離れ隊に戻ります。マリウス様、お先に失礼致します」


 フォルディスは、マリウスにウインクを交えて礼をし、席を立った。社交辞令だと解ってくれてるはずなのに、やはりティナの視線は突き刺さり、その視線にウインクは余計だと書いてあった。さらに、私もすぐに参ります、とティナからの冷ややかな追言があり、フォルディスは、早く行くぞとオウラに告げ、そそくさと部屋を出ていった。


「では確認の為私も参ります。彼の顔は私しか知りませんから」

「わ、私も行くぞ、審議官である私は、一部始終を把握せねばならぬ勤めがあるからな」


 マリウスの言葉に、トマスが慌てて付き添う。何か一つでも神殿の落ち度を持ち帰らねばならぬのであろう。となれば、まだ素は出せないなと、マリウスはまだ巫女をやらねばならないのかと、一人そっとため息をこぼした。




「チッ、黒衣の賢者が聞いて呆れるぜ」

「よもやあのような邪魔が入るとはな、我も甘かったわ、只の巫女ごときに出し抜かれるとはな。恐らくはエナの差し金だろう。ふん、地下に籠っておれば良いものを、忌々しい。だが、マナを知覚したワシからはもはや逃れられん、ヤツは我が手中よ」


 松明の弱い明かりの中、黒いローブの男ボリスは余裕の笑みを浮かべた。対して、明かりを反射し目映く光る甲冑を着込んだバグナードは、舌打ちをのこしながら、なら任せるぜ、と言い残し、片手をヒラヒラとさせながら、踵を返し暗闇に溶けていった。


 とはいえ、他の人間に先を越される前に確保しなければならない。

 転移の場所が場所なだけに、不味くすると共和国も絡むかもしれない。自分が行ければ問題無かろうが、先の転移魔法でまだ当分の間は魔力は使えそうにない。魔力の無い世界に行った弊害であろう、術を行使しても、魔力が上手く操れなくなるのだ。


 バグナードが動かないとなれば、


「アレに行かせるか…少し早いが、そろそろ我らの力の一端を示していかねばな…」


 一人呟き、ボリスも黒いローブを、仄暗い暗闇の方へと溶け込ませていった。






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