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ドラゴニック・マナ  作者: ボケ封じ
第一章
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ここはどこ?きみはだれ?

ふぅ~、仕事の合間に書くのってなかなか大変やね~

三話目、宜しくお願い致します。

 部屋は常に片付けてあるので、障害物は無い。

 6畳間のこの部屋なら、一歩の踏み込みで間合いに入れる。

 だけど……。


 敵と判定はしたものの、直人はまだ悩んでいた。

 これまで、修練は積んできたものの、実戦経験が無いことと、こちらから迷いながらも、敵意を向けているにも関わらず、対する黒コートからは、まだ何の動きもない。ただ立ち尽くしているだけだ。


 (仕掛けてみるか)


 直人は、身体を脱力させ、やや前傾に構えをとるや否や、一足で黒コートとの間合いを詰めた。掬い上げるように、左掌底を黒コートのアゴに放つ。

 が、寸前で空気の壁に阻まれ、軌道をそらされてしまった。

 一瞬怯み、後方へと距離をとる直人。そして考える。

 黒コートが歪んで見えるのは、周りに何らかの方法で空気の壁を作っているのか?今の隙に何のアクションも見せなかったのは何故か?


「ククッ、クフフフフ」


 直人の考えを嘲笑うかのように黒コートが笑いをこぼした。

 初めて見せる相手の反応を直人は訝しげにさらに待つ。


「これは失礼。つい、ね。血というのは実に面白い」


 どうやら、頭に直接響いてくる。

 会話をする気だろうか? と直人は態勢を崩さず待ってみた。


「そう、血だ。太古の神が顕現したときより今日迄、大事に大事に守り通されてきたその血が、こうしてまた、我に敵意を向け、そして蹂躙されるのを思うとな、自然と笑いも込み上げると言うものだ」


 どうも、登場の仕方といい、言ってる内容といい、イカれた奴にしか見えないが、今起きてる事象が直人に信憑性を物語ってくる。


「さて、こちらではあまり時間を使えないのでね。早速本題に取り掛からせてもらおうか」


 言うと黒コートは右手を差し出した。その手には、拳大程の水晶玉が握られている。すると、なにやら言葉を紡ぎだした。先程までの頭に響くものではなく、正真言葉だ。だが直人はその事実に気付けずに聞き入ってしまった。日本語でもない、これまでに聞いたこともない響きと、力強さを感じさせる言葉、魔法の詠唱を。


 頭の中ではヤバイと、警笛が鳴っているにも関わらず、直人は動けない。聞いたことのない言葉、感じたことのない圧迫感、初めての実戦、どれもが直人の足を止め、手に汗を握らせ、視線を黒コートに釘付けにした。


 圧倒されているんだ、俺は。


 自分でそう思考するが、身体は動かない。そして、黒コートの詠唱も終わりも告げる。


次元回廊(セブンスフォール)


 黒コートが持つ水晶が詠唱に応え、光の粒子となって四方に散った。 同時に部屋の空間に歪みが出来る。まるで水の中にいるような錯覚に陥る。自分の周りの空気が形となって、身体を掴み、空間の内側にでも引きずり込もうとしているようだ。


 直人は、抗わなかった。

 この時、わかってしまったのだ。あの時、家族に何が起きたのかを。これから自分がどうなるのかを。


 歪んだ空間の先で、黒コートの男の口許が見えた。

 魔法のせいだけではないだろう、そこには醜く歪んで嗤う口許だけがあった。


 (掃除機に吸い込まれるとこんな感じなのかな?)


 等と呑気な感想を浮かべて、直人は空間に呑み込まれていく。合わせて、遠くなる意識の端に、聞こえる声があった。それはか細く、今にも事切れそうな女性の声。


 (来たれ)


 何処かで聞いたな…と、直人は思ったが、そこで意識は途絶えた。



 十蔵は落雷のような轟音を聞き、布団を飛び起きた。

 あの時にも聞いた音だ。隣では絹枝が布団の中で身動ぎをしたが、起きてはいないようだ。

 部屋を出、2階に上がり、直人の部屋の前に立つ。

 ドアノブを掴むと、一気に押し開いた。

 満月の明かりに照らされたその部屋には誰もいなかった。


「おおぉ、直人ぉ…」


 十蔵はその光景を見ただけで、またも家族が消えた事を悟って、1人呻いた…




 広い空間に、大きな龍の頭の彫刻が、台座に載せられ置かれている。精巧な造りで、眼の部分には、蛇のように縦割れになった赤い宝石がはまっている。全体の造形も、鱗の一つ一つ、彫りの一つに至るまで精緻に造られ、暗がりで見れば、生きてると錯覚するだろう。


 部屋の中央部分、丁度龍の彫刻の鼻先に、明かりを発する電球のようなものが、吊り下げられている。魔法石によってもたらされる明かりは部屋の中を減衰なしに照らし出していた。

 見れば壁面には、壁画が描かれており、壮麗な雰囲気を作り出している。

 部屋の中央、床面には、魔方陣が描かれ、魔方陣の中央の台座に魔法石が載せられており、周囲から魔力を集めている。だが魔法石は、そこに魔力が無いかのように、輝きもなく、くすんだ水晶のように今はみえる。


 その台座の前で、膝まづき、祈りを捧げる格好で、女性が頭を垂れていた。

 背に一頭の見事な龍の刺繍が入った白いローブに身を包み、腰までありそうな艶やかな黒い髪を後で一つにまとめ、黒い瞳を半眼にして。


「いかがでしょうか?」


 神殿の最奥部にある祈りの間の入り口、両開きの重厚な扉の前で、全身鎧に身を包んだ一人の騎士が、魔法石の輝きが無くなったのを、儀式の終わりと捉え、黒髪の女性に問うた。


 女性は、それに応えるようにおもむろに立ち上がると、目を開き、騎士の方へと身体を向けた。

 その顔には明らかに、疲労の色が浮かんでいる。白い肌からは更に血の気がひき、立っているのもやっとなのではないか、と騎士に思わせた。


「私ごときの力が何処まで及んだのか、魔法石の力を得たとしても、あの黒の賢者の術式に、どれだけの影響を与えたのかは解りかねます。ただ、何かしらの介入は出来ている、と思いたいですね」

「そうですか…巫女様の力でも…」


 騎士の元へと、弱々しくも歩み始めながら、巫女は続けた。


「私もご先祖様方同様に、凡庸なる身です。これまで修練を積んでは来ましたが……」


 そこまでを口にすると、巫女は悔しそうに血色の悪くなった唇の端を噛み、更に白く色を変えさせた。その顔を見た騎士は、巫女の歩みに合わせて、扉を開けることしか出来なかった。



 龍神信仰の為の神殿が、大陸にはいくつかあるのだが、ここトラキア大陸にある神殿にだけは、代々巫女がいる。巫女は、選ばれたりするのではなく、血筋によってなる。古代より数千年、巫女の一族には、女性しか生まれておらず、また、巫女になる子には、龍神を顕現させる力があると言われる。が実際には、龍神を顕現させたという歴史もなく、また、それほどの魔力を扱える者が生まれる事もない。よくても二属性の魔術が使える程度で、世の中、魔術士程度ならばそう珍しい事でもないのだ。

 現在、巫女が血筋によって継続しているのは、慣例的な要素が強いが、例外もあるにはある。

 先代の巫女は弱冠15歳という年齢で、すでに魔導士にまでなっており、さらに誰からも愛されるような容姿と相まって、有史以来久しくなかった、巫女としての信奉と期待を一身に集めていた。

だが在位僅か一年という短い期間で突如行方不明となり、久しくなかった神殿への期待が高まり始めた頃と重なり、神殿は急速に求心力を失った。

 そんな例外の力と将来への期待をもっていた先代の妹であるマリウスは、残念ながらこれまでの例に漏れず、高い魔力を使いこなせなかった。修練を積んでは来たが、それでも1元素王級までしか使えない魔法士止まりであった。それでも本人は努力は怠らず、その甲斐あって神殿への求心力の減少を食い止めていた。

 魔力があり、上位の魔法が使えれば、<龍神を顕現しその奇跡を使う>という本来の期待からは外れても、民衆はやはり巫女に、ひいては神殿に信仰の目を向ける。人は心の拠り所として偶像を求めたくなるものなのだ。そうすれば世の中の不満による争いも、少しは軽減される。

 現在の神殿は、本来の成り立ちは違うのだが、今はそういった目的に、様々な土地、王国、国家で利用されているといってもいい状態にあった。


 マリウスは、騎士に付き添いの礼を述べると、騎士と別れ、自室へと入った。4畳程の板張りの部屋には、小さな窓、机、ベッドと、小さな衣装棚があるだけだ。

 白いローブを頭から脱ぎ、椅子の背もたれに放り投げる。薄いワンピースの肌着だけになり、ベッドに大の字になった。


 (せっかく、黒の賢者の波動を追えたのに…)


 三年前、期待値回復に努めていた神殿に、一つの報がもたらされる。

 ここ数年で一気に台頭してきた邪教徒。その中心である、黒の賢者ボリス。その彼が次元の扉を開き、龍神そのものを召喚しようとしている、という情報を、渇望の賢者エナから得られた。

 真偽の程はさだかではなかったが、邪教徒の縮小と神殿の功績を狙ったのと、何より、魔法使いの最高峰、賢者からの依頼ということもあり、その阻止の為に動くことになった。

 それからは、渇望の賢者エナに言われた通りに、3年間魔法石に魔力を溜め続け、いよいよ今朝に、教わった古代語魔法を発動したものの、結果、成功したのか失敗したのかも解らないという体たらくに終わってしまった。

 魔法発動中に垣間見た、ボリスであろう黒ローブと、そして、ボリスと対峙していたあの少年。ボリスはなぜあの少年を狙っていたのだろうか? あの少年は何者なのだろうか?


 (今夜の臨時議会で、何と報告しようかしら)


 共和国からも助けを得ている以上、報告しないわけにはいかない。

 が、結果のわからぬ、報告する意味の無い報告ほど、気の重くなるものはないなと、憂鬱になる自分の心の声を、大の字から布団にくるまる事で、頭の隅に追いやった。


 マリウスは、魔法を行使した事と、余計な心労で疲弊し、薄れ行く意識の中で、自分が見た黒髪で黒い瞳の少年が、どことなく行方不明の姉に似ているなと考えながら、ひとまずは微睡みに身を任せた。



 マリウスのいる神殿は、トラキア大陸にある二つの国家のうちの一つ、アルバ共和国内にあり、北側は海への断崖が続き、東側をカルビナ台地との、こちらも断崖絶壁、西側には、エルフの住む迷いの森程ではないが奥深い森があり、南側には、アルバ共和国首都ソルと、四方を守られた場所にある。元々神殿が建てられる場所は、魔力濃度が高い場所が選ばれる。原初の龍神の魔力が漏れ出ていると考えられ、その信奉の為に、そうした場所に神殿が建てられたのだ。その中でも、飛び抜けて魔力が濃いこの場所にこそ、原初の龍神が眠ると信じられており、この神殿にだけ巫女がいる。

 

 立地の効果もあるが、数千年と時を重ねてきたせいか、今は神殿自体を守る者も少なく、今となっては只の信奉者である神官が数名と、共和国から派遣される、騎士が三小隊15名のみとなっている。

 騎士隊といっても、中身は教導隊のようなもので、入隊間もない新人が半数を占めており、神殿への派遣任務は騎士隊としての、一種の通過儀礼となっている有り様であった。


 そんな神殿の西方、徒歩でも半日程のところに名も無き村がある。

通称として、神殿の村とか呼ばれる時もあるが、大抵は神殿近くの村で済まされている。

 台地の起伏も少なく、草原地帯が広がるため、牧羊をメインに、小さな農地や、奥深い森での狩猟で生計を立てている為決して豊かではないが、苦しむほどに貧しくもない。村長に、この村一番の長老でもあるヒンギスを立て、およそ100人程が暮らしている。


「お母さん、早く~」


 ニースは、取れ立ての野菜を背負子に詰め終え、担ぎ上げると、まだ野菜の土を落としている母親のリリーヤを急かし続ける。

 ハイハイと何時ものように、我が子を軽くあしらいながらも、丁寧に背負子に野菜を積み始めたリリーヤを見ながら、まだかまだかと、その場で足踏みし、特徴的な長い耳をピコピコと動かしていた。


「早くしないと、ティナさん来ちゃうよ~」


 我慢できずに傍まで来てリリーヤの周りをぐるぐると歩き回り始めるニース。

 そんな我が娘の姿を微笑みを浮かべて見やりながら、リリーヤも荷積みを終え、小さく気合いを入れて背負子を担ぎ上げた。


「さあ、帰りましょうか」


 リリーヤは急かす娘を意にも介さず、普段の足取りで我が家へと歩き始めた。

 ニースは観念したのか、頬を膨らませながらもリリーヤの横に並んで歩を進めた。


「あらあら、何時も言ってるでしよ。どんなに急いでも、魔法でも使わない限りそんなに時間は変わらないって」

「そうだけど~」


 リリーヤは膨れた娘の頬を人差し指でツンツンしながら会話を続ける。


「ニースも少しは魔法が使えるようになったの?」

「魔法じゃないよ~、精霊術よ、精霊術!見てて、凄いんだから」


 ニースは無い胸を張って、右手の人差し指を立てると、歩きながら精神を集中する。


『風の精霊シルフ、汝、我の元に召喚する』


 精霊語で魔力を指先に集めると、途端に指先からつむじ風が起こり、中で掌ほどの半透明な人形の精霊が踊るように舞っていた。


「まあ、可愛らしい」


 リリーヤが小動物を見る目でつむじ風の中の精霊を見やる。


「あ、危ないから、お母さん、『さあ、躍り狂え』」


 今にもつむじ風に手を入れて、中の精霊を捕まえようとでもしていたリリーヤを声で制し、つむじ風の起こる指先を右前方の草原に向けた。

 すると、指先からつむじ風ごと精霊が消え、指先を向けた草原に人一人分は呑み込みそうな竜巻が巻き起こり、あっという間に草を根こそぎ弾き飛ばして、半畳程の台地を剥き出しにした。


「あらぁ、凄いじゃない。これなら草刈りも楽になるわね~」

「え、え~、周りの野菜も全部駄目になっちゃうよ~、じゃなくて、そんなことに精霊術使わないわよ!」

「あら、そうなの?便利そうだったのに‥…」


 心から残念そうな母を見て、ニースはため息をつきながら、何気に、今しがた自分が作った小さな更地を見やりながら、そこにあるものに驚いた。


「お、お母さん、あ、あれ、人の足じゃない?」 

「あら、そうね~」


 更地と草原とのちょうど境目のところに、人の足の裏が覗いていた。

 まさかこんな朝方に、こんなところに人が寝ていて、あんな精霊術で、あんなことになっちゃって……などとオロオロしながらブツブツ言ってるニースを尻目に、リリーヤがズンズンとその足に近づいていくと、こちらに足を向け、見慣れない服を着た、黒髪の少年が仰向けになっていた。


「お母さん、この人、まさか、し、死んで…」

「胸が動いてるから、死んではないようだけど、こんな何もないところで、異国の人が、でも黒髪だから巫女様の血筋の人?でも女性しか生まれないって言うし…」


 リリーヤが思案げに一人ごちている間に、ニースは生きてることがわかり、黒髪の少年を近くで見ようと、頭の方に廻った。

 少し屈み気味に真上から少年の顔を覗き込むニース。

 しばらくそのまま覗き込んでいると、ふいに目を覚ました少年と目があった。

 数秒間そのまま固まる二人。


「「わぁっ」」


 ほぼ同時に声をあげ、上半身を起こして後ずさる少年、母の後ろに跳ぶように隠れる少女。あらあらと片手に顔を乗せて、元気そうな少年を見て微笑む母。

 何処で使われているのか、ニースにもリリーヤにも解らない言葉を発しながら、飛び起き少年は半身に構えた。言葉は解らないが、目付きからして相当警戒しているようだ。


「な、なんなのよ、何言ってるのかさっぱりわかんないよ」

「困ったわね~、大丈夫よ、私達は何も危害は加えないわ」


 ニースは困り顔で、リリーヤは微笑みのまま少年に話しかけるが、いまいち伝わらない。

 少年は、二人を警戒しながらも、更に周囲にもキョロキョロと目を配っている。すると少年の顔が警戒だけでなく、しだいに困惑した表情も浮かべるようになると、目だけでなく、頭ごとキョロキョロと周囲を確認し始めた。

 が、周りには、ポツポツとある小さな農地と、少し向こうに村の板垣が見える以外は、ただ草原が広がっているだけだ。

 

 なにやら一人言をいい始めた少年を黙って見ていると、少年はふらつき始め、右手で自分の頭を抑えたかと思ったら、ドサリと、またその場に倒れてしまった。


「いったい、なんなのよぉ…」


 ニースは困り顔、リリーヤは微笑みのまま互いに顔を見合わせ、どうしたものかと思案に耽った。



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