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ドラゴニック・マナ  作者: ボケ封じ
第一章
19/65

一撃

少し短いです。


19話目です。宜しくお願い致します。

 「離してぇ、あの人はまだ闘える状態じゃないじゃない」


 囚人さながらに両脇を騎士に抑えられ、行かせてと叫びながら、引き摺るように騎士達に連れていかれるティナ。

 両脇を抑えた騎士達は、両人ともに唇を固く結び、広場を目指ざしていた。

 ニースに付き添われ、担架に載せられた直人も、無理矢理に上体を起こし、奥歯を噛み締め、血が出るほどに拳を固く握りこんでいる。


 その間にも闘いははじまっていた。


 右へ左へと、ひらりひらりと剣に煽られる木の葉のように、身を翻しながら懐に飛び込むタイミングを測るフレイヤに、そうはさせまいと片腕だけで長大な剣を振り抜くフォルディス。


 「あはあはあはは、凄いな~おじさ~ん、私の為に命を燃やすんだね? おじさんの身体はいつまで保つかな~」


 皮1枚残して全ての剣戟を見切ってかわしながら牙を剥きながら挑発するフレイヤに、無言で必殺の一撃を放ち続けるフォルディス。


 片腕を無くし、傷は塞がったとは言え大量の血を無くしたばかりでは、流石の竜殺し(ドラゴンキラー)も何時ものようには動けない。


 しかし、今は動かなければ行けない。

 短い時間だが、広場に運ばれたときに聞いた情報では、三騎士の1人、アニマ・ザウアーもこの少女に敗れ命を断たれている。

 もう一人もファティマへの使節団に同行し共和国内にすらおらず、フォルディスも瀕死に追い込まれている。


 この規格外の化け物達に対抗するには、圧倒的な戦力が必要だが、この街中で戦力を集中するには、準備と、時間が必要になる。

 それは間もなく整いそうにあるのは確認している。だが、時間が足りない。アニマが討ち取られた事で指揮系統に乱れが出ていたのだ。


 こいつを抑えておくには俺が出るしかない。指揮は俺が執るに越したことはないが、騎士隊には当然、有事に備え指揮を任せられる者がいる。ならば俺の役目は……。


 一際鋭く放たれた横凪ぎの一閃を、これもひらりと後ろに跳んでかわすフレイヤ。


 「今のも無傷でかわすかよ……」


 ニタ~っと歪に嗤う少女に毒づくフォルディスは、肩で息をし始めていた。

 その姿を見ていたティナは、遂には両脇を固めている騎士に向かって、魔法石を使った魔法を発動させていた。


 先程フレイヤの動きを封じた竜巻の弱小版を自分の周囲に展開させ、騎士達を弾き飛ばすと、直ぐに魔法を解き駆け出そうとした。


 「来るな! お前達は撤退して次に備えろ!」


 フレイヤと対峙しながら、気配を感じとりティナの機先を制したフォルディスは、ぶんと竜断ちを一振りし、加勢するなと態度でも示す。


 「貴方がいない次なんて、私にはいらない」


 感情に走りながらもティナは冷静に戦局も見ていた。これ以上近づいてもフォルディスの負担になるのは目に見えている。魔導士には魔導士なりの距離があり、当然ティナも近接の距離には入らず援護のために距離を取っていた。


 「クフフフ……」

 「なんだ? 相手は俺がしてやる。 よそ見は良くねぇな」


 赤い目が怪しげに光り、僅かに視線を逸らしティナを捉えたのをフォルディスは見逃さない、ぶんと今度はフレイヤを威嚇するように大きく竜断ちを一振りして見せる。


 「アレ、魔法使いでしょ~? さっきの借りもあるし~、まとめてヤッたげるよ~、おじさんにも飽きたし~」


 舌舐めずりしながらティナから視線を外そうとしないフレイヤに、苛立ちとティナへの心配の念に駆られながらも、右手一本で竜断ちを上段に構える。


 ティナは俺には勿体無い女だ。

 気立てもよく頭も良い、冒険で培った危機管理は部下達にも見習わしてやりたい。神殿でのティナは、他の神官や近くの民達にも信望が厚い。


 (何より、あいつは良い女なんだ)


 知らず笑みが溢れる。何時ものニヒルな笑みとは違い、それは慈しみに満ちていた。


 「下がれ。ここは俺が支えると言った。ティナ・ストックマイヤー、貴殿には直人とニースを任せる。さあ、異界の住人よ、改めて、アルバ共和国騎士連隊長フォルディス・ド・ビレンツェンが参る」


 ティナの反論を認めず敢えて命令形式で言うと、上段に構えていた竜断ちを眼前に捧げ持ち、フレイヤへと身命共に向き合い再び竜断ちを上段に振りかぶり、じりじりとフレイヤとの距離を詰めだした。


 「チェッ……まぁいいか~、後でゆっくり食べちゃお~」


 さも残念そうに肩を落としティナに向けていた視線をフォルディスへと向けた。そこには少しばかりの怒気を孕めていたが、直ぐにフォルディスから漂う気配にスッと目を細め、自分の手に剣が無いことを煩わしいと感じるフレイヤ。


 対照的に、一歩二歩と力無くフォルディスの言葉に押されるように下がったティナは、フォルディスから漂う気配に涙を流しながら、フォルディスと直人達、魔神、フレイヤを順番に心ここに在らずと見回し、最後にフォルディスの背中を見つめた。


 「貴様ら、何を府抜けてるかっ、早く連れていけ」


 ティナの魔法で弾き飛ばされた騎士達が、どうしたものかとオロオロしているところにフォルディスが命令をぶつけると、騎士達は、ハッ、と背筋を伸ばした後ティナを両脇から抑えて連れていく。今度はティナも抵抗しなかった。


 命を燃やすとはこういうことなのだろうか。

 担架に横になりながらフォルディスを見ていた直人は思った。

 小さく輝いて見える魔素が少しづつフォルディスに集まっているのがわかる。

 ティナは言っていた。人は、魔素の収集量が決まっていると、臨界を迎えると生体に異常をきたすと。

 袋の大きさを超えて中身は詰められない。

 いっぱいになった袋に中身を入れるには、中に入れたものを出すしかない。抜かずに入れれば袋は破れて中身が溢れていく。


 だが、フォルディスの魔素収集は終わらない。体内で魔力精錬を行い魔力の状態で貯め続けているようだ。漏れ出る魔力は命のように淡く輝いてフォルディスの周囲を照らす。


 「クフフフフ、おじちゃん、いいの~? 死んじゃうよ~」


 ゆらゆらと身体を揺らしながらもフレイヤは興味深そうにフォルディスを観察していた。

 生身の人間がソレに耐えられるのかな~


 自分の楽しみが取り上げられたことも、血を吸いたかった女を取り上げられたことも一切を忘れて、フレイヤは、自ら進んでやって来た新しいオモチャでどうやって遊ぶかと、歪に嗤いながら考えていた。


 もう魔力は入らない。でも足りない。入らないなら入る袋にすればいい。

 身体強化し更に魔力を巡らせる。

 身体強化した上から更に身体強化を重ねていく。


 竜断ちを上段に構えている腕の血管から血が吹き出る。良く見れば身体中から血が吹き出し始めている。


 まだだ、もっと凝縮出来る。一撃あれば良い。


 鬼気迫る表情を浮かべフレイヤに無言のプレッシャーをかける。


 それでもフレイヤは歪に嗤いながらゆらゆらと身体を揺らし、攻撃を仕掛ける素振りを見せないでいた。変質的な言動と吸血鬼(ヴァンパイア)としての驕りを差し引いても、フレイヤは1剣士としてフォルディスの攻撃を待っているのだ。


 今や聖者のように自ら輝きを放ち彫像のように立つフォルディスを、騎士隊も撤退するのを忘れ、見守っていた。

 涙で顔をくしゃくしゃにしながらも、行きたい足を踏ん張り、掛けたい声を歯を食い縛って押し留めているティナは、瞬きもせずフォルディスの背中を見つめ続ける。そうする事で結末が変わることを信じて。

 担架の上で上体を起こし、腕に抱き付いて、龍神様神様と祈りを捧げるニースの頭を抱え込みながら、自身の力無さを痛感する直人も、一挙手一投足を見逃すまいと黒い瞳に力を込めてフォルディスの背中を見守る。


 一撃で極める。


 フォルディスの想いが身体から溢れ出る魔力光を揺らめかせる。

 身体を巡る魔力が全身の筋肉を極限を超えて強化し、拳銃の撃鉄が弾の火薬を炸裂させたように、フォルディスは全身の毛細血管から血飛沫を硝煙のように挙げながら、一気に間合いを詰めた。


 フォルディスが踏み砕いた石畳の炸裂する音より速く、歪に嗤う少女の前に一歩を着くと、同時に上段に構えていた竜断ちも、唸りをあげる間もなく振り下ろされた。


 騎士隊やニース、ティナには赤毛の少女が頭から切り裂けたのが見えた。

 直人は目を背けてしまった。

 信じられない。こんな……こんな事っ……。


 稲妻の如く振り下ろされた竜断ちは、その速度と衝撃に、石畳に突き刺さる前に半ばから砕け散った。

 フォルディス自身も、一撃に込めた魔力の開放で全身から血を滴らせながら膝を着いた。筋肉はどこもかしこが痙攣し、折れた竜断ちを支えにしてはいるものの、その腕も震えて身体を支えきれず、咄嗟に竜断ちをつっかえ棒にして身体をもたせかけた。

 頭をあげることも出来なかったが、スッと差し出された白い女性の手が顎にかかり、そっと頭を持ち上げた。


 「はは、、」


 正面にある顔を見て、何時ものニヒルな笑みを浮かべながら、涙が溢れるのを自覚したが、その涙は赤く血に染まっていた。

 その瞳には、松明の明かりと血でぼんやりと赤く染まった世界と、口の両端から牙を突きだしながら、狂気に震える赤い瞳が写ったが、フォルディスにはもうそれ以上何も見えなかった。


荷ほどきが全く終わらない…

明日も仕事が…

フォルディスが…


こんな話ですが楽しんで頂ければ最上です。


次回 『覚醒』


土曜0時を予定してますが書ければ早めにあげます…

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