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ドラゴニック・マナ  作者: ボケ封じ
第一章
1/65

プロローグ

お初です。

リアル仕事の合間にちょい書きするので更新はかなり遅いと思います。

末長くお願いします。


 そこは、光も入らない

 ただ暗闇がひろがる

 空気でさえも淀んでいるかのような

 まるで、何物かもを拒絶しているかのような

 深淵なる場所


 そこへ、岩と岩とを擦り合わせたような音が響き渡ると同時に、壁であったであろう場所に一筋の光の線が入り、かと思うと、みるみる光が差し込みだした。


 頑丈そうな岩扉なのであろう。尚も重々しい音が続き、その反動で舞い上がったであろう埃に光のカーテンが拡がっていく。


 そこは四方を岩壁に囲まれている。窓はなく、天井に拳小程の穴が1つ見える、空気孔であろうか天井は成人男性三人分程の高さがあり、幅、奥行きともに同じくらいの立方体、真四角な部屋だ。


 糞尿の臭いが充満し、扉の前に立っていた男が鼻を抑え顔をしかめる。


「チッ」


 思わず舌打ちし男は躊躇いながらも一歩を部屋の中へと進めた。


 ガシャリと金属の擦れ合う音は男の身に付ける鎧から発せられる。肩から胴体、腰まわりを金属のプレートで覆うような鎧に、肘から手首を覆うグリーブ、膝から足首を包むレガースと、新品のように傷ひとつついていないが、使い込まれた雰囲気が、男の動きからとってみれる。


 部屋の外から逆光の中でも身に付けた全ての装備が黒色であろうことをわからせる。


 その右手には腕の長さ程の両刃のブロードソードを持っている。


 逆光であるために顔形はわかりづらいが30代前後だろうか、いや、

部屋の隅に四肢を投げ出し、全裸で生気なく横たわっている彼女にはわかってはいる。

 だが、どうでもいいのか、関心をもつ気力もないのか、彼女の腰まであるであろう四方に拡がったままの髪の色と同じ黒い瞳は、力なく半開きのまま何処でもない虚空をみていた。


「チッ」


 鎧の男はまたも舌打ちをしてから彼女に近付き、あいている左手で彼女の黒色の髪を無造作に掴むと、そのまま立ち上がらせるように持ち上げた。


「生きてんのか?おい。」


 鎧の男が吐き捨て、ブロードソードで頬を乱暴に叩く。

 それでも、彼女は、引っ張られた髪の痛みも、叩かれた痛みも表さず、ただただ虚空を見ている。


「いけませんよ、大事な大事な『鍵』をそんな雑に扱ってしまっては」


 後ろから鎧の男よりは2回りほど背の低い、こちらは、頭から足の先までを黒いローブに身を包んだ男が鎧の男を諌めた。


「チッ、よく言うぜ、こんな所にこんな状態で放っとくのは、大事に扱うって言うのかよ」


 やれやれと言った感じで応えながら鎧の男は、彼女を捨てるように石床へと放った。


「全ての感覚を閉じられた状態で、物理的にも魔術的にも外界とも遮断されたこの部屋以上に安全な場所はありはしないよ、かのフォルス王国の王女でさえ、こんなにも大事には守られてはおらぬだろうて」


 クックッと喉を鳴らすように笑いながらローブは続ける


「しかし、それも今日まで。月の力も今宵で集まる、遂に異界の扉が開く時が来た。我らが悲願もまもなく……」


 何かを感じローブが言い淀む。

 その気配を感じ鎧の男が何事かと口を開きかけたとき


「まさか! バクナード、こやつ目覚めているぞ」


 鎧の男、バクナードが言われるが速いか、瞬時に動き、彼女の頭を左手で、右膝で背中を石床に押さえつけ、右手のブロードソードの切っ先を口に押し込んだ。

 身体と魔法の詠唱をさせないように。


 そして、見た。いや、目が合った。


 先程まで虚空をみていた焦点の合っていなかったはずの黒い瞳が

今や殺気を宿して爛々と自分を視ている。


「チッ、どこが封じられているんだ?早くしろ、このクソ魔導師が」


 バクナードは背中に冷や汗が流れるのを感じた。

 こんなぼろ雑巾のような、半分死んだような、俺の力に為す術なく押さえ付けられた女に対して。

 だがわかっている、コイツはそれだけでは駄目なのだ。


 こうしてる間にも、魔術の使えないバクナードにも女の中に魔力が集約されていくのがわかった。


 その時、バクナードを視ていた彼女の黒い瞳が縦に割れ、蛇のような紅い瞳が彼女の右目に現れてきた。


 (マズい)


 鎧の男がその瞳に戦慄を感じ


「ボリスまだか? 顕現するぞ、急げ」


 言われたローブ、ボリスと呼ばれた男は、口に差し込まれたブロードソードを容易く噛み砕き、それに一瞬怯んだバクナードの拘束から抜け出し、そのか細い腕で彼を壁まで撥ね飛ばした彼女に、ようやく魔法の詠唱を終え、右手を掲げた。


「ケイオス」


 古代語で混沌の呪縛を意味する魔法言語。

 禁呪とされ、失伝して久しい忌みなる魔術。

 惜しまぬ探究心と、其を実現するボリスの実力が伺える。


 掲げた右手のさきに魔方陣が展開され、その先にいる、今にもボリスに踊りかかろうと起き上がりかけた紅い眼の彼女に、見えぬ力が迸る。


 彼女は、全身を駆け巡るその力に身体を硬直させた。


 唸るとも吠えるとも聴こえる声を発したかと思うと、天を仰ぎ眼を見開く。 と、同時に紅い瞳が力を無くしたかのように閉じていき、後には、元の焦点の合わない黒い瞳が残った。


「‥‥ナ‥‥‥‥ト‥‥」


 声にならぬ声を残して、彼女はそのまま石床に崩れ落ち、その身体を動かすことは無くなった。

 膨れあがった魔力も霧散したようで、薄く光が差すだけのこの部屋ではまるで何事もなかったかのように、彼女の黒い瞳がただただ虚空を見るだけとなっていた。


「大事ないか?バクナード」


 女に突き飛ばされ壁に若干めり込んだ形となっていた男に、ボリスが感情は込めずに声をかける。


「チッ、俺じゃなかったら死んでるぞ」

「だからこそ、お主がいるのであろう」

「チッ‥」


 舌打ちまじりに壁から身体を起こし、噛み砕かれたブロードソードに目をやると、ふん、と鼻をならして半ばまでの長さになった剣を腰の鞘に納めた。


 身体や黒い鎧には傷ひとつついていない。が、彼の後ろの岩壁は激突の衝撃で、窪み、そこから放射状に無数のヒビを走らせていた。魔術により幾重にも強化されたはずの壁が。


「払いのけただけでこの力…一端とは言え、これほどとは」


 バクナードが一人ごちて首を回しながら部屋を出ていく。


「いやいや、それに耐えるお主の身体もどうかしておるがな…」


 それに続いてボリスも首を振りながら部屋を出る。


「クククク、もはや呪縛を解く力も、時もあるまい。今宵には……」


 一人言のように呟きを残すが、閉じ始めた岩扉の開閉音でその言葉は掻き消されていく。

 射し込む光のカーテンが、横たわる女の黒い瞳から零れ落ちた一筋の涙に、最後の光を当てると、岩扉は完全に閉じた。


  そして暗闇だけが残った。




 早朝、俺は今半眼、正座で30畳程の道場の中央で瞑想している。


 遠くで走る車の音が聴こえる。

 敷地内に植えられた桜の木の枝が風に揺られる音。

 雀の囀り。


 (婆ちゃんかな?)


 台所で動く人の気配。


 ここは神崎流空手の道場。琉球唐手の流れをくみ、祖父の代に独立。物心ついたときにはもう型をやらされていた。

 実戦の為ではなく、己と心を磨くための空手。そう嘯きながらも祖父から受け継いだ父さんは、神崎流を俺と、四歳上の兄、和馬に教えてくれた。

 そんな理念の神崎流だが、肝心の祖父は若い頃に相当暴れまわったらしい……。


 米兵のあばらを素手で引き抜く。水牛の突進を止めそのまま首を捻り折る。息子を崖から突き落とす。孫も崖から突き落とす……。

 父さんが兄を下で受け止めたらしいが、先に兄を落としていたら……。


 俺も小学生高学年の時には突き落とされたが、その時は父さんはいなかった。あの時はどうして助かったんだっけ?

 下が池だったか?とにかく、怪我をした記憶はない。


 瞑想中の最中、ふと小さかった頃の情景を思い出した。

 一度思い出すと止まらないのが回想。

 まさに、頭の中を、想いが駆け巡る。


 兄貴は既に強かった。今でも目標になっている。

 生きているのだろうか? 母さんは?


 二人は、俺が中学二年になった年の父さんの初盆の、墓参りに来たときにいなくなった。

 父さんは俺が中学二年にあがった春に交通事故であえなく他界した。飲酒運転のトラックが対向車線をはみ出してきたらしい。親父は即死だった。


 そう、確か墓参りを終えたその日の晩。


 皆が寝静まった深夜に落雷のような轟音で眼が覚めた。


 気になって窓から外を見たら、満天の星空で、雷が鳴る、ましてや落雷が起きるような天気じゃなかったのを覚えてる。好奇心から眠気も覚めて、兄貴を起こそうとしたときには、隣の布団で眠ってるはずの兄貴はもういなかった。


 皆を起こさないようこっそりと家の中を探してまわったが、風呂やトイレにもおらず、玄関には靴もあった。一応離れの道場も覗いては見たがやはりいなかった。

 爺ちゃんのサンダルでも履いて出掛けたのだろうか?

 こんな田舎で何処に行ったのだろう?

 近くに唯一あるコンビニは22時には閉まってしまう。


 母さんに伝えておこうと、起こしにいくと、母さんもいなかった。


 二人してどうしたのかと心配になり、祖父母を起こし、祖父母と俺の三人で近隣を探したが見つからず、その後は警察や近所の人達も集まり、真夜中の捜索がはじまったが、結局、今日までまだ見つかってはいない。


 熊に襲われたとか、某国の拉致だとか、旦那を無くしたショックで子供と心中したとか、世間は言いたい放題だった。兄弟の一人を置いて消えた事で、世間では少し騒がれた。


 その後、中学生の身で一人残された俺は、すぐにも祖父母が住む田舎に引き取られ、これまで婆ちゃんに優しくされ、爺ちゃんにイジメ…いや、鍛練をつけてもらい、電車で一時間かかる高校にも通わせてもらい、こうしてすくすくと育ってきたのだ。


 そして、日曜日にも関わらず、日課となった瞑想をしている。今の時代に健全な男子高校二年生が、空が白み始める時間にこんなことをするのだろうか?


 (前時代的だなぁ)


 などと考えながらも、再び精神を拡げていく。


 心は空に、その手に必殺を。だ。



 そして、いかほどの時間がたっただろうか。太陽が姿を現し始め、様々な鳥の鳴き声が響き始めた頃。


 背後から忍び寄る敵意。

 衣擦れ、足音、呼吸、あらゆる音を消して、にじり寄ってくる。


 (フフ、わかるよ、じいちゃん)


 気を配り、さざ波のように伝わる相手の意思を掴む。

 モノは必ず何かの気配を伝える。空間の揺めきなのか、意識の波が伝わるのか、極微かな何かを発している。


 自分の背後、三歩のところで身構え上段に刀を掲げているのがわかる。

 掲げ持つ物からは、いつもの木刀よりも鋭敏な感覚が伝わる。


 (まるで刃物だな……まさかね)


 高校生にして、完全に気配を消した達人級の立ち振舞いを感じ取るのは、異常とも言える。だが、彼、直人は物心ついたときから、勘の冴えた子であった。自分でもその事を自覚している直人は、だからこそそんな自分の前から寝ていたとはいえ、家族が忽然と消えた事にいまだに納得がいっていないのだ。


 またも回想に捕らわれそうになった時、ヒュッ、と微かに風を切る音がした。


 背後から真剣の刀を降り下ろさんと気配を消して近づいていた祖父、十蔵が、自らの間合いに孫の高校生、直人を納め、一瞬の心の隙を見逃さず刹那に降り下ろした。


 大戦を乗り越え、怒涛の戦後争乱期を我が身1つで生き抜き、これまで研鑽に研鑽を重ねてきた十蔵は、いまや正に達人と言える。


 そんな十蔵の蜻蛉の構えから一直に降り下ろされた刀は、風切り音より早く、道場の畳に切り刺さった。


「見事」


 十蔵は畳に刀を切り刺したままの姿勢で告げた。

 見事と称された直人は、自らの右手刀を、十蔵の喉元から離し一歩引いた。

 刀が直人を断ち切るより早く、十蔵の左手側に身を翻し、喉元に手刀を放ったのだ。

 気配を読み、達人級の真剣の一撃をかわし、尚且つ反撃できる実力とはいかほどなのか?


「ありがとうございます」


 礼をし、その場に正座する。

 十蔵も刀を引き抜き、腰に下げた鞘に納刀し、軽く頭を下げ、直人の正面に正座する。


「ふふ、あの剣をかわすか‥‥今日までよ~鍛練に耐えたの。直人、今日、この時を以て、お前を神崎流免許皆伝とする。崇高なる神崎流の理念の下、己を更に磨き、弱きを助け、強きをバッキバキにへし折ってしまえ。よし、今日は、ワシが昨夜に掴まえた猪でお祝いじゃ」


 かかっ、と愉快そうに豪快に笑う十蔵を前に、直人も笑顔を浮かべ、


 (今の時代、へし折っちゃダメだろ…ってかやっぱり真剣だったのか、崇高な神崎流の理念はどうしたよ…)


 と心の中で溜め息をつき、猪はやっぱり素手で掴まえたのかな?などと考えていた。




 山裾に広がる草原。向こうには冠雪の山々が見える。

 緩やかに吹く風に、銀髪がたなびく。

 髪をかき分けると、長い耳の先端が飛び出る。


「?」


 どこを見るでもないが、なにやら自分が見られているような、何かの気配のような、変な違和感を感じて、少女は、自身の翡翠色の瞳を、ナニかを感じた中空に向ける。その視線の先は、雲ひとつなく、どこまでも広がる青い空と白い月だけがある。

 ちょうど、満月なんだ。

 先ほどの違和感も忘れて、そんなことを少女が思っていると、


「置いてくわよ、ニース」

「え?待ってよ~お母さん」


 娘とは違う金髪の女性が、20歩程先から、羊達を引き連れて、振り返りもせずそう告げると、少女はもう、何があったかも忘れて、母の後を小走りに追い掛けていた。


 追い付き、母の左腕に抱きつく。


「もう、どうしたの?この子ったら」

「えへへへ、お母さんだ~い好き!」

「もう、ほんとにどうしちゃったのかしら、この子は。変な実がなるような木なんてないし…」


 親子の会話を、羊達だけが気だるそうに聞いていた。




ドキドキするなぁ。

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