秋の終わりに
まだ幼い頃、よく籔で遊んだ記憶があります。
近所のお兄さんに連れられて虫を探したり。
学校の友達と一緒に秘密基地を創ったり。
振り返れば、沢山の思い出が蘇ります。
折り重なる緑は眩しい位でした。
ここは、一番近所の籔です。
もう、こんな場所もかなり減ってしまいました。
宅地の裏手にひっそりとあるこの空間が好きだったんです。
自分が住む世界とは違う何処かへ通じている様な気がして……。
ほんの狭い空間の中で、そこへの抜け道がないか探しまわった覚えがあります。
もっとも、その何処かへ行かれたことはなかったのですが。
随分と冷えた空気の中、背の高い木の陰が伸びています。
枯れ落ちた葉の絨毯が、柔らかく照らされていました。
そうして、そんな足元から目線を上げると……。
木漏れ日が溢れていました。
光は木の葉を透過し、この空間に見事な色彩を与えています。
冬は近くとも、暖かいまでの日射し。
太陽の存在の大きさが、文字通り肌で感じられる様でした。
そう言えば、この辺りには以前、沢山の猫がいたんです。
最近は、何故かあまり見かけなくなってしまったのですが……。
そんな猫について、一つ不思議な記憶があります。
ちょうどこの籔から、子猫を追って人の家に入り込んでしまった時のことです。
その家の窓から、白い猫がこちらを覗き込んでいました。
また他の窓にも、何匹かの猫が顔を出していて……。
ああ、よく見かける猫たちはここに住んでいたんだなぁと、ふと思い当りました。
その時、この家の方にもお会いしました。
2、30才位の女性でした。
何かを話した様な気もするのですが、内容はまでは覚えていません。
私が追いかけていた子猫を、優しそうに抱きあげている姿が印象的でした。
未だに、よく覚えている光景です。
そうしてその後、何度かその家には赴いたのですが……。
その女性には、それっきりお会いすることはありませんでした。
近所で、猫たちの姿はちゃんと見かけていました。
でも、その家の中に猫を見たのも、思えばその時だけだったのです。
だから実は、夢の中のことだったのかもしれません。
今となっては、藪からそこへ通じる道も塞がっており、確認すら出来ません。
もっとも、もう勝手に人の家に入り込めるような歳ですらないのですが……。
まだ、ほんの子どもだったのです。
随分と時間が経って、多くのことが変わってしまいました。
懐かしいこの場所がまだ残っているだけでも、一つの奇跡なのかもしれません。
そんなこの景色も、廻る季節の中でまた移ろっているのでした。
秋の終わりに、随分と葉の減った木々もちらほら。
枝の間から仰げば、抜けるような青空が広がっていました。
撮影日2015年11月28日




