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「あ」

 包みを抱えた小紋の後ろ姿。それだけを見て、誰だか分かってしまった。唐人髷の髪。裕福な娘が好んで結う髪型で、この辺りでは珍しいものだ。

「……夏蓮……?」

 その呟きが聞こえたのか、小紋の女性が振り返る。

「どなたか私を呼びまし……まあ、楓雅様」

「お嬢様、こちらは……?」

 彼女一人ではなかった。初老の男性が夏蓮のそばを歩いていたのだ。穏やかそうな顔とは裏腹に、楓雅をうさん臭そうな目で見ている。

「こちらは、楓雅様とおっしゃって、私の……お友達、になるのでしょうか……?」

「ただの知り合いです。菊一家ともあろう方が、こんな自分と友達なわけがないでしょうし」

 客に振りまく笑顔を浮かべて、楓雅は夏蓮の言葉をばっさりと切った。一瞬、彼女が傷ついた表情を浮かべたのが目に入ったが、気づかないふりを貫く。

 じと、と見ていた老人が穏やかに微笑む。だが彼の目は笑っていない。

「そうでしょうとも。さあ、こんな輩と話していては菊一家の品格が落ちてしまいます。参りましょう、お嬢様」

「え、ええ……」

 夏蓮は会釈をして身を翻す。少し落ち込んだような背を見送った。

 もしも、と楓雅は思った。もしも彼女だけならば聞きたいことは山ほどあった。稽古事が多いなとか、兄弟はいるのかとか、――本当に、結婚するのか、とか。

――阿呆か、俺は。

 もしくはどうしようもない馬鹿だ。どちらもかもしれない。

 どうしてこんなにも彼女の事が気になるというのだ。少しでも多くの事を知りたいなんて、まるで恋に落ちているようではないか。

――……俺が!? まさか。

 自身で辿り着いた一つの考えに驚く。二、三歩歩いては立ち止まり、頭を振ってまた歩き出す。往来のど真ん中で百面相をする男は、なんと不気味に見えた事だろう。楓雅がはたと我に返ると、道行く人々の流れは綺麗に彼を避けていた。

 少し冷静になって考えが落ち着いた。

――こんなに動揺するのならば、あながち間違いでもないかもしれない、と。


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