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「なんだい、雅。あんたやる気に満ちてんじゃあないかい」

「え?」

 今日が終われば、またあの桔梗の野で、と考えながら支度をしていたら遊郭の女将に声を掛けられた。彼女は煙草をふかしながらにやりと笑っている。

 かなり年を召された老婆なのだが、何もかも失った楓雅を見つけ、育ててくれた恩人でもある。

「今日はあんたのお得意様、予約入ってるよ。いつも通りのご指名だ」

「ああ……、分かった」

 あの男色の士族か。別に男でも女でも、自分はどちらでも抱ける。それは構わなかったが、今日は早く休みたかった。彼が客として来る以上、それは望めなかったが。

 なぜこんなにも浮き足立っているのか。そんなに彼女に会えるのが楽しみなのか?


「――お呼び立て、誠にありがとうございます。辻本様」

 戸を引き開け、頭を下げる。薄暗い室内は行燈の光に灯され、人影がぼんやりと浮かんでいた。

「……会えて嬉しいよ、雅」

 低く囁くその声は、男のものだとわかる。

「さあ、もっと近くに。お前に会いに私は来たのだから」

――会えて嬉しい? 夏蓮に会うのが楽しみだというのか、俺は?

 ごつごつとした手で頬を撫でられ、楓雅はぼんやりと思った。今度はその手がするりと首へと動き、鎖骨をなぞる。

「……なぜ、辻本様は俺に会いに?」

「ん?」

 上向かされ、首筋に口づけを落とされるのもされるがまま、楓雅は口を開く。男は楽しそうに耳元に吐息を吹きかけた。

「……なぜかって? ――それは、お前を愛しているからだよ、雅」

 かりそめの関係の、かりそめの言葉。けれど、この場所ならばホンモノになる。

 彼の口づけは次第に熱を増していき、慣れた手つきで楓雅の帯を解く。

 少しの嘆息と共に、楓雅は目を閉じた。

 今夜も、長い夜が始まる――。


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