壱
あくまでも和風です。時代背景完全無視しておりますので、ご了承ください。
決して叶わぬ願いというのなら。
せめて、想いだけでもこの花に誓おう――。
「桔梗だ……」
目の前に広がる青い絨毯を見て、楓雅はぽつりと呟いた。
いつの間にそんな時期になっていたのだろう。風にそよぐその姿は、しなやかでどこか凛としたものを感じさせ、目の覚めるような蒼は、朝焼けの空を思い出させた。だが、肝心の花はまだ蕾のままで、濃い蒼が地面を埋めていた。
「……あら、桔梗がこんなところに」
すぐ近くの声に驚いて振り返ると、いかにも良家と思える妙齢の女が立っていた。おっとりとした表情、白く滑らかな肌、そして手の込んだ刺繍の訪問着。
――金持ちのお嬢様か。
身を包む着物の種類で値踏みしてしまう自分が情けない。だが、彼女はその視線も気が付かないようで。
「こんなにたくさんの桔梗、初めて見ました」
綺麗ですね、と顔を綻ばせる彼女に曖昧に頷く。すると彼女はすぐに申し訳なさそうな表情で手で口元を覆った。
「私ったら! ごめんなさい。なれなれしくしてしまって」
でも、と彼女は男を見上げてふふ、と笑った。
「ひとりで見るより、どなたかと見たいものですわ。だって、とても綺麗なんですもの。……そういえば、自己紹介がまだでしたわ。私、菊一夏蓮と申します」
そう彼女は名乗った。「菊一」という名字を聞いて、楓雅の眉が一瞬動いた。
その名は聞いたことがある。菊一と言えばこの界隈の豪商ではないか。
「俺は、楓雅と言う」
青年はぶっきらぼうに名前だけを名乗った。名乗るほどの名前も持ち合わせていない。自分にはこれしかないのだから。
お題が「桔梗」でありまして、この小説を書き始めました。面白いかは不明ですが、一話を読んでいただきありがとうございます。