分岐点
夜の7時を少し過ぎた頃。
オレと三枝は駅に向かって歩いていた。
イベントは先程終了し、後は帰るだけだった。
「いやぁ、すごかったな……」
「さっきからそればっかじゃん」
苦笑しながら三枝はそう言った。
「なんていうか……他の言葉が見つからないんだよ。ただただ圧巻されたっていうか」
「そんなに興奮してくれたならあんたを連れてきて正解だったみたいね」
「ああ、ほんとありがとうな。貴重な時間を過ごせて良かったよ」
言って、オレは右手を差し出した。
「え、なに……?」
オレの顔と手を交互に見比べながら、三枝は怪訝な顔をした。
「いや、何って握手だよ、握手」
「握手って……普通やる?」
「いいじゃねぇか。オレなりの感謝の印なんだから」
「まぁ別にいいけどさ……」
言って、三枝はゆっくりと左手を差し出し、オレと握手をした。
三枝の手はオレなんかの手より柔らかくて、夏だというのに少しひんやりとしていた。
「あ!そういえばアタシこのあと予定があるんだった!」
握手をしたあと、三枝は慌てて携帯を取り出して、時間を確認した。
「間に合いそうか?」
オレが夢中になって三枝を連れて廻ったばっかりに……と少し反省する。
「次の電車に乗れば何とか!悪いけど、先にいくわね!じゃ!」
素早く手を上げてから三枝は駅まで駆け出していった。
「あ」
夢中になったばっかりになんでバイトしてたのか聞くの忘れた。
ま、また今度でいいか。
三枝の後ろ姿を見ながら、オレはそんなことを考えていた。
そして、この日の出来事が後のオレの運命を大きく変えることをこのときはまだ知らなかった。




