彼氏とか彼女とか
廻り始めてから早2時間。
休憩をとるのも、そっちのけでオレは様々なゲームの試遊や開発者の話などを聞き廻っていた。
その間、三枝は文句も言わずに付いてきてくれた。
てっきり軽口の一つでも言われると思っていたので、それには少し驚いたが、もっと驚いたのは三枝のゲーマーとしての知名度の高さだ。
行き先々で企業のお偉いさんから挨拶をされる。
聞けば、三枝が面白いと言えばそのゲームは確実にヒットするらしい。
なので、企業側としては三枝の開発の段階から助言をもらったり、テスターとしてプレイしてもらってから開発する企業も少なくないそうだ。
彼女の発言で会社が潰れるか成長するか、簡単に左右されるなんて冗談っぽく言っていた人もいたが、オレはそれがあながち冗談ではないと感じた。
普通の女の子に見えるけど、何気にすごい人物だったんだな……
と、感心するのと同時に一つの疑問が浮上した。
おそらく、企業側から依頼されているのならそれなりのお金が支払われるはず。
なのに、なんでこの前三枝はショッピングモールでアルバイトなんてしてたんだ……?
「三枝さん!この前はお世話になりました!」
そんなことを考えながら、とあるブースに近づいた瞬間、遠くからスーツをびしっと着た若干、髪に白髪が混じっている男性が駆け寄ってきて、三枝に挨拶をする。
そのやり取りを見てどうやら、三枝はこの会社にもアドバイスをしていたのだと分かった。
「もしかして例のものを見に来てくれたんですか?」
「そうそう。新しい情報あるかなと思ってさ」
明らか年上の大人に対してタメ語を使って怒られないとは……
「では、こちらへ。それからそちらにいらっしゃるのは彼氏さんですか?」
「「ぶっ!!」」
その言葉に二人とも吹いた。
「だ、誰がこいつなんかと……!」
三枝は顔を赤くしながらそう叫ぶ。
「あれ?違うんですか?お似合いだと思ったんですがねぇ」
はっはっはと高笑いしながら男性は奥に戻っていった。
その後ろ姿を見つつ、横に目をやると同じようにこちらを見ていた三枝と目があってしまう。
「……!」
目があった瞬間、三枝は慌てて目を背け、足早に奥へと進んでいった。
「意識しすぎだっての……」
彼氏なのかと言われ、オレも少しは恥ずかしかったが、三枝の反応が大袈裟すぎたので反って落ち着いてしまった。
いや、むしろ三枝があれだけ反応することに驚いた。
え?ありえないから、こんなやつと。くらいに言われると思っていたのだが……
まぁ三枝も女子だ。彼氏欲しいとか思うときだってあるのだろう。