おあずけ
服屋を出て、すぐ近くにあるベンチに二人並んで座る。
携帯を見ると今は3時28分。
陽愛からの連絡はまだ無かったので、もう少しここに居られるらしい。
「次はどこ行こっか?」
大事そうに買い物袋を抱えた杉原がそう尋ねてくる。
「そうだなぁ……」
暇潰しにゲーセンでも行くか?
でも、白熱してるところで連絡が来て中途半端にやめたくないしな。
かといって、他にやりたいことや行きたいところもない。
「うーん……」
オレが腕を組んで悩み始めたその時。
ぎゅ~……
オレの腹が盛大に鳴った。
これでもかってくらいのボリュームで。
「……お腹すいてるんだね」
「みたいだな……」
冷静に受け答えつつ、周りにも聞こえるほどのボリュームだったので、オレは恥ずかしくなって、その場に俯いた。
全然自覚はなかったが、意識すると確かに腹ペコだった。
どうやら、昼ご飯がそばだけでは足りなかったようだ。
「なんか食べに行こっか」
言うより早く、杉原はベンチから立ち上がっていた。
「なんか悪いな……」
オレはばつが悪くなり、たまらず頬をかく。
「いいって。それより美味しいパン屋さんが近くにあるからそこで何か食べようよ」
というわけで杉原オススメのパン屋でティータイムをとろうと、店まで向かおうと歩き始めた時、オレの携帯がポケットの中で震えた。
「……」
一瞬のうちに身体が停止する。
まさか、このタイミングで……?
我が妹よ、それはあんまりだ……
オレは悲しみに暮れつつ、携帯を開く。
頼む……
メルマガであってくれ……
心の中で神に祈る。
しかし、現実は残酷だった。
携帯にはやはり陽愛からのLINEが。
本文に目を通すとどうやら、あと30分ほどで駅に着くらしい。
「あれ?どうしたの?」
横を歩いていたはずのオレが急に立ち止まったので、杉原は何事かと引き返してきた。
「すまん。杉原。パン屋はお預けみたいだ……」
がっくりと項垂れながら、携帯の画面が杉原にも見えるように差し出す。
「ああ……なるほど……」
そして携帯の本文を読み終えたあと、杉原は同情のまなざしでオレのことを見てきた。
「確かテイクアウトもできたはずだから、食べながら待とうよ」
「テイクアウトできるのか。良かった……」
杉原の言葉にオレは少しだけ元気を取り戻し、再びパン屋へ向かい始めるのだった。




