まさかの同棲!?
「よかったな。大事にならなくて」
「……」
医務室からの帰り、三枝に話しかけるが完全スルー。
まぁ当たり前か。
オレのことをあれだけ毛嫌いしていて、その上、あんなことされて平気なわけがない。
「じゃあオレは仕事に戻るから。安静にしてろよ」
そう言って、軽く手を降ってから三枝と別れる。
三枝は軽い捻挫だったが、怪我のことを知り、気を利かせてくれた店長がわざわざタクシーを呼んでくれて、三枝が無理なく帰れるようにと手配してくれたのだ。
本当はタクシーが止まっているところまで送りたかったのだが、これ以上一緒にいると、何をされるか分からなくなりそうなので、ここら辺で止めておくことにした。
その代わりに別のスタッフが三枝をサポートしてくれると言ってくれたので、オレはその言葉に甘えることにした。
「すいません。戻りました」
倉庫に戻ってき、オレ達のことを心配してくれていたスタッフに声をかけてから仕事に再開した。
三枝がいなくなって作業の効率が落ち、仕事量も増え、初日からハードワークになったが、弱音は吐いていられなかった。
結局、その日の仕事が終わったのは予定より2時間遅い夜の8時過ぎのことだった。
「はぁ、疲れた……」
駅前にあるベンチに座り、そのまま頭を乗せ、天を仰ぐ。
働くって、結構大変なんだな。
残業したからバイト代は予定より多くもらえたけど、それにしても疲れた。
全く世の中のサラリーマンは偉大だよ……
そんなことを思いながら、先程自販機で買った缶コーヒーをすすっていると。
「おにいちゃーん!!!!」
聞き覚えのある声が遠くから聞こえてきた。
「……」
その声にオレは全身が硬直し、震えた。
まさか、やつが近くにいるだと……?
この疲労困憊の状態でやつの相手をするのは辛すぎる……!
なんとか回避を……
と、思い、ベンチから立ち上がったが、時すでに遅し。
「とう!!」
陽愛が正面から思いっきり、突っ込んできて、その勢いで再びベンチに座るハメになった。
おまけに背中がベンチに激突して激痛が走った。かなり痛かった。ちょっぴり涙目になるくらいだった。
「やっと会えた~!」
そんなことお構いなしに、陽愛は愛おしそうに頭をオレの胸に擦り合わせて、抱き締めてくる。
「い、いででで……!」
相変わらず、締め付ける力が強すぎる……!
骨がギシギシと唸ってる……!
こいつ、細い身体して一体どんな腕力してんだ、男より強いぞ……
「お兄ちゃん、今日どこにいたの?ずっと探してたのに」
あらかた、満足したのかようやく陽愛の抱擁から解放され、なんとかオレは失神せずに済んだ。
「あ、ああ……バイトだよ。夏休みに入ると暇な時もありそうだから」
肩や首を軽く回しながらそう応える。
「そうだったんだ。てっきり誰かとデートしてるのかと思っちゃった」
「はは、したくても相手がいねぇよ……」
言ってて、自分で情けなくなった。
でも、この前、柊とデートしたよな。
あ、でもあれ、水泳の練習という名目があったからな……
それがなかったからデートしてなかっただろうし。
って考えるとやっぱり相手はいないよな……
「はぁ……」
思わず、ため息がこぼれた。
ここにきて、まさか肉体の方か精神的なダメージも食らうとは……
「アタシはいつでもデートしてあげるからね!!あ、それから夏休みの間、お兄ちゃん家に住んでもいい?」
「はぁ?!なんだよ、いきなり!ていうか母さん達の許可は?」
「ちゃんともらってきたよ?」
言って、陽愛は肩から下げている可愛らしいポーチの中から一枚の紙切れを取り出し、それをオレに渡してきた。
それに目を通すとそこには母さんの字で、許可済み!!とデカデカと書かれていた。
「あー、はいはい……」
あんまり期待してなかったけど、すげー軽いな、ウチの親。
妹とはいえ、義理なんだぞ?
一夏のうちにもしかしたらなこともあるかもだぞ?
いや、陽愛と何かするつもりはないが。向こうは大いにありそうだけど。
まぁ安心してるからこそ、オレと住むことを許可したんだろうな。
「はぁ、仕方ない。夏休み間だけだからな?それから今度から家に来る時は前もって連絡すること」
陽愛の頭を軽く叩いてからオレは缶コーヒーをぐいっと飲み干し、近くのゴミ箱に捨てた。
「はーい」
叩かれたはずなのに、妙に嬉しそうな表情の陽愛だった。
そこでようやく、オレ達が駅前の注目の的になっていることにようやく気づき、陽愛を見送ったあと、慌てて家まで帰るのだった。




