敵対
その後、店長から今日の説明を聞くが、その間も、三枝はオレのことをジトッとした目でずっと見てきて、ひたすらそれに気づかないふりをしていたので、非常にめんどくさかった。
「それじゃ、やるか」
軽く手足を回したあと、気合いを入れる。
今日の仕事は倉庫にある売れ残った資材の撤去だ。連れてこられた場所には、資材が詰まったダンボールが大量にあって、骨が折れそうだなと感じた。
「じゃ、アタシは台車使うから、あんたは手で運んでね」
オレのことは無視するように、早速三枝は支給された台車に手をかけた。
「っておい」
たまらず、オレは三枝の肩を掴んだ。
「何よ……」
気に入らないとばかりにむすっとした顔でオレを見る。
「時間も限られてるんだし、協力した方が早いと思うんだが」
第一、何故三枝だけが台車を使うのか納得がいかない。
オレのことを邪険にしてるのはわかったが、それとこれとは話が別だ。仕事を時間内に終えるのに協力は不可欠だと思うし。
「じゃああんたが台車使えば?アタシは一人でやるから」
だが、オレの提案も聞かずに三枝は肩に置かれた手を払いのけ、棚にあるダンボールのそばにしゃがむと両手でそれを掴み、運び始めた。
「ったく……」
それを見て、つい呆れてしまう。
まるで親に叱られ、言うことを聞かない子供のような反応の様に見えた。
「くっ……!うう……」
そんなオレをよそに三枝はダンボールを運び始めた。
が、女子一人の力では持ち上げるのすら辛いのか、三枝は苦悶の表情でダンボールを掴んでいた。
「無理すんなって。台車に乗せろよ」
「いらないって……言ってんでしょ……」
しかし、三枝はオレの言葉に耳を貸さず、ヨロヨロとした足取りで歩き始めた。
だが、見るからに不安なので慌ててそれを支えようと駆け寄った瞬間。
「きゃっ……!!」
ダンボールで前がよく見えなかったのか、そのせいでバランスを崩しながら、足を挫いてしまい、三枝はそのまま崩れるように倒れてしまった。
「お、おい!!」
倒れた拍子にダンボールは三枝の足の上に乗っかってしまい、オレはすぐさま駆けつけ、ダンボールを足の上からどかした。
「いつつ……」
三枝は苦痛に顔を歪めながら、足を両手で抑えていた。
「大丈夫か!?」
「へ、平気……これくらい……つ!!」
オレの手から逃れようと三枝は無理して立とうとしたが、その矢先に激痛が走り、そのまま膝から崩れてしまう。
「無理すんなって……多分足捻ってるぞ、これ。早く手当てしてもらおう」
「足挫いたくらいで車イスとかに乗せられるのは、勘弁だからね……恥ずかしい……」
「じゃあ……」
どうやって三枝を医務室まで運ぶか、オレは頭を悩ませた。
「あれ……」
そんなオレを見て三枝は人差し指で何かを指した。
その指の先を目で追っていく。
「……台車……?」
「……」
三枝はゆっくりと頷いた。
つまり、台車で医務室運べってことか?
「そっちの方が恥ずかしいだろ……」
オレはたまらず呟いた。
第一、台車で人を運ぶって小学生の遊びかよ。
ここでそんなことやったら確実に注意されるわ、
「じゃあ他にどうすんのよ……」
「はぁ……ごめんな」
これからオレが行うことを三枝は絶対に嫌がると思い、オレは先に謝っておいた。
「は?急に何謝って……ってひゃああ!?」
三枝は突然抱き抱えられ、何が起きたのか一瞬分からなくなり、オレの手の中で叫んだ。
「ちょ、何やって……!ていうか離せ!!」
三枝は全力でオレの手の中で暴れ始める。
肘や腕がみぞおちやら、胸、鎖骨に当たり、少し痛かったが、我慢することにした。
やはり、お姫さまだっこはまずかったか。
しかし、おんぶになると三枝の胸が当たるだろうし、そっちの方がまずいよな。
「はいはい。文句は後で聞くから、まずは手当てしてもらおう」
抗議の言葉を適当にあしらいつつ、オレはお姫さまだっこをしたまま、医務室まで急いだ。
途中、何人かのスタッフに奇異な目で見られたが、訳を話せば全員納得してくれた。
最も、運んでいる最中、三枝はずっとオレのことを睨んでいた。しかし、途中から暴れなくなり、オレは少しだけほっとしながら医務室までの道のりを急いだ。




