ひきずるねー
夏休み前のとある祝日。
「じゃあよろしくね」
「はい」
オレは駅前にあるショッピングモールの中の雑貨店に来ていた。
といっても何かを買いに来たわけではない。
夏休み中は暇を持て余す気がしたので、短期のバイトでも始めようと思った次第である。
そして、偶然にもこの雑貨店がリニューアルのため、臨時スタッフを募集していたのである。
仕事内容は主に資材の撤去や、搬入であるため、オレでもできると踏んだのだ。
「それじゃ……あら……」
母さんと同年代くらいの店長に説明を受けている途中、店長は持っているバインダーに挟んでいる紙を何枚か捲った。
「どうかしましたか?」
「いえ、実は今日もう一人臨時のアルバイトが来るはずなんだけど、遅刻みたいね……」
店長がそう言ったとき、オレの後ろから大声が聞こえてきた。
「遅れてすいません!!」
「ん?」
その声にオレは首をかしげた。
どっかで聞いたことのある声だな。というかもしかして。
オレはゆっくりと後ろを振り向いた。
そこには急いで走ってきたのであろう、肩で息をしながら額の汗をハンカチで拭っている三枝がいた。
「奇遇だな。こんなとこで会うなんて」
言いながら、手を肩の位置まで上げる。
そういえば、三枝の私服は初めて見るな。
ジーパンにTシャツというボーイッシュな服装だった。
「え……ってなんであんたがここに!!?」
こっちがびっくりするくらいの大声で三枝が叫ぶ。
周りのスタッフも突然の大声に驚き、こちらに注目している。
「いや、オレもここでバイトなんだけど」
「まじ……?」
オレの言葉に三枝はこの世の終わりとばかりにがっくりと肩を下げて落ち込み始めた。
「その反応、おかしいだろ……」
いくらなんでも、さすがに凹むわ。
「アタシを狙ってここまで来たのか。その執念だけは褒めてやるわ」
「いや、言っとくけど別にお前を狙ってるわけじゃないな!?」
この前のプールのこと、まだ引きずってんのかよ……
全く、やりにくいやつと一緒になってしまった。




