彼氏
「ん、んん……」
オレは呻き声を上げながら、ゆっくりと目を開けた。
目を開くと白いタイルの天井が視野いっぱいに広がっている。どうやら屋内にいるらしい。
そのまま、上半身を起こすとベッドの上に横たわっていたことに気づいた。
そのうち、意識もはっきりしてきたので、辺りをキョロキョロ見回すと同じようにベッドが他にもいくつかあり、壁には棚があり、その中に瓶がいくつも入っていた。
「ここは……」
施設の中にある救護室かな。
すると、ガチャっとドアが開き、そこから柊と一緒に白衣を着た眼鏡をかけた若い男性が現れた。
「あ……」
柊はオレがそちらを向いていることに気づき、オレの方に視線を向けた。
そして、少し遅れてから男性もオレが目覚めたことに気づき、優しい笑みを浮かべて、柊に何かを囁いた。
それを聞いた柊は顔を俯かせ、オレの方にゆっくり歩いてきた。
「ごめんなさい!!」
そしてオレの前に来た瞬間、思いっきり頭を下げた。
「無我夢中で泳いでて、何かが手に当たったと思ったらそのままそれにぶつかって、慌て目を開けたら目の前で井上君がプカプカ浮いてて……!」
「は、はは……」
その光景を想像して、乾いた笑みがこぼれた。
それは、かなり滑稽なことだっただろう……
「彼女、かなり気が動転していたみたいで、私が駆けつけるなり、早く助けて下さい!!って大声で叫ばれたよ」
はははとその時の事を思い出すように男性は笑って、反対に柊は恥ずかしくなり、顔を真っ赤にして縮こまり、黙り込んでいた。
「しかしまぁ大事がなくて良かった。脳震盪を起こしたから少し頭がフラフラするかもしれないが、ちょっと休めば治るよ」
「はい。ありがとうございます」
オレはペコリと頭を下げた。
「彼女もあんまり彼氏を殴らないようにね」
「か、彼氏じゃ……!」
慌てて弁解しようとするが、それを聞く前に男性はドアを開けてどこかに行ってしまった。
そのまま、救護室に取り残されるオレ達。
部外者を置き去りにして大丈夫なのか?と思ったが、それよりも柊のことが気になった。
チラッと柊の方を見ると柊もオレの方を見ており、視線が交差してしまう。
「「!!」」
慌てて、二人同時に顔を背けるが途端に顔が熱くなってくる。
彼氏……か。
端から見たら、やはりそういう風に勘違いされるのだろうか。
オレは冷静に頭の中でそんなことを考えていた。




