理由
おいおい。
なんで、この子が叫ぶの?
身体掴まれてんのオレだけど……
先程までの恐怖はどこへやら。わけがわからず、オレの頭は混乱するばかりだった。
「う……ううあ……」
対して女の子は、何故だかわからないが、泣いているようで、彼女が顔を当てているシャツから冷たいものが背中に伝わってくる。
きたねぇ……
てか、なんで泣いてんだ?
泣くようなことしてないのに。
まさか背の高い人間を見ると泣くとか?
いやいや、さすがにそれはありえないか。
そんなことを考えている間も彼女は泣きっぱなしで、オレの頭はしばし混乱するばかりだった。
そして泣くこと数分間。
ようやく、泣き止んだ彼女と向かい合ってイスに座る。
オレが座っているのは自分の席にあるイスで、対して彼女はオレの前の席のイスを使っている。
泣いたことで気分も落ち着いたようでこっちの質問にも答えてくれた。
女の子の名前は柊彩香
オレは気づかなかったが、話を聞くと彼女は同じクラスの女子だったのだ。
今日の帰り際、いつも持っている本、いわゆる愛読書というやつが忽然と無くなってしまい、誰かに取られたんじゃないかと考えた柊は、それを探すためにクラス中の机を探っていたらしい。
そこへたまたま、サイフを取りに来たオレが教室へやってきて、どう見ても怪しい行動をとっている場面を見られてしまい、どうしようかわからず、焦りに焦り、ついに泣いてしまったそうだ。
「まぁ、話を聞いて事情はわかったし、別に誰かに言うつもりもないから安心して」
「うん……ありがとう……」
柊を安心させるようにオレはそう言った。
泣いているところを見られて少し恥ずかしいのは、柊は俯きながらそれに頷く。
しかし、よく見ると可愛いな。
改めて柊を見てみてそう思った。
髪はロングで少しウェーブがかかっていて色は黒。それに目は二重で整った顔立ち。
おまけにスタイルも服の上からでも、分かるくらい抜群に良い。
まさに美少女ってやつだ。
今更だけど、こんな子とクラスが一緒だなんてラッキーだな。
出会い方は最悪だったけど……
災い転じて福と成すか?なんて思っている時に疑問が出てくる。
「ん?あれ?ちょっと気になるんだけど、その本って見つかったの?」
「……」
柊はフルフルと横に顔を振った。
どうやら、まだ見つかってないらしい。
「どこに置いたか覚えてる?」
「……」
その質問に無言で人差し指を下に向けた。
つまり、今、柊が座っている席であり、オレの前の席だ。
「もしかして、そこが自分の席とか……?」
自分から言っといてなんだが、こんな美少女が目の前に座っていたら普通、気づくはずだから、ありえない。と思っていたが。
「……」
柊はコクッと静かに頷いた。
「やっぱりか……気づかなくてごめん……」
ばつが悪くなり、慌てて頭を下げる。
思った以上にずっと、杉原のことについて考えすぎていたんだなと、少しブルーになる。
そもそも周りに誰が座ってるかなんて気にしてなかった。
「それにしても見つからないってことは、誰かに持ち去られたのかもな……」
言いながら、オレは眉を潜めた。
しかし、本を持ち去っても別に特なことなんてないと思うが。
プレミアがつくほどめちゃめちゃレアな本なら多少なりともわかるが、まぁそれは犯罪だしな。
バレたら後で大変なことになる。
「そ、それは困る……」
オレの呟きに柊は口を開いた。
「あ、あの本はとても大切なものなの……だから、絶対に見つけないと……」
そう言いながらぎゅっと手を握る。
「……」
それを見てオレは柊が本にどれほど愛情を注いでいるか直感的に理解した。
本なんてどれも同じ……と思っていたが、ここまで本のことを大切に思えるなんて、少し羨ましいほどだった。
「よし!だったら絶対に見つけよう!」
オレはイスから力強くイスから立ち上がった。
ここで手を貸さないやつは男じゃない。オレはそう思った。
「あ、ありがとう……」
そんなオレの姿を見て柊は少しだけ微笑んでくれた。
その笑顔を見てやっぱり笑った方が可愛いなと思った。
「さて、とりあえず教室にないなら、職員室へいって……」
そこまで言ったところではっと気づいた。
もしかして?