最高!
会長の家を出てから、自宅までの道のりをゆっくり歩く。
なんか色んなことがあった一日だった。
物思いにふけりながら、道端に転がっていた小石を蹴る。
それに会長の意外な一面を見ることができたし、何より、あんな素晴らしい笑顔を拝むことができた。
会長が家に来たとき、何を作ろうかな。
無難に親子丼とか作ろうか。
いや、せっかく家に来てくれるんだから、手の込んだものでも作るべきか。
でも、客人を待たせるのも悪いし……
そんなことを悩みながら、道を歩いていると携帯のバイブが鳴った。
ん、何だろ。
ズボンのポケットから取り出し、携帯のディスプレイを見るがそこにはある人物からのLINEで思わず、目を見開いてしまうような驚くべき内容が書かれていた。
そして時間があっという間にながれ、いよいよ週末。
今日何度目になるか、再び腕時計を見ると今は午後12時26分。
オレは駅前にあるベンチに座りながら、とある人物が来るのをじっと待つ。
「……」
ここに来てからずっとそわそわそわそわとしてしまう。
今日一日、何話したもんか……
前みたいに話せれば楽なんだが、状況が状況だしな……
でもせっかく誘ってくれたわけだし、楽しく過ごしたいよな。
てか、身だしなみは大丈夫だよな……?
急に気になってきたので、こんなときのために買っておいた100均手鏡をボディバッグから取り出し、入念にチェックを行う。
よしよし、寝癖はしっかりと直したから大丈夫。
あとは……
手鏡をバッグに戻し、入れ替わるようにミントタブレットを取り出し、それを1錠、口の中に放り投げる。
噛んだ途端に口の中に爽やかなミントの香りが広がる。
これで口臭は大丈夫なはず。
財布の中身もしっかり入れてきたし、万が一の場合も大丈夫だ。
ダメ押しに普段使わないクレジットカードも忍ばせてある。
初めて彼女ができてデートするときもきっとこんな感じなのだろうか。
ふと、ベンチから顔を上げると周りにはちらほらとカップルが。
オレと同じくらいの年齢のカップルもいた。
オレ達も一緒にいればカップルに見られるのだろうか。
それは半分嬉しくもあり、半分恥ずかしくもあった。
といっても、相手は彼女ではないのだけれど。
「お、お待たせ……」
すると、後ろからちょんちょんと指で誰かに肩をつつかれた。
き、きた……!
その瞬間、オレの心臓は急にドキドキと鼓動し始める。
あくまで冷静に普通に……
しっかりと自分に言い聞かせ、深呼吸したあと、ゆっくりと振り返る。
「いや、オレも今きた……」
待ち合わせの定番のセリフ、今来たところ。と言おうとしたのだが、そのセリフを言い終わる前にオレの口は途中で止まってしまった。
というのも、目の前にいる人物を見てしまったからだ。
「……」
そこには恥ずかしそうに少しだけ顔を赤くして俯く柊がいた。
いや、柊がここに来るのは分かっていた。そもそもは柊からお誘いを受けたのだから。
問題なのはその格好だった。
清楚なワンピースにヒール、手にはハンドバッグと一見、普通なコーディネートなのだが、それが破壊力抜群だった。
少し前にメンズ雑誌で読んだが、男性がデートで着てきてほしい服、2位にワンピースが入っていた。
今日その意味がよくわかった気がした。
それを証明するように周りの男性や、同姓の女性までもが柊のことを遠巻きに見ているほどだった。
先程までの緊張なんてもうどっかに吹き飛んだ。
今のオレには幸福の二文字しかなかった。




