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約束

「ごちそうさまでした」


20分後。

たらふく料理を堪能したオレはコップに入っていた麦茶を飲み干しながら手を合わせた。


「お粗末さまでした」


その様子に微笑みながらカチャカチャと手慣れた様子で会長は皿を重ねながらお盆の上に乗せる。


「いやー、めちゃめちゃ美味かったです」


「ものすごい勢いで食べてからびっくりしたわよ。男の子ってこんなに食べるのね」


驚いたようにクスクスと笑い声を上げる。


「あー、すいません……」


ばつが悪くなり、頭を下げ、後頭部に手を当てる。

いくら客人とはいえ、遠慮しなさすぎたよな……

もう少し、遠慮したほうが良かったかな。

いやいや、でもあんな美味い料理、遠慮できるわけがない。

とか、意味のわからない言い訳が浮かんでくる。


「どうせいつもみたいに余っちゃうくらいだったから、むしろ有り難かったわ」


そう言って、どこか寂しげに会長は笑った。


「余る?」


その言葉にオレは疑問を感じた。

自分の分だけ作るなら余ることなんてないはず。どれぐらい食べるかなんて本人が分かってるはずなんだから。

それが分からないってことはつまり……


「一応、両親の分も作ってるんだけどね」


オレの心を代弁するように会長は話し始めた。


「アタシの両親、中々家に帰ってこなくてね。仕事で遅いのか、何をしているのか全然分かんなくて、連絡してももう少しで帰るって返事ばっかで、どうせ作っても無駄だっていつも分かってるんだけど、もしかしたら帰ってくるかもしれない。って心のどっかで思ってて……」


苦しそうに顔を歪ませ、それでも会長は胸のうちをさらけ出してくれた。


「……」


それをオレはただ黙って聞くことしかできなかった。

今、オレの目の前にいるのは、孤独で普段のクールさなど欠片もない、ただのか弱い女の子だった。

きっと毎日、一人だけで食べる晩御飯は辛いものだっただろう。

オレも一人暮らしでたまに誰かとご飯を食べたくなるときもあるから、その気持ちは少なからず、分かる。


「でも、今日は君が来てくれたから嬉しかった」


「え……?」


それってどういう意味……

そう聞く前に会長は話を続けた。


「ご飯を誰かと食べるなんていつ以来なんだろうって思っちゃった。こんなに楽しくて、居心地のいいものだったんだって思い出すことができた」


そう言って、会長はとびきりの笑顔でオレに微笑んでくれた。

その笑顔を見た瞬間、オレの胸の中に込み上げるものがあった。

その笑顔をもっともっと見てみたい。そう思えたのだ。


「だったら……」


だから、オレは会長にこう言った。


「今度はオレの家に来てください。会長ほど料理は上手くないけど、手料理をご馳走しますよ!」


そして会長と同じようにとびきりの笑顔で微笑んでみた。


「……」


会長は、オレがそんなことを言うとは思っていなかったのか、一瞬、呆気に取られていたが、やがて、その言葉の意味を理解してくれ、その頬は徐々に釣り上がり。


「うん!!!」


と、先程と同じくらい素晴らしい笑顔で返事をしてくれた。

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