今時、日本家屋は珍しい
まるで旅館かのような大きな玄関で靴を脱ぎ、これまた長ーい廊下を歩いた先にある部屋に招き入れられる。
「ここに座って?」
ベッドの上にあったウサギの可愛らしいクッションを床に置かれ、そこをポンポンと叩かれる。
「失礼します……」
おずおずと返事をしながら、カバンを床にそっと置いてからクッションの上に座る。
会長が普段使っているクッション。そう思うだけでオレの心臓の鼓動は何倍にも跳ね上がった。
当の会長はベッドの上にカバンを放り投げると「ちょっと待っててね」とだけ言って、すぐさま部屋から出ていった。
取り残されたオレは緊張しながら部屋の中を見渡す。
入ったときから感じていたが、ここは会長の部屋のようだ。
日本家屋に住んでいるから和室かと思ったが、意外なことにここは普通の洋室だった。
ただし、当たり前なのだが面積はかなり広く、6、7人が余裕で寝泊まりできるだけの広さはありそうだった。
32インチほどあるテレビに衣装ケース、綺麗に整頓された本棚と勉強机とイス、テーブルがあり、ベッドの上には枕とぬいぐるみがいくつかあった。
ぬいぐるみ……
意外だと思ったが、そりゃ、会長だって女の子だもんな。ぬいぐるみくらい持っていたっておかしくない。
それより、なんだっけ、あのキャラの名前。
ぬいぐるみの一つを見つめながら考える。
つぶらな瞳にフワフワの身体で全身が黄色で、ハチミツが大好きなキャラクター。
確か有名なキャラなはずなのに緊張しているあまり、度忘れしてしまったらしい。
会長は夜中にこういうのを抱き締めているのだろうか。
名前を必死に思い出しながら、そんなことをふと思う。
オレの部屋にはぬいぐるみなんてないな。
実家の方にならゲーセンで取ったぬいぐるみがいくつかあるが、どれも飾ってるくらいで抱き締めるなんてあり得ない。
ぬいぐるみを抱き締める会長か……
想像というより、むしろ妄想と呼べるものを頭の中で繰り広げる。
普段はクールな人もオフになると急に女の子らしくなって、その辺りが男心をグッとくすぐるな。
などと、バカなことを想像していたとき。
「おまたせ~」
お盆にお皿を乗せた会長が部屋に戻ってきた。
「ん?なんか顔赤くない?」
テーブルにお盆を置きながら、会長はオレの顔をじっと見てくる。
「な、夏ですからね……」
たった今、想像していたことを言えるはずもなく、オレは慌ててそっぽを向き、かなり苦しい言い訳を言うのだった。




