いざ,訪問
時刻は夜の6時過ぎ。
まだ陽が出ていて、辺りはほんの少し、明るかった。
「それでクラスの男子がね……」
「はぁ……」
いつもと変わらない様子で話しかけてくれる会長。
しかし、一方のオレは先程から生返事しかしていない。
なにせ、生まれて初めて女性の部屋に行くのだ。
そのことががオレの脳内を何度もグルグルと駆け回っている。
どういう意図があってオレを誘ったのだろうか。
まさか告白?
いや、それはない気がする。
だが、万が一という可能性もある。
「はぁ……」
すると、オレの横を歩いていた会長の足が止まり、オレも足を止めて後ろを振り返った。
「どうしたんですか?」
「どうしたって、さっきから君、アタシの話聞いても、ずっとへーとか、うんとか、はぁしか言ってないと思うんだけど?」
ムッとしながらオレの方に詰め寄ってくる。
「あー……」
そう聞かれてオレは言葉に詰まった。
確かに生返事ばかりになっていた。しまった。
「すいません……」
言い訳が特に思い付かず、オレは素直に頭を下げて謝った。
女の人の家に行くのは初めてだなんて恥ずかしくて言えないし……
「もう、アタシの話、つまんないのかなぁ……」
オレが素直に謝ったので、どこか寂しそうな表情で会長はボソッと呟いた。
「い、いや!別にそういうわけじゃ……!」
その姿にオレは慌ててフォローする。
今の会長はいつもの年上っぽい感じが全然なく、むしろ親に構ってもらえず、寂しそうにしている子供みたいな様子だった。
「女の人の家に行くの初めてだから緊張してただけで、別に会長の話がつまらないとかそういうわけでは……!!」
だが、必死になって会長をフォローをしようとしてオレはつい本音をこぼしてしまった。
しまったと思ったが、時すでに遅し。
「……」
一瞬、会長は目をぱちくりさせ、オレが言った言葉の意味を考えた。
そして次の瞬間。
「なっ……!!」
顔を真っ赤にさせ、慌ててオレから距離をとった。
「な、なにいってんの……!!?」
明らかに動揺し、自分の頬に両手を当てる会長。
いつものクールな感じも、余裕のある態度も今は全くなかった。
それにあてられ、オレの顔も赤くなっていく。
結局、そのまま二人して顔を真っ赤にさせたまま、終始無言で道を歩いていった。
「……」
「……」
そろそろ何か話した方がいいよな……
さすがにこの空気に耐えられなくなってきた。
とはいえ、何を話したもんか……
結局、同じ考えが頭の中でグルグル回るだけで結局、一向に答えは出なかった。
「着いたわよ」
そんな中、いつの間にか会長の家の前まで着いていたようで、前を通り過ぎようとしていたオレを会長が声をかけてくれて気づかせてくれた。
「あ……」
その声にハッと気づき、下ばかり見ていた顔を上げる。
「うお……」
家が目に飛び込んできた瞬間、思わず口から声が漏れた。
会長の家はいわゆる日本家屋というやつだった。
その上、巨大な門とそれにふさわしいほどの敷地と、少しだけ開いている戸中を覗くとそこには大きな庭があり、小さいながら池もあるようだった。
なるほど。会長がお嬢様なのはこれでよくわかった。
これだけの家で育つくらいだから親が厳格なのも無理はないかもしれないとオレは感じ取った。
そんなお嬢様の家に軽々しく上がり込んで良いものかオレは不安になり、情けないことに門の前から一歩も動けなくなった。
「ほら、暑いから早く中に入ろう?」
そんなオレの心を知ってか知らずか、会長はいつの間にか家の中へと入っており、中から手招きしてきた。
「は、はい……」
オレは言われるがまま、ガチガチに緊張したまま、中へ入っていくのだった




