鳩が豆鉄砲を食らうなんて言葉、中々使わない
2時間後。
「はぁ……」
作業がようやく一段落ついたので、オレはへとへとになりながら倉庫から這い出てきた。
倉庫の中は熱気でムンムン、その上、多少陽がかげってきたとはいえ、夏の暑さでオレの体力はあっという間に奪われていった。
途中で買ってきたスポーツドリンクも瞬く間に無くなってしまった。
少し休んだら何か飲み物買いにいこう。
そう思い、目をつぶり、壁にもたれかかり、へたり込む。
「お疲れ様」
すると、その言葉と共に冷たい何かが首筋に当てられた。
「うひっ!?」
急に走った感触に思わず、目を見開き、変な声を上げてしまう。
「変な叫び声……」
クスクスと笑いながら、会長はオレの隣に腰かけた。
「やめてくださいよ……」
恥ずかしくなり、少しだけムッとしながら会長を見る。
「ごめん、ごめん。それよりこれ飲んで。お疲れでしょ?」
言って、持っていたペットボトルをオレに渡してくれる。
「あ、ありがとうございます」
それを素直に受け取り、喉が渇いていたのでごくごくと飲んでいく。
さすが、気の利く人だ。人望があるのも頷ける。
「それより、結構片付いてるじゃない。すごいすごい!」
「一日で片付けたかったんですけどね。思いの外、量があって」
口からペットボトルを放し、中を見渡す。
せめて、あと二人いれば作業は一日で終わっただろうとつい考えてしまう。
「明日また来ますよ。どうせ暇なんで」
そう言ってから、ぐいっと最後の一口を飲み干す。
「こっちも人手が回せそうだったら、送るわね」
「よろしくお願いします」
そんな会話をしながら、しばらくそこで二人して休んだあと、オレ達はそれぞれの家へと帰っていった。
そして、翌日の放課後。
オレは昨日と同じように倉庫整理をしていた。
昨日は何も準備していなかったのが、今日は飲み物にタオル、それに軍手も用意してきたので作業が昨日よりはかどっていた。
特に軍手があると、いちいち手を洗いにいく必要がなくなり、その上、手にケガをする確率も低くなるのでとても助かった。
「ふぅ……」
額に流れる汗を袖で拭いながら息を吐く。
あとは廃棄する資材をまとめてから、ゴミ置き場に置けば整理は終わる。
オレは倉庫の中にあった使われていない古いロープを持ってき、その場にしゃがみこみ、それらを束ね始めた。
と、ちょうどその時。
会長が遠くの方からこちらへやってきた。
「会長。どうしたんですか?」
作業の手を一旦止め、立ち上がりながら尋ねる。
「もう作業終わるよね?そのあとって暇?」
「はい。まぁ暇ですが……」
突然のお誘いに少しオレは驚いた。
何か雑用を頼むような雰囲気ではないし、なんだろう。
すると、会長の口から出てきたのは予想外の一言だった。
「ウチにこない?」
「へっ……?」
鳩が豆鉄砲食らうとは、こういうときの顔を言うだろう。
それほどオレの顔は驚きに満ちていた。