惚れてる?
柊の電話から20分ほど経った頃。
ピンポン。
玄関のチャイムが鳴る。
ベッドから立ち上がり、インターホンの画面を確認すると、そこには柊の姿が。
いよいよか……
オレはごくっと喉を鳴らし、ドキドキと鼓動する心臓を抑えながら、ゆっくりとドアを開けた。
「ごめんね。いきなり来ちゃって……」
学校の時とはまるで違い、別人のようにしおらしくなった柊。
「あ、いや……」
その変わりようににオレは拍子抜けしてしまい、上手く口が動かせなかった。
なんだ……
いつの感じに戻った?
その様子に少し頭をかしげながら、柊を部屋に入れた。
適当な場所に座ってもらい、とりあえず冷蔵庫からお茶を取り出し、それをコップに注ぎ、柊の前に差し出す。
「あ、ありがとう」
オレが差し出したコップを受け取ろうとした時、柊の指先がかすかにオレの手に当たる。
「……!」
その瞬間、オレの心臓はドキッと思いっきり跳び跳ねた。
だが、そのことを悟られまいと平静を装い、オレも柊の横に座る。
ほんの一瞬だったが、オレの手とは比べ物にならないほど柔らかい感触。
よく考えれば、今、二人っきりなんだよな、オレ達……
途端に邪な考えが頭をよぎり、その瞬間、体温が急激に上がっていく気がした。
「あのさ……」
そんなときに柊がおもむろに口を開いた。
「な、なんだ?!」
別にどもる場面ではないのに、無駄にどもってしまい、おまけに声も大きくなってしまった。
「単刀直入に聞くけど、三枝さんとはどんな関係……?」
だが、オレのことを気にすることもなく、そう問いかけてきた。
柊の手はかすかに震えているように見えた。
「どんなって……学校でも言ったけど、何もないって。ただの友達だよ」
やっぱり、この事だったかと心の中で思う。
「ほんとにほんと?」
「ほんとにほんとだよ。大体転校初日で告られるとか漫画じゃない限り、ありえないよ」
ははっと軽く笑ってやる。
「そっか……じゃあ信じる」
しかし、そう言った柊の顔は相変わらず、どこか暗かったように見える。
「なぁ……なんで、そんなに気にするんだ?」
その表情がどうしても気になってしまい、そう聞いてみる。
「……」
柊は少しの間、俯いたままでいたが、やがて顔を上げて。
「怖いの……」
そう、呟くように口を開いた。
「怖い?」
オレはその言葉に首をかしげた。
「井上君が……いつか私を見捨てて、違うところに行くんじゃないかって……」
「……」
それを聞いてオレは沈黙する。
ああ、そっか……
柊は極端な人見知りだが、その理由はかつて友達にオタクであることを打ち明けたら、あっさりと見捨てられたから。
だから、いつかオレもそうなるんじゃないかって思っているのか。
「安心しろ」
そう言って、柊の頭をゆっくりと撫でてやる。
「あ……」
僅かに声を漏らす。
「オレはお前を見捨てたりしないから。ずっと友達だよ」
「うん……」
頬を赤く染め、少し照れたように頷く柊はちょっと、いや、かなり可愛かった。
なんて、この状況でそんなこと本人に言えるはずもなく、自分からやりだしたことなのに、オレは恥ずかしくなりながら、しばらくの間、柊の頭を撫でていた。




