可愛いな、おい。
入学式とホームルームのみで、今日の日程は終わり。
帰りのホームルームでの担任の話によると明日は身体測定。明後日から授業がスタートするそうだ。
放課後になり、カバンを掴み、イスから立ち上がったところで。
「薫君、一緒にかえろ!」
と、横にいる杉原から声をかけられた。
「ああ、うん……」
生返事に近いような、気の抜けた返事をしてしまう。
「どうしたの?」
そんなオレの様子が気になったようで杉原は首を傾げた。
「ああ、ごめん。なんでもない…」
慌てて平静を装う。
「そっか。ならいいや」
言って、杉原は先に歩き出す。
はぁ……
その後ろを姿を見ながら、声にならないため息がこぼれる。
杉原は昔と変わらない態度だけど、オレはと言うと、上手く切り替えれない。
だって、昔の友達がいきなり男の子から男の娘だからな……
ちなみにクラスは杉原が男子とはまだ知らないらしい。
杉原によると、中学の時の知り合いや友達もこのクラスにはいないそうだ。
おそらく、端から見れば仲の良い男女って感じなんだろうな。
だからこそ、杉原の性別を知ったときのクラスの反応がすごそうだ。
その時のことを想像して少し気が重くなる。
そんな奴と仲良くしてるオレ、やべぇ!!って周りから思われないか心配だ……
入学早々、心配事ができてしまったことにオレは少し肩の荷が重くなった気がした。
「変わらないねー、この街は」
学校からの帰り道、オレが心を悩ませながら商店街を歩いていると、杉原がそう呟いた。
「ああ……そうだな…って、そういえば杉原は今、どこに住んでるんだ?」
小学校の頃に引っ越した先は確か県も違ったはずだ。
そこから通えない距離ではないと思うが、定期代がバカ高そうだな。
「あ、実は少し前にお父さんが海外赴任になって、今はアパート借りてこの街に住んでるよ。引っ越してきたの、2日前だからまだお部屋の片付けも済んでなくてさ……」
言いながら、照れくさそうに俯く。
「そ、そうなんだ……」
その表情を見てるだけで何故か頬が熱くなってくる。
い、いちいち仕草が可愛いな!!
なんか、こいつといると調子狂うわ……
結局、杉原とは終始そんな感じで帰り道を歩くのだった。
「もう着いちゃった。喋ってるとあっという間だね。じゃあ、また明日ね~」
杉原が住むアパートの前で手を振り、そのまま、部屋へ入っていく。
「じゃ……」
オレも杉原に向かって手を振り返す。
自宅から高校まで距離があったので親に無理を言って、オレも一人暮らしすることになったのだが、なんとまぁオレの住むアパートと杉原の住むアパートは、わずかその距離、徒歩5分というものすごい近いところにあった。
オレが一人暮らししてることはまだ言ってないけど、早めに言った方が無難かもな……
髪の毛をガシガシとかきながら、そう考えるのだった。