大量買い。
「さて、じゃ行きますか」
オレの顔の火照りがようやく収まった頃、隣に座ってくれていた会長が口を開いた。
「行くってどこに?」
そんな言葉がついつい口から出てしまう。何故ならどこへいくか、そもそも今日何をするかまだ何も知らされていなかったのだ。
「あー、まだ言ってなかったわね。ま、着いてきてよ。行けばわかるから」
軽く笑うと会長はベンチから立ち上がると足早に駅の中へと入っていく。
「はぁ……」
そんなマイペースな会長にオレは、ただただ着いていくしかなかった。
そして電車に揺られること10分。
「次の駅で降りてね」
オレの隣に座る会長がそう言ってきた。
横目でチラッと顔を覗き見る。
ていうか会長、本当に綺麗だ。
昨日とは全然違う。
周りの人達も同じことを思っているようで、特に男性はチラチラと会長の姿を見ている。
こんな美人の横にいるオレはどう見えているんだろうか。
もしかしたら彼氏だと思われてるんだろうか。
ってそんなわけないか。
いいとこ、仲の良い先輩後輩くらいにしか見えてないだろうな。
淡い期待はするだけ無駄だ。
オレなんて普通の男子だし、イケメンでもないし、会長とはどうやっても釣り合わないよな。
なんてことを考えているうちに電車がお目当ての駅に着いた。
電車を降りて階段を昇り、改札を抜ける。
そして会長の少し後ろを歩き、付いていく。
「お待たせ。ここに来たかったの」
道を歩くこと、わずか1分。
会長お目当ての場所に着いたらしい。
その建物を見た瞬間、妙に納得できた。
何故なら着いた先は。
「画材屋さん……」
「ここに良い筆ペンがあるらしいのよ」
目をキラキラ輝かせながら、会長が建物の中に入っていき、慣れた様子でお目当てのフロアに進み、棚に置いてある物を物色していく。
「漫画の練習用に買うんですか?」
その後ろを付いていきながら、質問する。
漫画については全然詳しくないから何が何やらさっぱりだ。
「あーそっか。昨日言ってなかったわね。実はアタシ、同人作家でもあるの」
くるりとこちらに振り向き、少し考えたあと、口を開く。
「同人作家って、あの男性キャラを無理矢理結ばせるやつですか?」
柊に言ったら、ものすごく興奮するであろう単語だ。
柊の愛読書を拾ったときに見せてもらった挿絵が鮮明に甦ってくる。
「ま、簡単に言えばそうだけど、アタシは好きじゃないな、ああいうの」
会長は苦笑いを浮かべる。
「同人ってのは、簡単に言うと漫画の二次創作なの。漫画家になるために今は同人を描いてるの。あ、これも皆には内緒ね」
言いながら、再び棚に目を落としていく。
昨日、美少女フィギュアを買ってたのも資料用としてなのだろうか。
でも確かフィギュアって結構高くなかったっけ?
学生の小遣いでは、大量に買えるものではないはず。
ということは会長はそこそこの金持ち?
実家が厳しい理由も、うなずける。