漫画家の仕事はハードすぎる
衝撃的過ぎて、オレは手渡そうとしたカゴから手が離せなかった。
「会長……ですよね?」
「や、やだなぁ、人違いですよ……」
言って、慌てて顔を伏せ、急いでその場から逃げようとする。
「いやいや!だったら顔をちゃんと見せてくださいよ!!」
少し興奮気味なオレは勢いよく、会長の肩に両手を置いた。逃がさないように。
すると。
「ん?」
ポンと後ろから誰かがオレの肩に手を置いた。
こんなときに誰だと思い、後ろを振り向くと店員と警備員が後ろに立っていた。
そして20分後。
近くにあったベンチに二人で座る。
「どうぞ」
自販機で買ってきたオレンジジュースの入った缶を会長に手渡す。
「あ、ありがとう。お金……」
言って、会長はごそごそとカバンから財布を探す。
「いや、これぐらいいいですよ。それに巻き込んでしまったお詫びと言うか……」
ばつが悪くなり、後ろ髪をぼりぼりとかく。
先程、警備員に肩を掴まれたのは、オレが会長が嫌がってるのに無理矢理、引き止めているように見えたらしく、店員と一緒にそれを止めに来たのだ。
一連の事情を説明し、解放されたのが先程というわけだ。
いや、今はそれよりもずっと気になっていたことがある。
横にいる会長の姿をチラッと見る。
一切おしゃれのない質素な服装に特徴的な一つ結び。でも結ばれたその髪は所々、ボサボサだ。
この前校門で会った時とは雰囲気も何もかもが違う。
その理由が気になるが、今は聞けるような状況じゃないしな。
と、思い、口を閉じていると。
「びっくりしたよね」
会長の方から口を開いてきた。
「アタシさ、漫画家目指してるんだよね」
会長は俯いたまま、話し始める。
「漫画家……?」
会長が?その言葉にオレは目を見開いて驚いた。
会長には到底、縁のなさそうな職業だと思ったからだ。
オレの勝手なイメージだが、オフィスビルでバリバリと仕事をこなしそうな、キャリアウーマンの姿がしっくりくる。
「アタシの家、結構厳しくてさ。漫画とかゲームとか、皆が当たり前に手にしてるものに中々触れ合えなくて。だからお小遣いを貯めて、初めて漫画雑誌を買ったとき、衝撃だったんだ。こんな面白いものが描ける人がいるんだって。それからアタシの夢は漫画家になった」
その時のことを思い出しているのか、会長はふふっと笑った。
「あ、このことは内緒にしててね。普段の優秀な会長のイメージが崩れるから。この姿がバレたのは君が初めてだだから」
指を口元に立て、黙っててのポーズ。
その姿が妙にかわいらしくて、オレは少しドキッとした。
「わかりました。誰にも言いません。あ、あと実はもう一つ気になることがあって……」
「ん?なに?」
「名前教えてくれませんか?」
そういえば、未だに会長の名前を知らなかったことを思い出す。
「まったく、生徒会長の名前くらい覚えておきなさい。柏木麻友よ」
会長は呆れたように笑う。
「すいません、柏木生徒会長」
頭を下げて謝ってから、飲みかけのジュースをぐいっと飲む。
そのあとは無難な話をしつつ、時間が過ぎていった。




