結婚するなら
「あ、また生まれる」
「ついに三人目だね、お兄ちゃん……」
陽愛がオレの右手をぎゅっと握る。
「ああ」
「アタシ達の子供が三人も……」
そこまで言ったところで握られていた手を振りほどき、陽愛の頭を叩いてやる。
「いたっ」
「なんでオレ達の子供なんだよ。それよりも早くご祝儀」
言って、叩いた手をそのまま出し、ちょいちょいっと動かし、催促する。
「ちぇー。もうちょっと続けたかったのに」
陽愛はつまらなそうに顔を浮かべながら、持ってる札束の中からご祝儀を渡してきた。
ちなみにご祝儀は一人、1000ドルと決まっている。
「それにしてもこの中で結婚して、子供もいるのって薫君だけだね」
杉原がご祝儀をオレに渡しながら、口を開く。
「そうだな。資産も1位だし、順風満帆な人生だ」
これがリアルならまさしくこの人生は大成功だと言えるだろう。
「でも、まだ何が起こるかわからないのが人生……」
やけに意味深なセリフを呟きながら、柊がご祝儀を渡してきた。
「さて、ご祝儀も渡し終わったし、次はアタシか」
言って、陽愛がルーレットを勢いよく回す。むしろ、勢いよすぎてたまにルーレットが円盤から外れることもある。力、込めすぎだっての。
今はスゴロク型リアル人生体感ゲームをテーブルに広げて、それを囲みながら、皆で遊んでいるところだ。
陽愛が持ってきたそうで、せっかく4人集まったことだし、久々にやってみようということで始めたのだが、これが意外とハマる。
「5だ」
ルーレットが止まり、止まった数字を口にしながら陽愛がコマを進める。
「あ、離婚マスだ」
「え……?」
このゲームで聞いたことのないような単語を聞き、思わず、耳を疑ってしまう。離婚だと……?
「えーと、このマスに止まると好きなプレイヤー一人を選び、もしそのプレイヤーが結婚しているのなら、離婚させることができる。また子供がいた場合、子供一人につき、200万、裁判所に払う。だって」
書かれているマスの文章を読み終えた陽愛がオレの顔を見る。
この中で結婚して子供もいるのはオレだけ……
現実を悟ったその瞬間、陽愛の口元がにやっとつり上がったような気がした。
「ちょっと待て!こんなゲスいマス、このゲームにあったか!?」
リアル人生体感ゲームだけど、リアルすぎんだろ!
オレは思わず、テーブルから立ち上がった。
「あー、実はこれ、新装版なんだよね」
「新装……?!」
「だから、言ったでしょ。人生は何が起こるかわからないって」
柊がテーブルから立ち上がり、オレの肩をポンと叩きながら、そのままゆっくりと座らせた。
「てか、子供一人につき、200万って。合計600万かよ……」
手持ちの札を数えてみるが、60万ほどしかなかった。
「支払えない場合は約束手形を発行するか、所有している土地を売らないとね」
杉原が銀行係であり、そう説明してくる。
「あー、くそ。せっかく土地もあって1位だったのに……」
がっくりと肩を落とし、所有していた土地を売ることにした。
結局、このマスの一件でオレは1位から最下位に転落し、反対に陽愛が一位になり、ゲームに負けるのであった。




