クッキーって歯にへばりつくよね
「えーと、では最後に生徒会からボランティアに参加してくれる生徒を募集しているとのことだ。興味のある者は先生方に申告してくれ。では、本日のホームルームはこれで終わりだ」
日直が号令をかけたあと、教室がガヤガヤと騒ぎ出す。
今日の授業も終わり、待ちに待った放課後であり、明日と明後日は土日なので学校は休みだ。
「さーて、どうすっかな……」
一方オレは席に座ったまま、独り言を呟きながら、これからどうするか考える。
陽愛がいるから遅くまでは遊べないけど、このまま帰るのもつまんないな。
せっかく時間もあるし、どこかで遊んでいこうかな。
と、頭を悩ませていると、ポケットに入れている携帯のバイブが鳴った。
「ん?」
バイブに気づき、ポケットに手を入れ、携帯を取り出す。
ディスプレイを見るとLINEが届いていた。
送ってきたのは陽愛。そこにはこう書かれていた。
「クッキー焼いたから早く帰ってきてね。待ってまーす♪」
と、文と一緒にご丁寧に写メまで添えられていた。
「ははは……」
それを見て思わず、笑ってしまう。
陽愛は昔からオレが悩んでいると決まってタイミングよくこういうメールなどを寄越してくれる。
しゃーない。言われた通り、早く帰るか。
それに陽愛のクッキーは市販の物と変わらないくらい美味いし。いや、むしろ市販の域を越えてるとすら思える。
頭の中で考えをまとめ、カバンを手に取り、イスから立ち上がったところで目の前の席に座っている柊とその机の前で楽しそうに喋っている杉原の姿が目に入った。
どうするかなとしばし考え込んだのち。
「なぁ!」
思いきってオレは二人に声をかけた。
そして二人とも二つ返事で来てくれると言ってくれたので、三人仲良く仲良く、オレの家へと向かうのだった。
「それにしてもお兄ちゃんのためにクッキーを焼いてくれるなんて、羨ましい限りだね」
学校を出て家へ帰る道中、オレの左隣にいる杉原がそんなことを言ってくる。
「まぁ、そうだな……」
それに対し、顔をしかめ。つい微妙な言葉を返してしまう。
陽愛の場合、善意だけとは考えにくいからな。
確実に点数稼ぎをするか、材料に娯薬でも仕込んでる可能性もあるし……
「なんだか、難しい顔してるね」
オレの右隣を歩く柊がオレの横顔を見ながら、そう言った。
「素直に喜べない、ツンデレってやつじゃない?」
「ああ、なるほど」
杉原の言葉に柊が納得したようにポンと手を打った。
「いや、違うけど……」
しかし、オレの声は二人には届いていないようで二人は家につくまでツンデレについて物議を醸すのだった。
「んー!おいしい!!」
噛んだ瞬間、口の中に広がる香ばしさに杉原が興奮しながら声を上げた。
「…………!」
よほど美味しいのか、一言も喋らず、柊はもくもくとクッキーを口に運ぶ。
「えへへ。お口にあって何よりです」
二人から誉められて嬉しいのか、陽愛は可愛らしい笑みを浮かべた。
先程出来上がったばかりの陽愛が作ってくれたクッキーを四人でテーブルを囲みながら、食べる。
ちなみに娯薬は入ってなかったので、オレとしては一安心だ。
「いや~、僕もクッキーは作ったことあるけど、ここまで上手くは作れないなぁ……」
クッキーをかじりながら、杉原は感心したように呟く。
「いい奥さんになれそう……」
クッキーを食べ、あらかた満足したのか、柊がようやく口を開いた。
柊はまだ陽愛に対しては人見知り中で、昨日も中々口を開かなかったのだが、それを忘れるくらいクッキーが美味かったみたいだ。
これを皮切りに色々喋ってくれるといいのだが。
「奥さんかぁ……お兄ちゃん。いつでもいいからね」
オレの隣に座っている陽愛がオレの顔を見ながら、真剣な表情をする。
「何がだ?」
クッキーを頬張りながら問い返す。
「プロポーズ」
「エイプリルフールは終わったぞ」
そう言って、紅茶を飲みつつ、軽く受け流す。
うん、紅茶も美味い。
陽愛はオレ達が中学に入った頃、淑女になる!と突然言い出したことがあり、その時、紅茶の美味しい淹れ方をネットの情報を頼りに学んだことがあった。
オレも母さんも父さんも毎日、毎日紅茶ばかり飲まされてうんざりした経験がある。
今となってはほろ苦い思い出であるが、当時は辛かった。中学の友達にハーブみたいな匂いがすると言われたほどだった。
「えー。アタシは本気なのにー」
オレの反応にブスッと顔をしかめる陽愛。
そんなオレ達のやりとりを見て、柊と杉原はクスクスと笑うのだった。




