探れるぜ!
「ん、んん……」
翌朝。外から聞こえてくる小鳥のさえずりと共に目を覚ます。
「ふわぁ……」
寝ぼけ眼をこすり、ベッドから起きようと上体を起こしたとき、何やら良い匂いが鼻を襲った。
「んん……?」
鼻をスンスンとさせ、匂いの正体を確かめる。
食パンの焼けたような香ばしい匂いに、それと合うであろうコーヒーの匂い……
そしていい匂いがするキッチンの方へ向かい、ドアを開ける。
すると、そこには。
「あ、お兄ちゃん、おはよー」
エプロンを着けた陽愛がキッチンに立っていた。
「おはよー……って、お前が朝御飯作ってくれたのか?」
見れば、食パンを乗せている皿の横にスクランブルエッグとウインナーも添えられている。
「そうだよー。だってお兄ちゃんってば、朝はコーンフレークか食パンしか食べてないみたいだし」
言って、戸棚に入っている食べ掛けのコーンフレークを見せてくる。
「朝は時間ないから仕方ないだろ」
「とかいって、本当はギリギリまで寝てるからでしょ?」
ジロッとオレの目を覗き込むように見てくる。
「うっ……」
その鋭い眼差しにたまらず、たじろぐ。
さすが、我が妹、バレてる……
「だから、今日の朝御飯はアタシが作ったの」
「そっか。ありがとうな」
言いながら、陽愛の頭を撫でてやる。
「へへへ~。誉められた~」
陽愛はものすごくだらけきっただらしない笑みを浮かべながら、幸せそうに笑った。
「そういえば、お前学校は?」
出来立てのパンをかじりながら、陽愛にたずねる。
今日は金曜だから普通なら学校があるはずだ。陽愛の通ってる女子高はオレのアパートからはとてもじゃないが、通えない距離だし、今から行っても昼過ぎになる。
「あ、実は今日、開校記念日で休みなんだ~。だから日曜のお昼過ぎまでは、お兄ちゃんと一緒にいたいんだけどなぁ……」
言いながら上目遣いでオレの顔を見てくる。
「わかったよ。その代わり、オレが寝る度にベッドに潜り込むのはやめろよ」
「えー。もう仕方ないなー」
納得がいかないとばかりにブスッと頬を膨らませる。
何を隠そう、昨日も潜り込まれたのだ。ったく、この歳で兄と一緒に寝るなんて普通ならありえんぞ。
中学の同級生にそのことを言ったら、羨ましいから爆発しろ!とか言われるけど。
「あー、うまかった。ごっそさん」
あっという間に食べ終え、最後の一口であるコーヒーをごくっと飲んで、心地よい満足感に浸る。
「お粗末様でした。じゃ、お皿片付けちゃうね」
言って、陽愛は皿を集め、流し台まで持っていく。
うーん……
こういうところは有り難いんだけどなぁ……
好きな人でもできれば、陽愛も少しはオレから離れるのかな。
なんて考えてるうちに家を出る時間になった。
「あ、そろそろ行かなきゃ!じゃ、陽愛行ってくる!」
言いながら、玄関へと向かう。
「はーい!いってらっしゃい!!」
その言葉を聞いてからオレは家を出た。
「ふっふっふ、この時を待っていた。お兄ちゃんがいない今がチャンス。探り放題……」
「ん、なんか急に寒気が風邪でもひいたかな……」
通学路を歩いている途中、急に背筋から寒気が襲ってきたので身震いしながら、額に手を当てる。うん、熱はないみたいだな。
引き初めが肝心だと言うし、今日の夜は夜更かしせずに早めに寝ることにしよう。