ついに登場
「会いたかった、会いたかった、会いたかったよー!!!」
言って、オレの背中に回している腕をぎゅっと締め付けてくる。
「ちょ……!」
苦しすぎて声が出ない……!
セミロングほどの長さの茶髪、オレより一回りほど低い身長、それにこの声。
間違いない。陽愛だ。
それにしても、なんで陽愛がここに……
引っ越し先は確実に押し掛けてくるのが目に見えてるから教えてなかったのに。
いや、そんなことは今はどうでもいい。とりあえず早く解放してもらわないと息もできない……!
オレは必死にぶらーんと垂れ下がっている状態の手で腰の辺りをタップする。
「ああ、この匂い、感触、肌触り……陽愛はやっとお兄ちゃんに出会えました……」
しかし、肝心の陽愛はオレの必死のSOSも無視で一人、優越感に浸っている。
「ど、どうしたの?」
と、その時、後ろにいるので詳しくはわからないが、声から察するに玄関先での陽愛の大声に驚いた杉原がこちらまでやってきたらしい。
「……!」
瞬間、オレを抱きしめていた陽愛の腕の力が弱まる。
「えほっ、えほっ……!ったく、どんな力してんだ……!!」
ようやく解放され、喉に手を当て、咳き込みながら、恨めしく、陽愛を見る。
すると、陽愛はわなわなと身体を震わせていた。
そして。
「お兄ちゃんに彼女がーーーー!!」
まるで雄叫びのように天井を見ながら、声を上げた。
「うるさいわー!!そして彼女違う!!」
拳を作り、ぼかっと陽愛の頭を殴る。
確かに杉原は可愛いが……ってそれも違う!あいつ、男!!
「な、なに?今の大声……?」
すると、オレも杉原も中々戻ってこず、さらに陽愛の大声に驚いた柊が玄関までやってきた。
「あ……」
柊の姿を見て、まずい。そう思ったが、時すでに遅し。
「お兄ちゃんが二股かけてるー!!!」
陽愛が再び、雄叫びを上げた。
「うえーん……もうお兄ちゃんは陽愛の知らないお兄ちゃんになってしまったー……」
そして床にへたりこみながら、えんえんと泣き出した。
「「……」」
事態についていけず、じっと陽愛を見続ける二人。
「あー、もう……!」
たまらず、苛立ってしまう。
なんだこのカオスな空間!!




